管理課の飲み会が開かれている居酒屋に着くと、店員に2階の大広間まで案内された。
大広間の閉められたふすまを開こうとしたその時、中から足元が少しふらついた中年のおやじが出てくる。
確か、管理課の係長だったか。
俺の顔を見ても、何もなかったかのように通りすぎるこいつ。
そして、2、3歩進んだ後、すごい勢いで振り返った。
「専務っ?!……専務ですよね?!
えっ、どうしたんですか?
まさかっ、管理課の飲み会に?
えーっ、マジかよ!
おいっ、みんなっ!大変だぞっ、ヤバイヤバイっ、専務がお越しになった!」
ヤバイのはおまえだ。
俺はそう言いたくなるのを我慢して、全員が注目するなか部屋に入ることになった。
そのあとは、もう、てんやわんや。
管理部長に握手をされながら部屋の奥まで連れていかされ、なぜだか全員から拍手を受ける歓迎っぷり。
肝心の牧野の姿が探せねぇ。
酔って寝ている奴を除いて全員が立ち上がり、俺を珍しそうに眺めている。

「今日はどうされたんですか?」
そう部長から聞かれ、
「近くで管理課の歓送迎会が開かれてると聞いたから、寄っただけだ。
気にせず続けてくれ。」
そう言って目では牧野を探す俺。
その時、部屋のふすまが開いて男が一人入ってきた。
それを見て、
「徳井くんっ、専務がわざわざ歓送迎会に来てくれたよ。」
そう叫ぶのを聞いた。
こいつが徳井か…………。
俺ほど背は高くねぇけど、上質なスーツを着こなしてなかなかいい男ではある。
俺の前まで来ると、
「管理課に異動になりました徳井です。」
と深く頭を下げた。
俺はそんなこいつを無視して、目線は部屋の入り口へと向ける。
たった今、部屋に入ってきたのは、俺が会いたかった女。
俺を見てすげー驚いてやがる。
「道明寺」と呼びそうになって慌てて「専務」と言い替える姿に、くすぐったい気持ちで一杯になった。
「さぁさぁ、どうぞ、お座りください。」
部長が俺を管理職のおやじたちと同じテーブルに座らせようとしたが、
「いえ、結構です。」
そう言って俺はボケぇと突っ立ってる牧野の側まで歩いていくと、
「どこ行ってたんだよ。」
そう言って栄養管理課の連中が座るテーブルにあぐらをかいて座った。
全員が息を飲んで俺のことを見ているのは分かってる。
あとで、牧野にすげー怒られるのも分かってる。
けど、牧野がさっき部屋に戻ってきた時にチラッと見えた、手の中の小さな紙が何なのか、気になってしょうがねぇ。
徳井と牧野が部屋にいなかったのも気になる。
あの男に何か渡されたか?
そう思いながら牧野の方を見ると、もう手の中には何もない。
「専務、何のみます?」
俺の正面に座るやつがそう声をかけてくるが、
俺は別にここに長居するつもりはない。
目的はただひとつ。牧野を連れて帰ること。
「おまえ何飲んでる?」
隣の牧野に俺がそう聞くと、周りのやつらが固唾を飲んで見ている。
「……ウーロンハイ。」
「……なんだそれ。」
聞いたこともねぇ飲み物。
「ウーロン茶と焼酎……」
「酒かよ。」
牧野の手からコップを奪うと、俺はそれをゴクリと飲んだ。
「まじぃ……。」
そんな俺に、
「ちょっと、道明寺っ!」
慌てた牧野が叫んだのは、俺のプライベート呼び。
固唾を飲んで見ていたやつらが一気にざわつき出した。
「えっ?専務と牧野さんって知り合いなの?」
「どういう繋がり?」
「同級生?」
「いや、あのっ、え~とっ、」
一気にヒートアップした俺らの周り。
なんて答えればいいのかジタバタする牧野に苦笑しながら、視線をあの男に向けると、徳井も俺らのことをまっすぐに見ていた。
「専務も二次会行きますよね?
これからカラオケに移動しますけど。」
女たちがすげー期待を込めて、食い入るように俺にそう言ってくるのを、
「俺はこいつと家でゆっくりするので。」
牧野を見ながらそう言ってやる。
すると、
「キャーーーーっ!」
「うそぉーーー!」
と黄色い声と共に
「信じらんないっ!」
と隣から怒りの声がした。

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