残された男たちはあきらの提案で行きつけのバーにいくことにした。
店の奥の仕切られたスペースに座る。
「で?見合いっつーのはいつものあれか?」
「ああ。」
「ったく、よくやるよおまえも。」
あきらがそう言うのも無理はない。
俺の『見合い』はもう2年近く続いてる恒例行事だ。
きっかけは2年半ほど前。
女に全く興味を示さない俺を見かねてババァが政略結婚の話を持ちかけてきた。
相手は同じ年のどこかの令嬢で、運悪く姉貴の知り合いでもあった。
姉貴が言うには、性格も容姿も申し分ないいい女だと。
何度か会う内に姉貴が言う『良さ』は分かったけれど、俺の気持ちは微塵も動かされなかった。
何度か会った末、
「俺にその気はない。」
そうきっぱり断りを入れると、その女は引き下がったが、何かを期待していたババァはしぶとかった。
「このままだと結婚どころか恋愛すら出来ないわよ、司。
あなたには道明寺家の後取りを後世に残すと言う大役が課せられてるの。
お相手を見つける努力だけでもしてもらわないと困ります!」
それから、俺の『見合い』という恒例行事が始まった。
2ヶ月に一度、ババァが選んだ相手と見合いをさせられている俺。
はじめはめんどくせぇと渋っていた俺も、この見合いさえ続けていれば、ババァから結婚だの恋愛だのうるせぇことをグチグチ言われなくて済むと言うことに気付き、今では言われるがままに恒例行事に顔をだし、毎回一時間で終わらせてくる義務になっていた。
先月もセッティングされたお見合い。
その相手が今日の女だった。
「司の母さんに正直に言えよ、好きな女がいるって。」
俺の正面でウィスキーを口に含みながら総二郎が言う。
「そうしろ。そしたらくだらないお見合いもしなくて済むだろ。」
あきらも言う。
「ああ。俺もそうしてーと思ってる。
けどな、…………」
「何だよ。」
「あいつの、……牧野の気持ちが分からねぇんだよ。いつも肝心の話になると逃げやがる。
ろくに好きだって言わせても貰えねぇ。」
そんな俺の言葉に気の毒そうな顔をしやがるこいつら。
その時、類がポツリと言った。
「司はどうして牧野なの?」
「あ?」
「どうして牧野に惹かれたのかなぁと思って。」
改めてそう聞かれると言葉に表したことがないことに気付く。
でも、明確な答えは俺の中にある。
「綺麗だなって思ったんだよ。」
「……綺麗?」
「ああ。
あいつが笑う顔も、怒る顔も、………泣き顔も、すげー綺麗だと思う。
特別美人っつー訳じゃねぇのに、どんな表情も俺をドキッとさせるんだよ。
俺だけを見ろ、他のやつらに見せるなって。」
「ップ……すげーのろけ。」
「司の口からこんなのろけを聞ける日が来るとは思わなかったな。」
「うるせー。」
真面目に話して損したな。
そう思って腕時計をみると、もうすぐ11時。
今日はマジでもうあいつに会えないのか……。
その時、あきらが言った。
「司、この通りの先にある店に牧野いるぞ。
滋から、反省したら迎えに来いってさっきメール来た。
行ってこいよ。」
ニヤニヤ顔のF3
「今日は朝帰りコースか?」
「久しぶりの甘い夜か?司。」
「ムカつく、司。」
「うるせー。
あいつのとこに、行ってくる。」
あきらに教えられた店に着くと入り口に滋の姿。
俺を見るなり、
「遅い。」と一言。
「わりぃ。」
ここは完全に折れてやる。
「つくしのこと、頼んだよ。」
「おう。……あいつなんか言ってたか?」
泣かせたか?怒らせたか?
そう思って聞いた俺に、
「司のことは全く話題にも出なかった。」
とムカつく答え。
でも、
「つくしはそういう子だから。
弱いとこは人に見せないの。
だから、……あとはお願いね。」
と、真剣な目で俺を見る滋。
「滋、サンキュ。」
俺はそう伝えて店の中に入った。
店に入ると薄暗い店内の奥に入り口を背にして座る牧野。
そしてその向かえに桜子が座っていて、俺の存在に気付くと牧野に何かを言って席をたった。
俺はそのまま牧野の席まで行くと、
座る牧野の耳元で、
「店出ようぜ。」
そう呟くと、ハッとした顔で振り替えるこいつ。
「それとも、ここで込み入った話するか?」
店内の他の客に目線を移してそう言う俺に、
「…………出ます。」
牧野がドキッとするほど綺麗な顔でそう言った。
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