『お見合い』
その言葉にここにいる奴等が固まった。
唯一、総二郎だけが楽しそうにヒューっと口笛を吹き、あきらに頭を叩かれている。
「と、とにかく、せっかく来てくれたんだからワインでもどう?」
この場を取り繕うため、滋がそう言うと、
「グラス持ってきます。」
と、牧野がすかさず立ち上がりキッチンに向かう。
それを見て、あきらが俺の膝を蹴りあげ、類もテーブルの上にあったビール缶を投げつけてくる。
そして、桜子には
「道明寺さん、最低です。」
と小声で言われる始末。
「勘違いすんなっ、俺は……」
「反論は先輩にどうぞ。」
「……わかってる。」
俺はそう言うと、キッチンに行ったあいつを追った。
………
リビングと対面式になっているキッチン。
食器棚からグラスを取り出した牧野は、俺の存在に気付いて
「はい。」
と、そのグラスを差し出してくる。
無言でそれを受け取る俺に、
「専務から渡してあげてください。」
とぶっきらぼうに言うこいつ。
「牧野、あのなっ、」
「早く持っていってあげてください。」
「先に俺の話、聞けよ。」
「お見合いしたんですか?」
まっすぐに俺を見つめてそう聞くこいつに、
嘘は言えない。
「ああ。でもなっ、」
「花沢類っーーー!
この人、酔っぱらってるみたいだから、そっちに連れていってーーー。」
俺が説明しようとしたのに、いきなり叫びだすこいつ。
その声に類が大股でリビングから来やがる。
「まだ話してねぇから、類はあっちに行ってろ。」
「やだね。牧野のお願いは俺聞くことにしてるから。」
「類、てめぇー、どっちの見方だよっ。」
「?牧野に決まってるでしょ。」
俺と類が言い合いをしているうちに、その横を牧野がすり抜けてリビングに戻っていく。
結局、見合いのことについて説明する暇もなく、類に自業自得と呟かれながらリビングに戻った。
ワイン一杯…………と誘った滋も、それ以上この女を長居させるつもりはないらしく、30分ほどで、「あたしたちもこれから出掛けるから。」と、女を帰らせた。
玄関まで見送ったあと、リビングに戻ってくるなり、
「あたしたち女3人で夜の街に繰り出してくるから、F4もこのあとは好きにして。
ここで飲んでてもいいし、どこかに移動してもいいし。
とにかく、今日の滋ちゃんの誕生会は一旦これにてお開き!」
いきなりそう宣言しやがった。
突然の宣言に、
「おいおいっ、そう来たか」
「俺らはどうする?」
と顔を見合わせるお祭りコンビ。
そして、牧野と桜子も
「滋さん、ほんとに今から出掛けるんですか?」と戸惑っている。
そんな二人に、
「早く出掛ける用意してきて。
飛びっきりおしゃれしてきてね。
いい男がいるところに連れていってあげる!」
と、ガッツポーズまでして桜子と牧野を部屋に押し込む滋。
このままだと、今日中にマジできちんとあいつと話せねえ。
「滋、俺に牧野、預けてくれねぇか?」
「ダメ。」
速効却下。
「頼む。」
「頼まれませーん!今日はあたしの誕生日だから、あたしの言うことを聞きなさいっ。」
マジかよ。
そう思ったとき、桜子と牧野の部屋から同時に出てきた二人。
それを見て、俺の眉間のシワが深くなる。
「牧野、着替えてこい。」
着替えたばかりのこいつに俺がそう言うと、
「はぁ?」
と睨んでくるこいつ。
「短すぎだ、そのスカート。
パンツに履き替えてこい。」
牧野が選んだ服は膝が半分見えるぐらいのワンピース。
恋愛ボケの俺にはそれがむちゃくちゃ色っぽく見えてヤバイ。
「着替えてこい。」
もう一度言ってやると、すげー俺を睨みながら部屋に戻っていくこいつ。
そして、5分後。
リビングに集まる俺らの前に現れた牧野は……、
さっきのワンピースよりも10センチは短いミニのスカートに着替えてやがる。
それを見て、ブホッと吹き出す類と、
「さすが、牧野。」とゲラゲラ笑う総二郎。
「つくし、むちゃくちゃ可愛い!」
「先輩、似合ってます。」
そうだった。
この女はこういう女だった。
俺の言うことを素直に聞いた試しがない。
俺の方にチラッとだけ視線を向けた牧野と目が合う。
マジでそれで行くのかよ…………そう言いたい俺の気持ちも虚しく、
「じゃあ、行ってきまーす。
あきらくん、あとはお願いね。」
と、女3人は夜の街に繰り出していった。
玄関がパタンと閉まる音がしたあと、
F3が一斉に俺を見る。
「バカ司。」
「あほっ。」
「クルクルパー」
好きなこと言いやがるこいつら。
わかってる。
お前らに言われなくても俺が一番分かってる。
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