出来ない女と、しない男 14

出来ない女と、しない男
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実家での気まずい雰囲気から一変、この人の胸に抱きしめられて、至近距離で聞いた『好き』という言葉。

でも、今すぐに専務に伝えられる言葉を用意していないあたし。
本気で恋愛対象として見れるかと問われれば、
きっと答えはNO。
それほど、あたしはこの人のことを何も知らない。
一目惚れやフィーリングで人を好きになったことがないあたしにとって、専務と知り合ったこの数ヵ月、恋に落ちるほどのエピソードはない。

でも、…………専務と一緒にいる空間は、
…………嫌ではない。
以前、専務があたしにコーヒーを淹れてくれながら
「俺といて気まずくねぇか?」と聞いてきた。
どういう意味ですか?と聞き返すあたしに、
「俺が男だから。」
と言われた気がする。

その言葉が今も頭から離れない。
悲しい恋愛を経験してから、あたしは恋に臆病だ。
どんなにいい人でも、恋愛要素が絡んでくるとその場から逃げ出したくなる。
二人きりでいるなんて、もっての他。
花沢類からは恋愛恐怖症だとお墨付きまで貰った。

そんなあたしが、専務とは……一緒にいられる。
「気まずくねぇか?」
その言葉で、『あー、そうだった』なんて思い出すほどに、専務といても気まずさを感じない。

乱暴だけど、言葉の裏には優しさがあって、
強引だけど、最後はクスッと笑って折れてくれる。
そんなこの人はたぶんあたしにとって、
『いい人』なのは間違いない。

だからって、それが『好き』かと聞かれれば、
素直にコクンと頷くのには抵抗がある。
専務もめんどくさい男だけど、あたしはそれ以上にめんどくさい女かもしれない。

そんなあたしが抱きしめられて、コロンの香りに酔いしれそうになった瞬間、
絶妙なタイミングで、最悪のタイミングで、
「コラコラっ、人のうちの前でなにイチャイチャしてるんですか~?」
と滋さんの声。

慌てて専務から離れて門の方を見ると、
ニヤニヤ顔の滋さんと桜子の姿。

「車が止まる音がしたから誰かと思って出てきたら、猛獣に捕まるつくしが見えたから。
お二人でお出掛けでしたか~?」
完全に尋問口調。

「うるせー。
この状況で少しは気を効かせるっつーことが出来ねぇのかよ、おまえは。」

「これでも十分気を効かせてあげたつもりだけど?ね、桜子。
それとも、『声だけじゃ物足りなくて、どうしようもなく会いたくて』のところで声かければよかった?」

「っ!聞いてたのかよっ!」

「聞こえちゃったの。でも、司があんな甘えた声出すんだぁ~へぇ~意外だな~。」

「うるせーっ。」

滋さんの容赦ないからかいと、桜子の怪しい笑み。
そんな状況に居てもたってもいられず、
「もう遅いから、あたし入るね。」
そう言ってジリジリと逃げるように家へ入ろうとするあたし。

そんなあたしの腕をガシッと捕まえて、
「また、電話する。」
と熱っぽい目で専務が言った。

家の中に入ったあたしは、
地獄を見た。

滋さんと桜子に両側をガッシリ押さえられたままソファに座らされて、
専務とのことを根掘り葉掘り吐かせられた。

誤魔化したくても誤魔化しようがない。
だって彼女たちは、
さっき専務の口から出た『好き』も、ちゃんと
盗み聞きしていたから。

全部話すだけ話したあたしに、意外にも滋さんが言った。
「でもなー、司はおすすめ出来ないなぁ。」

「え?やっぱりそう?」

「うん。あいつにまともな恋愛が出来るとは思えない。」

「専務ってそういう人?」

「んんー。」

唸ったまま黙りこむ滋さんと桜子。
それを見て、あたしは思わず呟いた。

「やっぱり、女たらしなんだあの人。」

その言葉に、両側に座る二人が同時にあたしのことを見る。
そして、次の瞬間、
「ギャハハハー。」
「いや、いや、そうじゃなくてっ。」
「女たらし?司が?」
「先輩、何言ってるんですか?」

とゲラゲラ笑い転げる二人。

「司も可哀想に…………。」
「先輩、道明寺さんに一番似合わない言葉ですよそれ。」

「……そうなの?でも、……」

「司ほど女性に興味を示さない男はいないよね。類くんにも勝ってるほど。」

「確かに。道明寺さんが女性に『また、電話する。』なーんて言ってるの凄いことなんですよ、先輩!」

あたしの着信履歴の『女たらし』は、
どうやら女たらしではないらしい。
そうなると、俄然疑問が溢れ出す。

どうしてあたしなの?

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