出来ない女と、しない男 13

出来ない女と、しない男
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「お邪魔します。」

玄関まで出てきたパパとママにそう言って、スマートな動作で靴を揃えて入っていくこの人。

「いらっしゃい。夕飯は?」

「済ませてきました。」

「じゃあ、お茶でも。」

あたしのあたふたなんてお構いなしにもてなす両親と、もてなされる専務。
こういうとき、改めて感じる。
この人は根っからのお坊っちゃんなんだって。
こんな狭い茶の間のテーブルを前にしても、姿勢よく正座で座り、綺麗にお茶を飲む。

いつもの口の悪さや態度の悪さなんて微塵も感じさせないスマートさに見とれていると、お茶菓子を持ってきたママがとんでもないことを言い出して、あたしは一瞬にして固まった。

「つくしから話は聞いてます。
同じ会社で同じ課なんですって?」

「…………。」
「…………っ、ママっ!」

「出身は確か東北でしたっけ?」

ヤバイ。
完全にこの状況はヤバイ。

そんなあたしの叫びも虚しくママは勝手に続ける。

「谷さん、でしたよね?
今は独り暮らし?」

「ママっ!」

「何よ、聞いてもいいじゃない。
つくしとお付き合いしてくれるなんてレアな人よ。」

「ママっ!」

「つくし、さっきからうるさいわよ。」

もう、この状況をどうすることも出来ないあたしは、チラッと隣に座る専務に視線を送ると、
超絶不機嫌な顔であたしを見つめてくる。

「あ、あのさ、明日も仕事だし、そろそろ帰ろうかな。ね?」

「…………。」

「ほらっ、迎えに来てくれたんでしょ?
行こうっ。ね、行こうっ。
パパ、ママ、また今度ゆっくり来るから。」

もうこうなったら逃げるしかない。
専務のスーツの裾を引っ張りながら足早に玄関へと向かい、「またね。」と、ブンブン手を振って実家を後にする。

家の前にとまる高級車まで無言で歩いていき、
そこで、「あたしは電車で帰るので……」
そう言いたかったのに、
「電車で…………」と言ったところで、強引に助手席に押し込まれた。

専務の高級車に乗せられて大河原邸まで30分。
今のところ、…………会話なし。

何から話せばいいのか分からない。
別に浮気現場を見られた訳でもないし、やましいことは何一つない。
それなのに、口から今にも出そうな言葉は
「ごめんね。」の一言。

何回目かの赤信号で止まった車。
その時、黙ったままだった専務が口を開いた。

「まだ、……続いてるのか?」

「……え?」

「谷って奴と。」

「……いや、もう昔のはなし。
パパとママには話すタイミングがなくて……。
ごめんね、ママ、勘違いしたみたい。
……今度ちゃんと話しておく。」

言いたかった『ごめんね』を言ったのに、隣からの返事はなし。
また無言のまま車は走り出す。

大河原邸の前。
ゆっくりと車が止まるのを確認して、あたしは助手席から降りた。
専務も車を降りてあたしのそばまで歩いてくる。

「ありがとう……ごさいました。」
目線を合わせるのが気まずくてうつむいたままそう言ったあたし。

そんなあたしの頭上から専務が言った。

「今日はどうしても声だけじゃ無理だった。」

「え?」

「おまえに会いたくて堪んなかった。」

その言葉に思わず顔をあげて専務を見ると、

「それなのに、他の男の話なんてきかされてよ。」
と、上げたばかりのあたしの顔をグイッと下に向かせる専務。

そして、
「嫉妬して情けねぇ顔になってるから見るな。」
そう呟いた。

その声が、今まで聞いた専務の声のなかで、一番拗ねていて、弱々しくて、可愛くて。
だから思わず下を向いたままクスッと笑うと、

「笑ってんじゃねーよ。」
とあたしの頭をグシャグシャとかき混ぜて、
そして、
そのままあたしのことを抱き寄せた。

「ったく、恋愛っつーのはこんなにめんどくせぇもんかよ。」

「はぁ?」

「声だけじゃ物足りなくて、どうしようもなく会いたくて、会えば近付きたくて……。
めんどくせぇのに、全然嫌じゃねーんだよ。
おまえが好きだから、めんどくせぇのも嫌じゃない。」

はじめて聞いたこの人からの『好き』

「好きって…………あたしのことが?」
抱きしめられたまま、咄嗟に聞き返したあたしに、

「今さら聞くなバカ。」
と小さく笑った。

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