「四六時中、おまえのことが頭から離れねぇ。」
そう言った俺の言葉にでかい目をさらにでかくして固まるこいつ。
嘘でもなんでもねぇ。
ここ最近の俺はこいつのことが頭から離れねぇ。
怒った顔も睨んでくる目も、すっぴんで色気のねぇ部屋着のこいつも、少しでも気を緩めると俺の思考に勝手に入り込んでくる。
今まで経験したことのねぇこの現象に俺自身が一番戸惑っている。
だから、どうにかしろっ、おまえのせいだ。
「おいっ、聞いてるのか?」
固まったまま俺を見つめるこいつにそう言うと、
「…………専務、主語と述語、できれば形容詞などを交えて言ってもらわないと意味が分からないんですけど、」
と、少しだけ困った顔のこいつ。
「あ?」
「あたし、何か不味いことしました?
四六時中、専務の頭から離れないほど、何か気に障るようなことしましたか?」
「……おまえ、」
そうじゃねぇ。
そういう意味じゃねーよっ、そう言おうとしたのに、さらに困った顔で続けるこいつ。
「いや、確かに、昨日は酔ってて……そのぉ、しちゃいけないことまでしちゃったのは反省してますけど、」
「しちゃいけないこと?」
「だからっ、あれはハプニングっていうか、トラブルっていうか、」
「あれ?」
「だーからっ、そのぉ、キ、キ、キ……」
「キスしたよな?俺たち。」
笑えるくらい一瞬で真っ赤になるこいつ。
「やっぱ、忘れてねーじゃんおまえ。
キスのあとに爆睡って……」
「ちょっ、声大きいです専務っ。
でも!その事が原因ならあたしだけが悪い訳じゃないですよねっ。
専務だって……でも、……あー…………、
あれはあたしが押し倒したことになるんでしょうか……。」
いつもは強気なのに、思い当たるふしがあるのか、弱気なこいつ。
「このままだと会社の危機だな。」
「はぁ?」
「おまえのことが頭から離れねぇから仕事にも影響する。
仕事が上手くいかねぇと、株価にも響く。
株価が下がるとおまえらの給料が減るぞ。」
「どんな言いがかりよっ。」
「とにかく、解決策は1つしかねぇ。
おまえのことがもっと知りたい。
俺と……付き合わねぇか?」
予想はしてたけど、ここまで鈍感な女だとは思わなかった。
『おまえのことが頭から離れねぇ』
それだけで、普通は通じるところも、こいつには通用しないらしい。
だから言った。
生まれてはじめて言った。
「付き合わねぇか?」
その言葉でやっと通じたらしい。
眉間にシワを寄せて黙って考えてる。
そして、
「専務と……あたしが?」
と小さく呟く。
「おう。」
「付き合う?」
「ああ。」
「……あり得ない。」
:
:
:
あり得ねぇ。あの女っ!
オフィスに戻った俺はイスにドカッと体を預け、心のなかで悪態をつく。
「あり得ない。」
そう呟いたあいつ。
そして、
「そうやって何人の女の人を泣かせてきたんですかっ。ほんと、金持ちでちょっと顔もいいからって調子に乗って!
だいたいね、あたし、これでも一応部下ですからね?
部下に手だして、飽きたらポイって、いつか専務グサッと刺されますよ。
遊んでないで、そろそろ仕事に戻ってくださいっ。こんどエレベーターで女の人泣かせてたら、匿名で週刊紙にリークしますからねっ!」
だれが調子に乗ってるって?
だれが部下に手なんか出したかよっ。
いつ、エレベーターで女を泣かせた?
ったく、勘違いもここまでくると腹も立たねぇ。
怒った顔で俺を睨みながら、そう言ったあいつ。
言ってる内容はめちゃくちゃで支離滅裂なのに、
その顔がすげーかわいいと思ってしまった俺って…………。
俺の頭に居座るあいつをどうにかしたくて会いに行ったのに、これじゃまるで逆効果。
さっきのあいつの顔も声もでけー目も、ますます頭から離れねぇ。
「ったく、厄介な女だな。」
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