出来ない女と、しない男 9

出来ない女と、しない男
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仕事の支度をするために一度邸に戻った俺に、待ち構えていたようにタマから嫌味の嵐。

「坊っちゃんは最近朝帰りが多いですね。
夜な夜な寝ずに待っている使用人たちがいることをお忘れですか?」

「…………。」

「現代は携帯と言う便利な機械もありますから、お帰りにならないなら一言連絡するのにさほど手間もかからないはずですが?」

黙っているといつまでも続きそうなタマの小言。

「わかった。悪かった。
今度からは連絡する。」
部屋まで歩きながらそう言うと、

「坊っちゃん、今度ということは、これからも頻繁にこういうことがあるということですか?
もしかして、どなたかお付き合いされてる方でもいらっしゃるんですか?」
興味津々なタマ。

「うるせーな。いねぇーよ。」

「そうですか……。
そろそろ真剣にお相手を見つけて下さいな。
タマも坊っちゃんの結婚を見ぬままあの世に旅立つことは出来ません。」

「そんだけピンピンしてればまだ死なねぇよ。」

「坊っちゃんっ!」

自室に着いた俺はタマがまだ話したそうにしているのを横目に、タマの鼻先でドアを閉めてやった。

NY生活の四年間も俺の使用人頭として一緒に渡米していたタマ。
その間、プライベートでの外泊など一度もなかった俺が、ここ数ヵ月で2度も大河原邸に泊まっている。

でも、残念ながら俺のプライベートについて一番把握してるタマに、話して聞かせるほどの浮いた話は今のところ何一つない。
昨夜のキスも…………相手があの態度なら……、
一夜の夢かもしれない。

オフィスに着くとデスクの上に書類が置かれていた。
中身を見ると、西田に頼んであった例の件。

栄養管理課の業務内容及び、職員のデータベースまで添付されている。
さすが仕事が早い西田。

業務内容を読んでいくうちに俺の顔が緩んでくる。
逃げるつもりなら逃げれない場所まで行ってやる。

午後の仕事がある程度片付いた頃、
「西田、30分出てくる。」
俺はそう言ってオフィスを出た。

エレベーターに乗り込み、行き先は25階。
多数の社員が働いている広いフロアを抜けて、廊下の先にある目指すは『栄養管理課』と書かれた一番奥のドア。

トントン。

「はい。」

中の返事を待って扉を開けると、そこには30代から40代くらいの女性が3人とあいつの姿。
俺を見て、笑えるほど全員が固まってやがる。

「あのぉ~~。」
そのうちの一番年配の女がやっと口を開く。

「何かご用でしょうか。」

「カウンセリングを受けにきた。」

「あっ、え?あのぉ、せ、せ、専務でいらっしゃいますよね?」

「ああ。」

「食生活のカウンセリングを受けに?」

「ああ、まぁ、そんなとこだな。
担当は牧野つくしにやって貰いたい。」

「…………。」

その言葉に一斉に牧野を見つめるスタッフ。

「牧野さんっ!」

けれど、無言で頭をブンブンふるこいつ。

「早くっ!隣の個室空いてるからっ。」

それでも頭をブンブンふって拒否しやがる。

俺はそれを見て、牧野の席まで近付くとこいつを無理矢理立たせ、
「行くぞ。」
そう言って引きずるように部屋を移動した。

「ちょっと!」

「なんだよ。」

カウンセリング用の小さな個室で向かい合って座る俺ら。

「何しに来たのっ!」

「カウンセリング。」

即答の俺の返事に、ふぅーーーーと深い息をついたあと、

「どんなお悩みですか?」
と睨みながら聞くこいつ。

「あ?悩み?」

「そう、悩み。相談事。」

「…………。」

「だから、ここに来たからには何か食生活で困ってることがあるんでしょ?
例えば、食欲がないとか、最近太ってきたとか。」

「食欲もいつもと変わんねぇし、体重もジムで管理してるから問題ねぇ。」

「は?じゃあ、何しに来たの?」

「…………。」

「…………。」

沈黙とともに、見つめあう俺ら。

「カウンセリング終了です。」

「何でだよっ。」

「何でって悩みもないのに、何をカウンセリングするのよ。
ここは栄養管理課だから、食生活で困ったことがあれば相談に来てください。」

そう言ってパタンとファイルを閉じるこいつ。

「食生活じゃねぇけど、困ってるから相談に来たんだろ。」

「ん?」

「おまえじゃねーと、答えが出せそうにねぇからここに来たんだ。」

マジな俺にさっき閉じたばかりのファイルをもう一度開き、仕事モードの顔で聞くこいつ。

「……どんな相談?」

逃げずに解決しろ。
「四六時中、おまえのことが頭から離れねぇ。
これの原因と解決法を知りたい。」

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