出来ない女と、しない男 7

出来ない女と、しない男
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あいつらが出掛けて20分。
まだあの女は帰ってこない。
痺れを切らした俺は、外に出て大河原邸の門まで歩いていくと、向こうから一台のタクシーが近付いてきた。

大河原邸の前で止まり、タクシーの後ろの扉が開くと、車内の明かりが灯りあいつが財布から金を出そうとしている姿が浮かび上がった。

酔っているせいか、動きが緩慢で金を出すのに手間取っている。
俺はタクシーに近付くと、パンツの後ろポケットから財布を出し一万円札を取り出した。

そして、開いているドアから体を入れ、
「これで。釣りはいらねぇ。」
そう言って運転手にそれを渡し、驚いているこいつの腕をとって車から下ろした。

タクシーが過ぎ去っていくのを眺めていると、
「なんで?」
とうっすら赤い顔で聞いてくるこいつ。

「他のやつらは出掛けた。」

「桜子から聞いてる。専務は?」

「俺は……留守番。行くぞ。」

俺はそれ以上聞かれないように大河原邸の中に入った。

リビングに入り明るい所で見ると、今日のこいつはかなり着飾っている。
合コンだから当然と言えばそうなのかもしれねぇけど、いつものトレーナーとショートパンツに見慣れた俺にとっては違和感がある。

リビングのソファに座って「はぁーーー。」と伸びをするこいつ。

「そんなに飲んだのかよ。」

「久しぶりだったから酔いが早かったみたい。
とにかく帰ってこれてよかった。
専務は?これからみんなと合流?」

「いや、…………酔っぱらいが無事に眠りに着いたのを確認したら帰る。」

自分のことを言われてるのだと気付いたこいつは慌てて、

「あたし?あたしはもう大丈夫だから帰って。
すみません。ご迷惑かけました。」
そう言ってカバっと立ち上がる。
その瞬間、体がグラッとふらついて、慌てて俺が支えてやる。

「大丈夫か大丈夫じゃねーかは俺が決める。
とにかくおまえはソファでもいいから横になれ。」
自分が酔っていることを今更ながら自覚したこいつはおとなしくソファに座り直し、体をコロンと横にした。

「水でも飲むか?」

「ううん。」

「枕は?」

「いらない。…………電器、まぶしい。」

「……オッケー。」

リビングの照明を間接照明に切り替えてやる。
ソファに横になるこいつと、そのソファを背中にして床に座る俺。

俺たちの間に静かな沈黙が続く。

「専務……、」

「あ?」

「独り暮らししたことあります?」

急に何を言い出すのか、訳がわからず振り向いてこいつの顔を見ると、目をつぶっている。

「あたし、滋さんと桜子とここで暮らすようになる前は1年くらい独り暮らしだったんです。
それまで家族四人でせまーいアパートにぎゅうぎゅうになって暮らしてたから、いつも誰かの話し声とか、テレビの音がしてて寂しいなんて感じたこと無かったんですけど、さすがに独り暮らしは寂しかったなぁ。
だから、さっき桜子に電話したとき、みんなで出掛けるって聞いたから『あー、家に誰もいないんだなぁー』なんて久しぶりに寂しく思ったんですけど、アハハ……
そしたら、専務がいて、専務が待っててくれて、部屋にも明かりが付いてて……ちょっと……嬉しかったです。」

俺には経験のないこと。
いつも使用人たちがいて、邸には明かりが灯り誰かが待っていてくれる。
そんな当たり前を嬉しいと思うこいつ。
そして、そう思わせたのは俺なのか。

「わかったから、もう寝ろ。」
照れ隠しでぶっきらぼうにそう言うと、

「……はい。もう寝るので……大丈夫です。
帰ってもらって……いいですよ?」
と、うわ言のように言うこいつ。

それなのに、次の瞬間、
「あっ!!」
と、またガバッと起き出す。

「なんだよっ。」

「タクシー代っ!返してない。
忘れるとこだったっ、すみません、今返します。」
そんなどうでもいいことを気にしてソファの上に立ち上がるこいつ。

「おまえっ、あぶねぇーから寝てろって。」

「わっ!」

「あぶねっ。」

「ギャッ!!」

だから言っただろ。
ただでさえフラつく体なのに、フワフワなソファの上で立ち上がったらどうなるか分かるだろ普通。

こいつの背中に回した腕は、こいつの体を支えきることが出来ず、そのまま二人でソファに倒れ込む俺ら。
驚きで見開かれたこいつの目。
二人の鼻先は10㎝。

「専務……、」

「……俺は言ったからな。」

「え?」

「寝ろって言ったのに、おとなしく寝ないおまえが悪い。」

酔ってるのはおまえか?
それともこんな行動を取ってる俺か?

吸い寄せられるように、こいつの唇にキスをする。
ビクッと揺れて離れていこうとする唇を追いかけて、少し強めに重ねた俺の唇。

逃げそうになるこいつの顎を持ち上げて角度を変えて何度も味わっていくうちにそれだけじゃ我慢できなくなってくる。
男の本能が沸々と騒ぎだし、左手が堪らず体を這って動き出そうとしたその時、
テーブルに置かれたままの俺の携帯が鳴り出した。

そのまま無視して先に進もうとする俺の胸を押し返し、「電話……」と小さく呟くこいつ。
ったく、誰だよこんな時にっ。

そう思いながら仕方なく携帯に手を伸ばし画面を見ると桜子から。

「もしもし?」

「あっ、道明寺さん、先輩帰ってきました?」

「ああ。」

「具合どうです?」

「あー、まぁ、たいしたことねーから、とりあえずソファに寝かせてる。」

「そうですか。道明寺さん、もう帰りますよね?」

「おまえらは?もう帰ってくるのか?」

その辺は色々と問題が起きる前に確認しておきたい。

「あたしたちも、もう帰ります。
だから、道明寺さんも…………」

やつらが帰ってくるなら、さっきの続きは出来ねぇな。
そう思いながらソファのこいつに目線を移すと、
スースーと気持ち良さそうに寝てやがる。

「桜子、早く戻ってこい。」

俺の理性があるうちに。

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コメント

  1. ヒメママ より:

    いつも楽しみに読ませて貰ってます

    最近なかなか面白いつかつくが少なく、以前のを読みたいのですが、何故読めないのでしょうか

    何かしないといけないのでしょうか

    • 司一筋 司一筋 より:

      こんにちは。いつも読んでくださってありがとうございます。
      以前のサイトにあったものは、徐々にこちらのサイトに
      移動しています。
      加筆修正などして移行していますので少しずつになりますが
      今後も全て移動する予定ですので、お付き合いください。

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