出来ない女と、しない男 6

出来ない女と、しない男
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会社のパソコンで社員情報を開く。

管理部 栄養管理課 牧野つくし
栄養士か…………。
出身は東京、出身校は英徳大学。

仕事の合間にパソコンでそんなことを調べていた俺に秘書の西田が、
「専務……どうかされましたか?」
と聞いてくる。

「あ?」

「いえ、あのぉ、さっきから管理課がどうのと呟いていましたので。」

「いや、なんでもねぇ。
…………西田、栄養管理部の業務内容を詳しく知りたい。
調べておいてくれねぇか。」

「はい。承知しました。」

秘書の西田は有能だ。
余計なことは一切聞かない。
こんなときはありがたい。
俺自身、聞かれても答える自信がないから。

最近の俺はひそかに電話が鳴るのを待っている。
また大河原邸での飲み会に誘われることを期待して。
元々、友達と呼べるようなやつらはあいつらしかいない。
だからプライベートで飲む機会も必然的にあいつら以外いない。
俺にとっての唯一の息抜きが出来る時間。

その日の午後、あきらから電話が来た。
仕事が片付いたやつから大河原邸に集合だと。
今日は運よく会食も残業もない。
早めに残りの仕事を片付け1度邸に戻ろうとエレベーターに乗り込むと、25階からあの女が乗り込んできた。

「おう。」

「お疲れ様です。」

相変わらず会社では挨拶だけで、知らないふりを通すらしい。
そんなこいつの態度も無視して、

「今日もおまえたちの家に集まるらしいな。」

そう言うと、予想外の返事が帰ってきた。

「後片づけしておいてくださいね。」

「あ?」

「あたし、今日いないので。」

「…………何でだよ。」

「合コンです。」

携帯を見つめながら淡々とそう話すこいつ。

「おまえもそういうのに行くんだ。」

「行きませんよ。」

「あ?」

意味がわかんねぇ。そんな俺をぐいっと見上げて、

「普段は行きませんけどっ、誰かさんに彼氏いねーだろとか、彼氏ぐらい作れよとか言われたので、行ってきますっ!」

敬礼でもしそうな勢いで言い切るこいつ。

「お疲れ様でしたっ!」

気付けばエントランスの1階。
エレベーターが開くのと同時に小走りで走っていきやがる。
ったく、あの女。
言葉も行動もますます反抗的。

それから2時間後、大河原邸に集合した俺らの中に、宣言通りあいつの姿はなかった。
それでもいつものように呑んで、バカ話から真剣なビジネストークまでさんざんしたあと、そろそろ帰ろうかと思ったとき、滋たちが久しぶりに場所を変えて外に飲みにいこうと言い出した。

酒はあるけど、上手い酒のつまみがない。
あいつがいれば、俺らの酒の進み具合に合わせて簡単な料理が出てくるのに、今日はそれがない。
だから、飲んでいても何か物足りないらしい。

「俺はやめとくわ。」
このままこいつらに付き合えば、帰りが午前様になるのは間違いない。

「司~、おまえも行こうぜ。」

「いいから、おまえらだけで行ってこい。
おいっ、類、寝るな。
寝るならおまえも帰るぞ。」

俺たちがそんなやり取りをしているとき、桜子の携帯に電話が入った。

「先輩?」

その言葉に俺らが黙る。

「先輩?大丈夫ですか?
家にいますけど、これから外に飲みに行こうかって話してたところです。
迎えにいきましょうか?」

桜子とあいつの会話が気になる。

「何かあったのか?」
俺がそう聞くと、受話器に手を当てて、

「酔ったみたいで具合悪くなったから合コン抜けて帰ってくるそうです。」
と桜子が心配そうに言う。

「タクシーに乗せろ。」
俺のその言葉に頷いた桜子は、

「先輩?タクシーに乗れます?」

電話を切った桜子に、滋が「どう?」と聞くと、
「お店の前にタクシーがいるから乗って帰ってくるそうです。
先輩お酒弱いのに…………。
とにかく、30分もすれば帰ってくると思います。あたし、ここに残るので皆さんで飲みに行ってください。」
そう言ってかばんをソファに置く桜子。

それを見て、よく考えもせず、俺の口から勝手に言葉が出てきた。
「俺が残るからおまえら行ってこい。」

「…………。」
「…………。」

「どうせ、俺は行かねぇつもりだったんだから、おまえらで行ってこいよ。
俺はあいつが帰ってきたのを確認したら邸に戻る。
子供じゃねーんだから、酔ったぐらいで夜通し付き添いもいらねぇだろ?
さっさっと行ってこい。
行けっ、早く行ってこいっ。」

おまえらが信じらんねぇもんを見たような顔をして俺を見てる。
その気持ち、俺自身が痛いほど分かる。

俺はこういうことをするような男じゃねーんだよ。
こういうシチュエーションでは真っ先に帰る人間なんだよ。

「さぁ、みんな行くよ。」

さっきまで眠そうだった類がなぜか楽しそうにやつらの肩を押した。

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