出来ない女と、しない男 5

出来ない女と、しない男
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「恋愛恐怖症」

「あ?」

「だから、誰かと恋愛するのが恐いんだよ、牧野は。」

夜も更けて、飲み潰れたお祭りコンビと滋がリビングで眠りについた頃、残った俺と桜子に類が言った。

「なんだよそれ。」
聞き返す俺に、

「昔、ちょっと痛い恋愛したみたいで、それからずっと一人なんです先輩。」
と悲しそうに話す桜子。

「だから、牧野に彼氏作れとか簡単に言うなよ司。」

「痛い恋愛って?」

「さぁー、詳しいことは聞いてませんけど。
相手は同じ会社の人でしたよ。
しかもその人、先輩と別れてすぐに結婚したんです。まぁ、二股かけられてたんでしょうかね。」

恋愛恐怖症。
その言葉の意味も内容も俺には全くピンとこねぇけど、あいつに対してマズイことを言ったらしいことは理解できた。

廊下の向こう側にあるあいつの部屋を見つめて、
はぁーーー、と深いため息をはいた。



翌朝。
結局、昨日はこの家から誰も帰らなかった。
客間なら余るほどあるこの大河原邸。
その一つを使わせてもらった俺は、リビングの方からの物音で目が覚めた。

「おう。」

「……おはようございます。」

キッチンで昨夜のグラスを洗っているこいつ。
コーヒーのいい香りが鼻をくすぐる。

「今日、仕事かよ。」

「はい。」

「第2土曜なのに?」

道明寺HDは月の第2土曜は休みのはず。

「ちょっと残った仕事があって。」

そう言いながらもテキパキと皿やグラスを洗っていくこいつを見て俺は棚から大きめのマグを2つ取り出した。
そしてコーヒーメーカーから出来立てのそれをマグに注ぐ。

片方をこいつに差し出すと、
「どーも。」
と言いながら泡だらけの手で受け取ろうとして慌てて
「そこに置いておいてください。」
と言う。

「後片付けくらいあいつらにやらせろよ。」

「出来ると思います?」

「…………出来ねぇと思う。」

あっという間に全部洗い終わったこいつは、俺の淹れたコーヒーを両手で大事そうに持って口に入れた。
静かなキッチンに俺ら二人。

長い沈黙のあと俺が口を開いた。
「気まずくねぇ?」

「……え?」

「いや、……俺といて気まずくねーのかなと思って。」

「何ですかそれ。上司だから?それとも知り合って間もないから?」

「……男だから。」

その言葉にまっすぐ俺を見て固まるこいつ。

「悪かった。」

「え?」

「気にすんな。」

「は?」

「相手がわりぃーんだよ。」

「だからっ、全っ然、意味分かんないんですけどっ。」

俺を睨み付けてくるこいつ。
わかるように言ってやろうか?

昨夜は悪かった。
昔のことはもう気にすんな。
浮気するような相手がわりぃーんだよ。

そんな言葉も飲み込んで、

「コーヒー上手いか?
俺様に淹れて貰えるなんてすげー貴重だぞ。」
そう言ってやると、

「あんたはマグに注いだだけでしょうがっ。
淹れたのはあたしです。」
といつものこいつ。

総二郎とあきらの気持ちが今なら分かる。
この家は……なぜか居心地がいい。

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