5回目。
これで5回目だ。
「おう。」
「お疲れ様です。」
「…………。」
「…………。」
大河原邸で帰国パーティーをしてから今日で2週間、いつものエレベーターでまたこいつと会った。
パーティーでは不穏な雰囲気のまま別れた俺たち。
あれからこいつと話すのは今日が初めて。
しかも、今日はあきらたちとまた大河原邸で飲む約束をしている。
居心地の良さと、こいつの作る料理の上手さに惹かれて、すっかりあきらも総二郎も入り浸ってるらしい。
「今日、おまえの家に行くからな。」
「…………。」
無言で睨むこいつ。
「なんだよっ。」
「会社では知らないふりしてください。」
「あ?」
「専務と知り合いだってバレたら色々ややこしいので。」
「ややこしいって、」
「あ、お先に失礼します。」
話の途中でエレベーターは25階。
さらっと降りていきやがった。
会社でのあいつは言葉に多少のトゲはあるけれど、それなりに社会人らしく俺に接してくる。
それなのに、プライベートでは…………
:
:
「なんであたしまで呼ぶのよっ。」
「いーだろ。牧野も一緒に飲もうぜ。」
「よくないよくないっ。
あたし明日早いからもう寝るのっ。」
「なんだよっ、付き合いわりぃーな。」
「週に3回も飲みに来ておいてそういうこと言うかなっ。
全くなんでここに集まるの?
美作さんたちが来ると長くなるからやなのっ。」
自分の部屋にこもってたこいつを無理矢理リビングに連れてくると文句タラタラなこいつ。
しかもいくら家だからって、ノーメイクにトレーナーとショートパンツのラフすぎる服装。
男を全く意識してないこいつに思わず口が滑る。
「おまえいくつだよ。」
「はぁ?」
「化粧とったら中学生みてぇだな。」
「ムカつく。」
そんな俺らのやり取りに、ゲラゲラ笑うあきらたちとは反対に「牧野はそこがいいんだよ。」
と類が優しく言う。
「牧野は昔から変わらないよね。
肌も綺麗だし化粧なんてしなくても十分だよ。」
そう言う類の言葉に赤くなってるこいつ。
「類、こんなやつにお世辞なんて言っても得にならねぇぞ。」
俺はそう言ってこいつが作ったピクルスに手を伸ばすと、
「あんたは食べなくていいっ。」
と皿ごと奪いやがった。
「おまえさー、俺一応おまえの上司。」
「プライベートに仕事は持ち込まない主義なもんで失敬。」
「それでも俺のほうが年上だからな、牧野後輩。」
「この年で先輩とかないでしょ、道明寺。」
「てめぇーっ、呼び捨てかよ。」
「二人ともうるさい。」
呆れ顔で類が俺らを見つめてる。
「はぁーーー。
わかった。とにかく、ピクルス寄越せ。」
俺のその言葉に黙って皿を渡すこいつ。
それを口に入れながら、
「料理はうまいくせに……」と呟くと、
「それ以上言ったら殺す」
とこいつも呟く。
そんな俺らに総二郎が
「なんかおまえら馬が合ってんじゃねぇ?」
とニヤニヤ顔で言いやがる。
「はぁ?」
「ああ?」
同時に反応する俺ら。
「そういうとこが……だな。
司がこんなに女と話してるの初めてだからよ。」
そう言われてみればそうかもしれねぇ。
「……まぁ、こいつ女っぽくねぇーし。
おまえ絶対彼氏いねーだろ。」
なんとなく照れ隠しで言ったその言葉。
それに、
「…………。」
と黙るこいつ。
「ほらな?いねーと思った。
彼氏ぐらい作れよ。そしたらおまえでも少しは色気が出んじゃねーの?」
半分は本気で半分は冗談で言ったつもりの俺のその言葉に、こいつじゃなく類が反応した。
「司、やめろ。
それ以上言ったら怒るぞ。」
「あ?」
リビングには滋と総二郎たちのバカ話が聞こえている。
そんな中、俺と類とこいつの間には沈黙が流れた。
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