日本支社の専務に就任して1ヶ月。
正確にいうと準備期間を含めると3ヶ月。
その間、この目の前の女と会ったのは4回。
そのどれもが、あの『エレベーター』だった。
もともと職業柄、一度会ったやつの顔は忘れない。
でも、この女は……特別だった。
帰国に向けての準備のため日本に一時帰国していた俺は、ある日少し遅めの昼食をとり終え、オフィスへ戻るためあのエレベーターに乗った。
すると、社食のある階からこの女が乗り込んできた。
一瞬だけ目があったが、俺の方からすぐにそらした。
その理由は…………こいつが泣いていたから。
女が泣くのは見慣れている。
ベタベタうろつく女たちを今まで何度も泣かせてきた。
だから、こいつの涙にもさほど驚きはしなかったが、必死に涙を堪えて平静を装う姿は後ろから見ても……健気だった。
仕事で失敗でもしたのだろうか、それとも人間関係でうまくいかないことがあったのか。
どちらにしても、俺には全く関係ねぇことだけど、
なぜか、無性に気になって仕方がなかった。
なぜなら、こいつの泣き顔が、
…………綺麗だったから。
それなのに、
「なんで?なんで知ってるの?」
この女は俺のことを全く覚えていない。
その事に腹が立つ。
「あれだけ何度も会ってればバカでも覚える。」
「何度も会ってます?」
「ああ、かなり。」
「すみません。あたし苦手なんで、人の顔覚えるの。」
と、のんきにトマトを切ってやがる。
だから、言ってやる。
「俺ほどのいい男の顔を覚えてねぇって、どんだけとり頭だよ。」
「とり頭って、」
「その分じゃ、仕事も出来ねぇだろおまえ。」
「……なにげに初対面の相手に失礼なんですけど。」
と、口をわずかに尖らせて俺を見る。
「だから、初対面じゃねーだろ。」
「あたしにとっては、初対面ですっ!
何度会っても記憶に残ってませんからっ。」
「てめぇー。」
「なんですかっ!」
そんな俺らの言い合いにリビングからあきらが飛んでくる。
「おいおいっ、二人ともやめろって。
司も別にいいじゃねーかよ、なにムキになってんだよ。
牧野も、一応こいつ、おまえの会社の専務だからな?まぁ、睨むなって。」
今、俺のことを睨み付けている女は、見た目も女らしさに欠けると思ってたが、性格もそうとう飛んでるらしい。
今まで俺の回りにいたやつらとはどこか違う。
でも、
あの日、エレベーターの中で必死に涙を耐えていた女も間違いなくこの女。
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