出来ない女と、しない男 2

出来ない女と、しない男
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あたしの職場は日本を代表する大財閥、その名も道明寺HD。
日本とNYを拠点に世界でその名を知られた大会社の日本支社、25階にこじんまりとオフィスがある。

オフィスには先輩栄養士が3人と、一番下っ端のあたしを合わせて全部で4人。
すべて女性で、気の許せる落ち着いた職場。
毎日の社食メニューと個人カウンセリングが主な仕事。

社食メニューのチェックを兼ねて、お昼はいつも社食のランチを食べることに決めているあたしは、今日もいつものように一時間社食で過ごし、料理の考案や社員さんのメニューに対する反応に聞き耳を立てていた。

その時、あたしの後ろに座る若い女性グループが話してる内容に思わず聞き入る。

「今日も見た~?専務のスーツ、あれ、絶対高いよね~。
自分で選んでるのかなぁ。シャツもネクタイもぴったり合ってて趣味いいわよね~。
専属のスタイリストでもついてるのかなぁ。」

「この間のパーティーの写真見た?」

「雑誌に載ってたやつ?」

「そうそう、女性の腰に腕を回してエスコートしてる姿、カッコいいぃー!
私もあんな風にされてみたいっ。」

「でも、……慣れてるって感じだよねぇ。」

「確かに。あんだけかっこ良かったら女に不自由しないでしょ。
まぁ、それでもいいから付き合いたいっ!」

いつもなら聞き流すその話も、昨日滋さんが言ってた『今度うちに来る人』だと思うと気になる。

へぇー、女子社員が噂するほどカッコいい人なのか。
滋さん全然そんなこと言ってなかったな。
でも、桜子が会いたいっていうぐらいだから相当か……。

そんなことを思いながら、席をたちいつものエレベーターに向かう。
お昼を過ぎたこの時間は、ほとんど乗る人もなく比較的空いている。
その上あたしが選ぶエレベーターは社食から一番遠くて、しかも各階の降りる場所がオフィスから遠い、いわゆる人気のないエレベーター。

なぜあたしがそのエレベーターに乗るかと言えば、
…………『あの人』に合わなくてすむから。
あの人がいるオフィスからは一番使いづらいこのエレベーター。
だから、あたしはここを選ぶ。

エレベーターの扉が静かに開き、乗り込もうとすると、長身の男性が壁に背中を付けて乗っていた。
今年になってから何度か見かけてる人。
この間も女性との喧嘩?別れ話?の場面に出くわしてしまった相手。

なんとなくペコリと頭を下げてエレベーターに乗り込むと、向こうもなんとなくだけど、小さく頭を下げたように見えた。

たった数十秒の出会い。
それが運命の出会い。

土曜日。

西門さんたちの都合に合わせて集まる時間は9時からになった。
少し遅めの集合なので夜ご飯は済ませたけれど、それでも何かつまむものは欲しい。

滋さんがワインやお酒を用意してくれ、桜子がチキンや生ハムといったメインを買ってきてくれた。
だからあたしは簡単だけどサラダやデザートを作ることにした。

20畳ほどあるリビングのテーブルに料理やグラスが用意され、あとは完熟した桃のコンポートを盛り付けるだけ、その時、
ピンポーンと来客を知らせる音がした。

桜子が応対してくれて、キッチンにいたあたしはそのまま作業を続けていると、リビングに相変わらず長身でスラリとした美男子が3人続けて入ってきた。

西門さん、美作さん、花沢類。
そして、その後ろからF3よりもほんの少しだけ背の高い人が見えた。
ほどよく色落ちしたジーンズに襟をたてたシャツ。
スラリと伸びた手足にクルクルの髪。
顔は、……桜子が言う通り確かにイケメン。

どこかで見たような…………そう思いながらも、
思い出せない。
顔覚えの悪いあたしにとって、こんなことは日常茶飯事。

「よっ、久しぶりだな牧野。」
「相変わらずわがままお嬢二人の世話焼いてるのか?」
そう言っていつものようにあたしをからかってくるお祭りコンビと、

「まーきの、元気だった?」
と、優しい目を向けてくれる花沢類。

そんなあたしにリビングから、
「つくし~、司と会うのははじめてだよね?
これが噂のドラ息子。見た目は完璧だけど、中身は手の付けようのない異端児だから。」
と、紹介してくれる滋さん。

初めましての人にそんな紹介をされて、なんて挨拶していいか分からないあたしをよそに、
「この間電話で話した牧野つくしさん。
あたしたちの親友なんだから苛めないでよっ。」
と隣の彼に忠告してる。

あたしたちはお互いリビングとキッチンの少し離れたところからペコリと頭を下げあった。

パーティーも中盤、予想以上にお酒の量も進み、料理の皿も空き始めた頃、あたしはキッチンへと向かった。
冷蔵庫からチーズとトマトを取り出して、リビングの話に耳を傾けながら、おつまみを一品作っているとき、リビングから道明寺司が歩いてきた。

「…………?」

「…………。」

「なにか、欲しいものあります?」

「…………いや。」

そう答えながらも、リビングのカウンターから動かない。

それを見て、
「おいおいおいおいっ、司。
牧野のこと威嚇すんなよっ。」
酔っぱらいの西門さんが助けてくれるが、

「してねーよ。」
となぜか不機嫌そうなドラ息子。

そして突然あたしに、

「どこの課?」

と、言ってきた。

「…………えっ?」

「だから、何課だって聞いてんだよ。」

「…………。」

突然のその質問に、あたしはリビングにいる皆に渋い顔を送る。
それを見て、全力で『自分ではない。』と首を振る皆。

あたしはみんなにお願いしたのだ。
あたしが道明寺HDで働いていることは黙っていて欲しいと。
それなのに、彼は知っている。
この中の誰かがバラしたに違いない。

「…………。」
黙るあたしに、さらに追い討ちをかけてくる。

「人事課か?管理課か?」

するどい。かなりするどい。
どちらも同じ階にある。

「……いや、……あのぉ、」

「25階だろ?他に何課がある」

「えっ!!なんで?なんで知ってるの?」

思わずタメ口で大きな声が出た。
その声にリビングにいるメンバーも興味津々。

「はぁーーー。」

「…………。」

「おまえさー、マジで言ってんの?」

「……えーと、」

訳がわからず戸惑うあたしに、ため息を付きながら彼が言った。

「今まで会社で何回会ってると思ってんだよっ。
エレベーターで会ってるだろ俺たち。」

それを聞いて、…………わかった。
そうだ。あの人だ。
エレベーターで時々会うあの『訳ありイケメン』

まさかあの人が道明寺司だとは思わなかったし、今目の前にいるスーツ姿とは全く違うラフな服装のこの人が同一人物だなんて思いもしなかった。

「す、すみません。」
覚えてなかったことと、同じ会社で働いていることを誤魔化そうとしたダブルパンチにペコリと頭を下げるあたしに、

「それ、何作ってんだよ。」
と手元のトマトを見つめて彼が言った。

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