イツモトナリデ 30

イツモトナリデ
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俺の暴露の一件以来、職場は大騒ぎとなった。
それから2週間。
信じられない…という驚きから、やっぱり……というため息へと同僚の目が変わり始めている。

それには、滋が有る事無い事、いや全部事実だが、言いふらしているらしい。
俺が学生時代から長年片想いしていた事や、牧野が他の男と付き合って俺が拗ねていた事、付き合ってからは嬉しすぎて暴走しまくってる事。

最初は俺たちの交際をやっかむ声もチラホラ聞こえてたが、次第に、
片思いが成就して良かった。
一途で可愛すぎる。
牧野さん最強。
と、好意的な声が増え始めた。

そして、この噂はもちろんババァの耳にも入ったのだろう。
交際を暴露してから数週間後、邸の書斎に呼び出された。
この日はたまたま姉ちゃんもNYから帰国していて、書斎のソファにニヤニヤ顔で座っている。

「姉ちゃんも居たのかよ。」

「当たり前じゃない。こんな面白い場面逃すわけないでしょ。」
そう言って俺にウインクしてみせる姉ちゃん。

すると、ババァがその姉ちゃんの隣に座り俺に言った。

「あなたのお付き合いしている女性は、うちの社員のようね…」

「ああ。
この間、悪くねぇ会社に勤めてるって言ったろ。」

「悪くないって……、はっきり道明寺ホールディングスの社員だって言いなさい。」
呆れ顔のババァ。

「牧野に変な圧力かけて、別れさせようなんて思ってねーよな?」

「……。」
無言のババァの表情は固い。

それを和ますかのように、
「牧野さんっていうの?」
と、姉ちゃんが間に入った。

「ああ。牧野つくし。」

「つくしちゃん?あらま、可愛い名前ね〜。
どこで知り合ったのよ。」

「英徳の後輩だ。
っつーか、もう調べてあんだろ?」

ババァに向かってそう聞くと、一度立ち上がったババァはデスクの上から茶封筒を取り戻ってくると、それを姉ちゃんに渡した。

中からは数枚の書類。
牧野の出生から今までを事細かく調べてあるに違いない。

それをじっと見つめていた姉ちゃんが、
ぷっ…ぷぷぷぷーーーっと、
いきなり笑い出した。

そして、俺に向かって言う。
「司、あんたもこんな顔するのねっ!」

「あ?」

「つくしちゃんと一緒に居るところ、盗撮されてるわよ。
目尻が下がりっぱなしで、デレデレじゃない。」

姉ちゃんから渡された紙を覗き込むと、俺と牧野が並んで歩きながら退社する姿が収められている。

「親が息子を盗撮するとは驚きだな。」

「盗撮とは聞こえが悪いわ。
これは、道明寺財閥を脅かす外敵から身を守るためのれっきとした調査よ。」
開き直るババァ。

「で?その調査とやらの結果は?
牧野は道明寺をぶっ潰す敵だったか?」

「……調査結果を見れば一目瞭然よね。
敵にもならなければ、味方にもならないほどのコバエって所かしら。」

俺が、態度だけじゃなく口が悪いのはこの親譲りだ。
さすがの姉ちゃんも眉間に皺を寄せ、
「お母様。」
と、呟く。

「恋愛するのは結構よ。
でも、結婚はもう少し相手を慎重に選んでもらわないと困るわ。迂闊に結婚話を出して、しがみつかれたら厄介よ。」

「会うたびに結婚話を出して、しがみついてるのは俺の方だ。
あいにく、恋愛と結婚は切り離して考えらんねぇタイプなもんで、付き合ったらすぐに結婚しかねーだろ。」
俺のその言葉に、

「恋愛したことない男がよく言うわ。」
と、姉ちゃんのツッコミが入る。

「それによ、孫が見てーんじゃねーの?」

「え?」

「タマから聞いたぞ。
ババァは俺の子供が見てみたいって。
俺に愛情をかけなかった分、孫に時間と金をかけてやりてぇって最近はいつも言ってるらしいじゃん。」

その言葉に、罰が悪そうに視線を逸らす所を見れば、どうやら図星らしい。
60代になったババァ。仕事一筋で来たけれど、ふと周囲を見渡せば同じ年代の人たちが一線を退いて孫と楽しい時間を過ごしている。

そんな風に、自分も暮らせたら…と、最近はよくタマに愚痴をこぼしていると聞いた。

「孫を見たいなら、選択肢はひとつしかねーよ。」

キョトンとした顔で俺を見つめるババァと姉ちゃん。
そんな2人を尻目に、親は立ち上がると書斎の出口へと向かう。

そして、振り返って言ってやった。
「他の女と結婚させたら、一生孫には拝めねーぞ。
なぜなら、俺は牧野にしか勃たねーから。」

「つかさっー!あんたって人は、なんてはしたない事言うのよっ!」

俺の背中に姉ちゃんの怒声が響いた。

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