イツモトナリデ 27

イツモトナリデ

それから2日経った日の夕方、珍しくババァから携帯に連絡がきた。

「今日の予定は?」

「なんだよ。」

「夜、邸に来れるかしら?」

「用件は?」
そう聞く俺に、

「食事でも一緒にいかが?」
と、不気味な事を言ってくる。

「都合がわりぃーって言ったら?」

「今から、オフィスに行ってもいいのよ。」
このビルの最上階にいるババァ。
本気なら、3分でここに来るだろう。

「チッ…分かったよ。20時には行く。」

「タマに言って、好きな物を作らせておくわ。」

ババァからの呼び出しは、殆どが仕事の小言やダメ出しだ。
だから今日もそれかと思ったが、ババァの口調からはどうやら機嫌は悪くないようだ。

マンション暮らしをしてから、邸に帰るのは1ヶ月に1度、いやもっと疎遠になっているかもしれない。
週末の時間が空いた時に、邸のジムやプールで汗を流すくらいで、ババァと食事をするなんて仕事以外では半年はしていない。

仕方ねぇ。
久しぶりに老いぼれたタマに会いに行ってやるか。



「坊ちゃん、おかえりなさいまし。」
1ヶ月ぶりに会うタマ。

「奥様ならもうダイニングでお待ちですよ。」
時計を見ると20時10分。

時間にうるせぇババァだから、嫌味でも言われるか…と思ったが、やっぱり今日のババァはなぜかご機嫌だ。

運ばれてきた料理に手をつけながら、ババァが何を言ってくるのか待っていると、第一声は
「リアムは元気でした?」
と意外な質問からだった。

リアムとは、NYで世話になった情報屋のバーの店主。
ババァも何度か仕事を頼んだことがあるから知っている。

「ああ。」

「NYに行っていたそうね。何をしに?」
まさか、失踪した滋を探しに行ったとは言えない。

「まぁ、プライベートで人に会ってた。」
なんとなく、そうはぐらかすと、

ババァはなぜか嬉しそうに俺に言う。
「正式に話が決まったなら、きちんとご挨拶に行かなくちゃ。」

「…あ?」

「あなたたちが付き合っていたなんて知らなかったわ。それにしても、いい相手を選んだわね。」

と、上機嫌だ。
牧野との交際がもうババァの耳に入ったのか…。
いい相手…とは、どう言う意味だ。
戸惑う俺に、ババァは更にとんでもない事を言った。

「大河原財閥と道明寺が婚姻関係になるなんて、世間が知ったら大騒ぎになるわよ。」

「…それ、どう言う事だよ。」

「どうって、結婚話まで進んでるのよね?」

「誰と。」

「滋さんよ。」

当然でしょ、という顔でそう話すババァ。
驚きを通り越して笑いが込み上げてくる。
どこをどうしたらそんなフェークニュースが飛んだのか。

「アホみてぇな冗談はやめろよ。」

「…冗談?」

「俺は滋と付き合ってもいねーし、結婚するなんてガセネタだ。どこのどいつにそんな嘘情報掴ませられたんだよ。」

「えっ?…だって!あなたNYに行ってたでしょ。
滋さんと教会に入って行くのも見られていたし、ホテルの監視カメラに……、」

あぁー、そう言うことか。
社内で噂になっているその情報をババァは鵜呑みにしたのだろう。

「ったく、ちゃんと調べてから言えよな。」
呆れながら言ってやると、

「じゃあ、嘘だってこと?」
と、詰め寄ってくる。

「ああ。けど…、」

「けど?」

「付き合ってる女もいるし、ホテルで監視カメラに取られたのも事実だ。
けど、相手は滋じゃねぇ。」

「じゃあ、誰よっ!」

「誰って、言っても知らねぇ女だ。」
あっけらかんとそう言う俺に、今度はババァの機嫌が悪くなる。

「言っても分からないような女性とNYに旅行に行って、ホテルのエレベーター内で痴漢まがいなことをしたって訳?」

それを側で聞いていたタマが、俺の背中を杖で突きやがる。
「イッテェ…。痴漢まがいって、ただキスしただけじゃねーかよっ!」

「ずいぶん強引に壁に押し付けていたって聞いたわよ。」

「それは……、」

牧野が監視カメラに映らないように、壁に追い詰め俺の身体で隠していたのは事実。

「…本当に…、滋さんとの結婚は?」

「ねーよ。」
即答してやる。

「教会に行ったのは?」

「滋と彼氏の結婚を祝いに。」
これも、即答だ。

すると、目の前のババァはあからさまにガッカリした表情をしやがる。だから、言ってやる。

「俺だって人並みに結婚くらい考えてるから心配すんな。」

「どこの馬の骨か分からない相手ならしなくて結構よ。」

「俺が金や家柄で選ぶような男に見えるかよ。」

散々見合い話をすっぽかしてきたから、女を選ぶ基準がそこじゃねぇと、その辺はババァでも分かってるだろう。

「…どんな女性なの?」

「まぁ、職業は悪くない会社に勤めてる。
一歳下で普通の家庭で育った女。」
そう話すと、ふっ…と鼻で笑った後ババァが言った。

「その人と結婚を?」

「ああ。」

「道明寺財閥の名前に惹かれて寄ってきた女じゃないと断言できるかしら?」

俺と牧野の関係性はこの質問と真逆なものだろう。
あいつと出会ってから一度だって牧野に言い寄られたことはない。逆に、いつも俺があいつの一番そばにいたくて寄り添ってきた。

だから、ババァからのこの問いに、躊躇なく言える。

「俺が惚れ込んで、5年も前から片想いしてた相手だ。
ようやく付き合えるようになったけど、
もたもたしてると逃げられるかもしれねぇから、早急に籍でもいれて手に入れてやるつもりだ。」

その言葉に、さっきは杖で俺を殴ったタマが、今度は俺の背中を優しく撫でた。

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