小話(そして四年後)3

小話
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牧野たちと合流したのは21時を過ぎた頃だった。
どうやら、一人かなり出来上がってる奴がいる。

「お帰り〜、猛獣さん。」
俺を見るなり、にっこりと腕を組んでくる女。

「相変わらず、イカれてんなおまえ。」

「ちょっと、イカれてるとは何よっ!
久しぶりの再会だから、抱擁とキスでもしてあげたいけど、愛する彼女の前だから遠慮してあげてるっていうのに」

「おーおー、そういう気遣いができんなら、さっさとその愛する彼女をこっちに来させろ。」
と、遠くにいた牧野の腕を掴み、俺の側まで引き寄せる。

「おいおい、会ったばっかで喧嘩すんなよ司と滋。
奥の部屋でいーだろ?
飲みなおそうぜ。」

あきらのその声で、俺と滋の喧嘩という名のジャレあいは終わり、ゾロゾロと部屋へ流れ込む。
その間も、俺の手は牧野を離さず繋がれたまま。

今日の牧野は、珍しく体にフィットしたハイネックのセーターに、オフホワイトのパンツ。
少し女らしくなった身体つきに、バカみたいに胸が鳴る。

「司おかえり〜、カンパーイ!」
7人揃ったところで、総二郎のデカイ声が響き渡り、再び宴が始まった。

「牧野、大学は楽しいか?」

「楽しいわけないじゃん。」

「ぎゃはははー、だろーな、司に無理やり行かされてんだもんな。」

「そう。大学まで英徳に行くとは思わなかったぁー。」
わざと泣き真似しながら、俺を睨みつけてくる牧野。

「ほんと、そういうとこ司は束縛男だよな。」

「うっせぇ。」

「そろそろ牧野を自由にさせてやれよ。」

「出来るかアホ。」

俺がNYに旅立った1年後、牧野が大学へ入学した。
牧野的には他の大学へ進む気でいたらしいけれど、俺は全力で阻止した。

なぜなら……、

「俺はおまえを全く信用出来ねぇからな。」
隣に座る牧野に今日も言ってやる。

「ひどっ!」

「おいおいっ、こんな所で喧嘩すんなよ。」
あきらが慌てて止めに入るが、
それを面白そうに眺めていた類が爆弾を落としやがる。

「そう言えばこの間、バイト仲間から告白されてたよ牧野。」

「あ?」
「類っ!」
でけぇ声で類の名前を呼ぶ牧野。

そんな牧野をジッーっと見ながら俺は言ってやる。
「おまえ、まだ類のこと呼び捨てで呼んでるのかよ。」

「あ…、」
黙るこいつに、周囲の奴らが反応する。

「私も思ってたんですよね、いつからか先輩が類さんのこと呼び捨てにしてて、あれ?って。」

「ほんとだぁ、全然気が付かなかったけど、いつから?」
と、牧野に詰め寄る桜子と滋。

「おまえら、司がいねえ間に、そんなに親密な仲になったのか?」
「そりゃ、司も怒るよな?」
と、面白がるお祭りコンビ。

だからこの際、俺も言ってやる。

「だろ?
俺がいねぇ間に、こいつは牧野の家に入り浸るし、牧野も警戒心ゼロで類を受け入れるしよ。
まさか、泊まったりしてねーよな?」

「なっ!するはずないでしょ!
それに、うちにはパパもママも進もいるし、類が来たからって何もやましい事なんて、」

「じゃあ、いつから類って呼び捨てになったんだよ。」

これは、ずっと聞きたかった事だ。
二人の間にどんな心境の変化があったのか。

俺の言葉に黙る牧野。

「それは…、」

「司、あんまり牧野のこと苛めんな。」
このまま最悪の雰囲気に発展しそうな事を心配してあきらが止めに入る。

「そうね、2人の時に話したらいーよ。」
滋もそう言って牧野の肩をポンポンと叩いた時、

牧野がポツリと言った。
「あたしが特別な呼び方をするのは、あんただけにしたかったから。」

その場にいた類を除く全員が、牧野の言葉の意味を理解出来ずに固まっていると、
類がフフフっ…と笑いながら言った。

「俺から説明しとく?
牧野しか使わない呼び方ってあるだろ、
例えば、俺のことを花沢類ってフルネームで呼んだり、司のことを道明寺って呼び捨てにしたり。」

「あー、確かに。」

「いつだったか、俺が牧野に、
特別な呼び方で呼ばれて嬉しいよって言ったんだ。
そしたら、その次の日から急に類って呼ばれるようになった。」

「あ?どういうことだよ。」

「だから、特別な呼び方で呼ぶのは司だけにしたいって事みたい。
俺のことを類って呼ぶのはたくさんいるだろ?例えばおまえらもそうだし、静もそう呼び捨てにする。
だから、類って呼ぶことは他の人と一緒で特別な事ではないんだ。
でも、司の事を道明寺って呼ぶのは牧野以外どこにも居ないだろ。司がそう呼ばせるて許してるのも牧野だけ。」

確かに、俺を道明寺と呼ぶのは唯一無二、牧野だけだ。

「急に俺のことを類って呼びはじめたのは、そういう理由。
まぁ、簡単に言うと、俺は格下げされたってわけ。」

「…牧野、ほんとにそういうことか?」

黙ってる牧野に、そう聞くと、
「だから何度も言ったでしょ!類のこと呼び捨てにするのには深い意味はないって。」
と、睨んできやがる。

「分かり辛すぎんだよっ。」
「逆に意味深すぎるしっ。」
「可愛すぎます先輩っ。」

理由を聞いてそれぞれが呆れたようにグラスに口をつけるが、
本心を知った俺は無茶苦茶こいつが可愛くて堪らない。
こいつらがいなければ今すぐに襲いかかっていたはず。

「さっきの撤回してよ。」

「あ?」

「あたしのこと信用できないって言ったでしょ。
あれ、今すぐ撤回して。」

「あー、あれか?
だめだ。」

「はぁ?!なんでよ、どうしてっ?」
詰め寄る牧野に言ってやる。

「明日バイト先に行って、告ってきた男に俺のこと彼氏だって紹介したら考えてやってもいーぞ。」

「ちょっ、信じらんないバカ。」

「あ?何がバカなんだよ。」

「バカだからバカって言ってんの!」

ヒートアップしそうな俺たちに、
「はいはいっ、そこまで!
ほんと、相変わらず喧嘩してんのか、イチャついてんのか分かんない2人よね。」
と、滋が呆れ顔で言ってくる。

黙る俺を、牧野は上目遣いで睨んだ後、
「あたし、トイレ行ってくる。」
と、立ち上がった。




数分後、トイレに立った牧野を追いかけると、
ちょうど店の奥の廊下で鉢合わせた。

「あ、トイレ?」
俺にそう聞くこいつの腕を取り、廊下の隅に引き寄せる。

「そろそろ抜け出そうぜ。」

「え?」

「最後まであいつらと居る気じゃねーよな?」

せっかく会えたんだ、このまま2人の時間もなく解散する気はさらさらねぇ。

「あたし、カバン置いてきちゃったから、」

「俺が取ってくる。
おまえが行くと、また滋たちに捕まるだろ。」

「ふふ…確かに。
じゃあ、あたし、……家に電話しとくね。」

「遅くなったらマズいか?」

腕時計を見ると、22時を回ったところ。
このまま連れ出すと、日付が変わる心配もある。
実家暮らしの牧野にはキツいか…そう思って聞くと、
こいつからは意外な言葉が帰ってきた。

「…帰らないかもって言っていい?」

「あ?」

「泊まってくるって電話してもいい?
あっ、親には今日桜子と滋さんと会うって言ってあるから、多分2人の家のどちらかに泊まると思うだろうし、今までも何度か泊まったことあるから、」

早口でそう話す牧野の言葉を遮るように言ってやる。
「おまえがいいなら、ちゃんと俺の名前出せよ。
なんなら、俺からおまえの母さんに話そうか?
流石に親父さんに言ったら殺されるかも知れねぇけど、母親なら許してくれるんじゃねぇ?」

牧野の母親とはこの四年何度もテレビ電話で話した。
俺たちの交際を1番応援してくれているのは母親かもしれない。

友達の家に泊まると牧野に嘘をつかせるくらいなら、
牧野と一泊したいと正直に俺からお願いした方がいい。
それでダメだと言われれば、許してもらえるまで外泊は我慢するくらい余裕だ。

「おまえの嘘はすぐバレる。
バレるくらいなら、正直に俺から頼んでみるか?」

そう牧野に聞くと、少し考えた後、
「ううん。あたしから正直に話すから大丈夫。」
と、答えが返ってきた。

「じゃあ、電話してろ。俺は鞄取ってくる。」
そう言って、牧野を置いて元の部屋に戻っていくと、廊下の先からドヤドヤと奴らが顔を出した。

「おっ、みーつけ!
2人でトンヅラしたかと思ったぞ。」

「してねーよっ!
おまえら、どこに行くんだよ。」

「そろそろお開きにしよーぜ。
俺らも鬼じゃねーの。4年ぶりに会ったカップルがまだベッドインもまだだって言うのに、こんな時間まで引き留めておくのは流石に悪りぃだろ。」

わざとベッドインという言葉を強調しやがるあきらに、
「声がでけーんだよ馬鹿っ!」
と、蹴りを入れてやると、
キャハキャハと楽しそうに笑ってやがる。

そして、電話中の牧野を見つけて、
「おっ?誰に電話してんの?」と類が絡む。

「もしもーし。」
牧野から電話を取り上げた類は、
「あー、ママさん?こんばんは花沢類でーす。」
と、酔っ払いの電話。

「類っ、やめろって!」
類の手から今度は総二郎へ。
「どーも、お久しぶりです西門総二郎です。
ご無沙汰しております。」
こんな時だけマダムキラーを発揮して礼儀正しい挨拶を始める馬鹿。

どれもこれも酔っ払いだ。
総二郎の手から携帯を奪った俺は、桜子にカードを渡すと、
「これで支払い済ませておいてくれ。」
そう伝え、廊下の奥へ走った。

ようやく誰にも邪魔されない静かなスペースにたどり着くと、
携帯を耳に当てる。

「もしもし。」

「もしもし?」
牧野の母親の声。

「遅くにすみません。そして、ご無沙汰しております。」

「道明寺さん、無事に帰って来たんですね。」

「はい。これからは日本で暮らす予定です。
近々、挨拶に伺いますので…、」

「いつでも寄ってください。」

優しくそう言ってくれる母親に、俺は少し緊張しながら
「あのぉ、
今日、つくしさんをお借りしてもいいですか?」
そう聞くと、

「クス……律儀にどうも。どうぞどうぞ、お借しします。」
と、返ってきた。

電話を終えて店の入り口まで戻ると、そこには牧野だけが立っていた。

「あいつらは?」

「帰った。」

「ったく、空気読みすぎだろ。」
急に笑いが込み上げてくる。

そんな俺を不思議そうに見つめながら、
「ご馳走様でした。」
と、ペコリとしながらクレジットカードを渡してくる牧野。

俺も携帯を渡しながら
「ちゃんと、了解は得たぞ。」
そう言って、こいつの手をギュッと繋ぎ店を出た。

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原作の漫画本で、最終会のあとのエピソードに、

つくしが類を呼び捨てにして司にキレられるというお話があります。呼び捨てにすることにした経緯は書いてありませんが、私なりにこんな感じかなーと思いお話にしてみました。

コメント

  1. もも母 より:

    初めまして。いつも楽しみに読ませて頂きありがとうございます。
    そうだったのですね❗つくしちゃんが類君を呼び捨てになったいきさつ。感動です❗️これからも作品お待ちしてます。お身体大切に、、

    • 司一筋 司一筋 より:

      あわわっ、ごめんなさい!原作では呼び捨てにした
      経緯までは書いてなかったんです。私なりに
      こんな理由だったらいいなーと思いながら
      今回お話にしてみました。
      分かり辛い書き方ですみません!

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