あれから滋とは連絡がつかないまま、俺たちはNYに降り立った。
リアムの情報によると、滋はずっと同じホテルに滞在している。
まずは、ホテルへ行ってみようということになり、俺と牧野はタクシーに乗り込んだ。
運転手に行き先を告げて、そのあとリアムにNYに着いたと電話を入れる。
英語を話すことぐらい朝飯前だ。
そんな俺を見て、
「マジでペラペラなんだ。」
と、驚いた顔で牧野が言う。
「これぐらい普通に話せるだろ。」
「憎たらしい…。」
「つーか、おまえも英会話習いに行ってたよな?」
「あーあ、あれね……」
なぜか歯切れの悪い言い方をした後、窓の外に目を向けるこいつ。
「辞めたのか?」
「うん、ずっと前にね。」
「なんでだよ。」
「だって、あれは、」
「ん?」
聞き返す俺に、視線を完全にそらしながら牧野が言う。
「二階堂先輩に誘われたから行ってただけだし。」
あー、確か牧野が英会話に通い出したのは、そんな不純な動機だった。
つい数ヶ月前まで、こいつが二階堂一筋だった事を思い出し、また胸の奥がムカムカしてくる。
「ったく、どうしようもねぇなおまえは。」
「なによ。」
「俺がずっと側にいんのに、フラフラ違う男ばっか見やがって。」
「だって、それは…」
「英会話ぐらい俺が手取り足取り教えれば、1ヶ月でペラペラにさせてやる。」
そう言って隣に座る牧野の首に手を回し引き寄せると、頭のてっぺんをぐりぐり攻撃してやる。
「痛いっ、離してバカっ。」
「うっせぇ。これからあいつの名前を一回言うごとにグリグリしてやるからな。」
「はーなーせっ!もうっ、痛いっ!」
タクシーの後部座席でワチャワチャやり合っている俺らを見て、運転手が楽しそうに聞いた。
「仲良いね〜、兄妹かい?」
そんな質問に、俺と牧野は声を揃えて言った。
「ありえねぇ!」
「ありえないっつーの!」
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ホテルに着き、リアムから聞いていた部屋のベルを鳴らすが応答なし。
高級ホテルだが、シングルで予約している所を見れば、滋が一人で泊まっている事は間違いなさそうだ。
その時、俺の携帯が鳴った。
画面を見るとリアムから。
「もしもし。」
「司、探してる女性だけど、どうやら面白い場所にいるらしい。」
「面白い場所?」
「ああ。
早めに行った方がいいよ。まだ間に合うと思うから。」
意味深にそう言ったリアムは携帯を切り、すぐにメールを寄越した。
そこにはNY郊外にある教会の名がある。
「牧野、滋の居場所が分かった。行くぞ。」
俺は牧野の手を取り、再びタクシーに乗り込んだ。
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着いた場所は、小さな教会の前。
「滋さん、ここにいるの?」
「…らしい。」
不思議そうな顔で俺を見上げる牧野。
そんなこいつに、俺は苦笑しながら言ってやる。
「俺の勘が当たっているなら、今からこの扉を開けたら、おまえ泣くかもしれねーぞ。」
「え?泣く?」
「ああ。
怒りなのか、悲しみなのか、喜びなのか、わかんねぇけど、
たぶんおまえ、泣くぞ。」
「はぁ?」
どう言う意味か分かっていねぇ牧野の頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜてやった後、俺はその教会の扉を開けた。
そこに広がる光景を見て、俺と牧野は固まった。
それと同時に、神父の前で立つ2人も俺たちを見て驚いた顔で固まっている。
その静寂な雰囲気を壊したのは、相変わらずでけぇ滋の声だった。
「つくし?!
どうして、ここにっ?」
「…んっ、うぅー、…し、げるさんこそ、どうしてそんな格好してるのよ。」
俺の予想は大当たり。
滋の姿を見て、号泣してる牧野。
それもそのはずだ。
俺たちの前にいる滋は、
純白のドレスを着て、今まさに神父の前で永遠の愛を誓っていたのだから。

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