イツモトナリデ 21

イツモトナリデ

滋が会社を休んでいる。
その情報は西田からもたらされた。

2日休暇を取ったあと会社に電話があり、
「体調が優れないので、もう数日休ませて欲しい。」
と、滋本人から連絡があったそうだ。

それを聞いて俺はすぐに滋に電話をしたが、丸一日応答なし。
痺れを切らして滋の母親が経営する都内のアンティーク家具店に足を運んだ。

偶然近くで仕事をしていたと嘘をつき、暫くぶりに滋の母親と会った。
それとなく滋の事を探りを入れてみたが、体調が悪いなんて事は言っていなかった。
逆に、今週はNYに出張に行くらしい…と。

もちろん、出張なんて嘘だ。
あいつは仕事を休んでどこにいるのだろうか。
大の大人が数日連絡がつかないくらいで騒ぎすぎだと思うかもしれないが、どうしても気になって仕方がねぇ。

俺たちに連絡なしで居なくなっている……
それこそが、あいつに何かあった印だろう。



次の日、西田から報告があった。
滋の彼氏について調べて欲しいと言っておいたのだ。

NYでも最大級のマーケティング会社でチーフマネジャーの職についている男。
俺も仕事で何度か会ったことがあるが、ニコニコと笑い人当たりが良く、仕事もかなり出来る。
あの会社であの地位にいれば、年収も相当あるだろう。

そんな男が、1ヶ月後に会社を辞める事になっているそうだ。
西田の話では、もうすでに辞表を提出していて、今は引き継ぎ作業をしているとか。
どこかにヘッドハンティングでもされたのか。
それで、滋と揉めたのだろうか。

確か滋も別れた原因を、
「彼と、将来についての方向性がズレてきちゃって:。」
と言っていた。

「西田、NYのリアムに連絡して欲しい。」
リアムとはNYの一等地にバーを構える店主。
24時間営業しているその店には色んな職種の人間が出入りする。
そこで話される情報は大なり小なりかなりのお宝だ。

その宝の情報は高額だが、それによって何度もビジネス上助けられてきた。
そんなリアムの情報網を使って、滋と彼氏の動向を最速で知りたい。

そう思い西田に言うと、
「もうすでに連絡を付けています。
調べてくれているはずですので、そろそろ電話が鳴るかと。」
と、阿吽の呼吸。

そう話していると、手元の携帯が鳴った。




リアムの話によると、滋はどうやらNYにいるらしい。
ホテルに2日前から滞在していて、そのホテルのカフェで彼氏と話しているのを目撃されている。
目撃談によれば、滋は……泣いていたと。

俺はリアムからその話を聞いて、大きくため息をついた。
そして、側に居た西田に言う。

「西田、悪りぃけど、週末の予定キャンセルしてくれ。」

「はい。」

「それと、」

手元のパソコンで飛行機のフライト時間を調べようと打ち込むと、俺より先に西田が言う。

「土曜日、1番早い時間の飛行機でNY行きの予約をしてよろしいですか?」

西田には何も言わなくても分かるらしい。

「ああ、頼む。」

俺はそう言って立ち上がり、牧野が仕事しているオフィスへと向かった。



滋が居なくなったと話した時の牧野の驚いた顔。
それを見れば、こいつにも何も連絡が来てない事が一目瞭然だった。

その夜、牧野と電話をすると、
「道明寺から聞いてあたしも滋さんに何度も電話したけど繋がらない。
こんな事初めてだし、心配で堪らない。」
と、不安そうな声で言う。

だから、こいつを落ち着かせるために俺は言った。
「滋がNYにいる事は分かってる。
だから、週末行ってくる。」

「道明寺が?」

「ああ。
あいつが滞在してるホテルも調べが付いた。
滋が日本に戻って来ねぇなら、こっちから連れ戻しに行ってやる。」

リアムには引き継ぎ監視を頼んでおいた。
別れ話で揉めてるのなら、いっそのことすっぱり日本に連れて帰ってきたほうがいいだろう。

牧野にそう伝えると、こいつは少し黙ったあと、ポツリと言った。

「あたしも、行きたい。」

「…あ?」

「あたしも一緒にNYに行っちゃダメ?」

牧野の予想外の反応に、俺は言葉に詰まっていると、

「あっ、いや、もう飛行機取っちゃったよね?
別に一緒とかじゃなくていーの!
ただ、あたしも滋さんのこと心配だし、週末って三連休だよね?
だから、行ってみようかなーと思って。
飛行機、予約してみるねっ!もし、会えたら、NYで会ってみる?」

早口で話すのは、こいつが動揺してる時の癖。

「プッ…、会えたら、会ってみる?って何だよそれ。」

「…だからぁー、それは、」

モゴモゴと続きを言いそうなこいつに俺ははっきり言ってやる。

「おまえの分の飛行機も予約しとくぞ。
それと、ホテルはメープルの俺の部屋だからな。」

「…はぁ?」

急に素っ頓狂な声を出すこいつ。

「俺の部屋って?」

「NYのメープルホテルに俺専用の部屋があんだよ。」

「専用?」

「ん。」

「あんただけの?」

「ん。
ベッドルームは3つあるから、毎晩違うベッドで寝ようぜ。」

「……ちょっと待って。
あたし、やっぱり日本で滋さんのこと待ってよーかな。」

この期に及んで逃げようとするこいつに、俺は、
「却下。」
とだけ言って、笑いながら電話を切ってやった。

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