イツモトナリデ 20

イツモトナリデ

滋さんと道明寺が帰ってから二時間後、あたしの携帯が鳴った。
てっきり「後で電話する。」と言っていた道明寺からだと思ったのに、画面には滋さんの文字

「もしもし。」

「つくし〜、さっきはお邪魔虫でごめんね〜。」

相変わらず滋さんの声は明るい。
けれど、無理してるのはバレバレだ。

「滋さん、…大丈夫?」

「フフ…んー、なんとかね。」

「道明寺とは話したの?」

「ごめんね、せっかく2人で過ごす予定だったのに。」

「そんな事、気にしないでよ。
彼と別れたって本当なの?」

滋さんには長年付き合っている彼がいる。
確か、日系アメリカ人でNYに住んでいるはずだ。
5年ほど前に仕事で知り合って、その後何度かデートをした後、滋さんから付き合って欲しいと告白した。
遠距離でもうまくいっているとばかり思っていたのに、まさか別れたなんてあたしも道明寺も寝耳に水だった。

道明寺はNYで何度か滋さんの彼と顔を合わせたことがあるらしい。
長身のイケメンで滋には勿体ねぇ、と珍しく誉めていたのを覚えている。

だから、さっきあたしの部屋から帰っていく滋さんを、あたしじゃなく道明寺が追って話を聞いた方がいいと思い、あたしは道明寺にその役をお願いした。

「付き合ってもうすぐ5年。
将来について考えた時に、今が分岐点なのかなぁと思ったのよ。」

「分岐点?」

「そう。
彼には進む道があって、それはあたしの進むレールとは違うって事。」

「……。
滋さんはそれでいーの?彼の事、愛してたよね?」

「…愛かぁー。愛ってなんだろう。」

ぼそっとそう呟いた滋さん。
その声が、あたしには泣いているように聞こえた。



滋さんとの電話を切った後、しばらくして今度は道明寺から着信があった。

「滋から電話来たか?」

「うん。」

「なんて言ってた?」

「…泣いてた。」

「泣いてた?あいつが?」

「泣いてたように、聞こえた。」

本当に滋さんが泣いていたかは分からない。
けれど、あの声からは、心を痛めているのは間違いないはず。

「…ったく、タイミング悪りぃよな。」

「ん?」

「せっかく、あいつの前でイチャついてやろうと思ってたのによ。」

「殺されるよ。」

「ぷっ…だな。
しょーがねぇけど、滋が元気になるまで見守ってやるしかねーか。あいつには散々世話になってるし。」

あたしたち3人の関係はいつも滋さんの明るさで成り立っていた。部屋に誘ってくれて、バカ話をして、いつもあたしたちの愚痴を笑いながら聞いてくれた滋さん。

今度はあたしたちがそうする番だということは、口に出さなくても道明寺も分かっているはず。

「今週末、久しぶりに3人で呑みに行こうか。
気分転換に、お洒落なお店で食事でもして、そのあとゆっくり話せる場所に移動でもする?」

「ああ。メープルのバーに電話しておく。」

そんな会話をした5日後の金曜日、

オフィスで仕事をしていると、急に周囲が軽く騒めき出した。
なに?と思いながら顔を上げると、
道明寺がうちの課に入ってきて、真っ直ぐにあたしに近づいて来る。

時計は3時半。
休憩時間でもないこんな時に、ほとんど仕事で接点のない道明寺が現れるのは激レアで、周囲が目を泳がせている。

そんな周りの目も気にせずあたしに近付いてきた道明寺は、あたしの耳元で呟いた。

「滋が居なくなった。」

「……は?」

その言葉の意味が全く理解できない。
そんなあたしに、道明寺は今度はまっすぐ目を見て言った。

「滋が昨日から会社を休んでる。
今日の朝、職場に電話がきてしばらく休ませて欲しいって言ってきたらしい。」

「…しばらくって?」

「分かんねぇ。携帯に連絡しても繋がらねーし。」

あたしも急いで携帯を操作して滋さんにかけてみる。
道明寺が言うように、繋がらない。

「牧野、何も聞いてねーよな?」

「…うん、聞いてない。」

「あいつ、おかしな事考えてねーといいけど。」

滋さんに限ってそんな事はないと思う。

けど、
あの時の、泣きそうな声。
それが今になって耳に残る。

にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村

ランキングに参加しています。応援お願いしまーす⭐︎

コメント

  1. ささちゃん より:

    いつも楽しく拝見しています。
    旧サイトからずっと拝見しています。
    たまに旧サイトも見直してます。
    何度読んでも楽しいワクワクします。
    そこでお願いですが
    このサイトの作品も増えてきて 読み返そうとしても自分が読みたいタイトルまで戻るのが大変です。
    インデックス カテゴリー 作っていただければ幸いです。
    よろしくお願いします。

タイトルとURLをコピーしました