不埒な彼氏 33

不埒な彼氏

3年後

会社に入って半年の僕には面倒見のいい先輩がいる。
その先輩のおかげで、右も左も分からない新入社員の僕もなんとか大企業の荒波に揉まれながら奮闘している毎日。

「香田くん、書類出来た?」

「あっ、はい、なんとか。
でも、少し分からないところがあって、」

「どこ?」

僕の手元にある書類を覗き込みながら聞いてくる先輩の牧野さんに、書類を手渡すと、

「んー、ここは訴訟になったときに重要だから、もっと細かく検討した方がいいかもね。
参考資料がファイルにあるから、それ見てもう一度その部分はやり直そうか。
でも、凄いよく出来てるよ、香田くん。
あたしが新人の頃なんか書類作成は全然ダメだったから。」

そう言って、いつものように必ず僕が上がる言葉をかけてくれる牧野さん。

道明寺HDに入って半年。
3つ上のこの牧野さんは法務課の先輩で、僕の教育係。
このスカッとした性格に、童顔の可愛らしい顔。
会社での仕事も、同僚への気配りもかなり出来る。
噂に聞くと、英徳高校を出て、そのまま大学にも進んだいうから、実家もかなりの金持ちなのかもしれない。
それなのに、そんな素振りは一切見せず、上司がお土産で買ってきたお菓子の箱や包装紙まで丁寧にしまっておくような今時では珍しい女性なのだ。

「香田くん、そう言えば今日の夜、大丈夫だよね?」

「あっ、はい。
今日もかなり飲まされますよね?」

「たぶんね。あははは、香田くん課長のお気に入りだから我慢我慢。」

なぜか僕は酒が強いからという理由で課長に気に入られ、よく飲みに連れられる。
野郎ばかりで飲んでも何が楽しいんだと思うけれど、今日は課の全員が参加するというから少し朝から楽しみだったりする。

なぜなら、酔ったときの牧野さんが無茶苦茶可愛いからだ。

「香田くーん、次何飲む?」

酔うといつもより甘くて、舌足らずなしゃべり方になる牧野さんは、こんな席でも周りのお世話係をかって出てくれて、酒の注文から料理の取り分けまでやってくれる。

「牧野さん、牧野さんは次何飲みますか?」

「あたし?あたしはもうやめとく。」

「えっ、まだ2杯しか飲んでないですよね?」

「これを越えると危ないからあたし。」

そう言って酒のせいなのか赤い顔で俺を見つめる顔がドンピシャに俺の胸にズキュンとくる。

「帰りが心配なら、俺が送って行きますよ。」
これを機にプライベートでももっと牧野さんを知りたいと、周りに聞こえないように、声のトーンを抑えて牧野さんに囁いてみる。

それなのに、
「香田くん、カナちゃんも酔ってるみたいだから、帰りお願いね。」
と、同期で新人の気の強い女の面倒を任される。

飲み会もそろそろ終盤に差し掛かり、カラオケ好きな課長の提案で場所を移すことになり、牧野さんもてっきり行くと思っていたのに、
「あたしは、お先に。」
なんて言い出すから、僕はこれはチャンスと、
「僕もこれで、」
と、言いかけたとき、

店の入り口に長身のシルエットが立ちはだかった。

「つくし。」

「……道明寺?」

お会計をしていたカナちゃんが、その人物を見て思わず小銭を床にぶちまけてしまったのもしょうがない。

「専務っ。」

「おう、そろそろ終わる頃かと思ってよ。
こいつ、連れて帰っていいか?」

課長にそう言って、牧野さんの腰に手を当てるのは見間違えるはずもないわが社の専務、道明寺司氏。

「道明寺っ、」

「んだよ、何度も電話したんだぞ。」

「遅くなるって言ってあったでしょ。」

「おまえ2杯までしか飲んでねーよな?」

「飲んでませんっ。」

小柄な牧野さんを今にも腕の中に閉じ込めそうな勢いに、見ているこっちまで赤面してくるけれど、かっこいい人は何をやっても様になって許されるんだなぁーと見とれてしまう。

「専務っ、お忙しいのに牧野さんをお借りしてすみません。」

そう言って一回りも二回りも年上の課長が頭を下げるのを見て、慌てて

「課長っ、やめてください。
道明寺も、目上の人には敬語っ!」
と、牧野さんが道明寺HD御曹司の専務に怒鳴っている。

「あ?ったく。
牧野がいつも世話になって……ます。
先に帰らせて貰ってもいい……ですか?」

たどたどしい敬語に見てるこっちまで吹き出しそうになるのを抑えている僕の目の前で、盛大に吹き出してる牧野さん。

「つくし、笑うなっ。」

「だって……ククッ……でも、よく出来ました。」

笑いながら専務を見上げてそう呟いた牧野さんの顔は、僕が今まで見た中で一番甘く、そして、一番可愛い先輩の顔だった。

あぁー、牧野さんって彼氏にはこんな顔するんだ。

ペコリと頭を下げて店を出ていく二人を見つめながらそう思っている僕に、課長が一言。

「牧野さんはやめときな香田くん。
彼女は二ヶ月後には道明寺夫人だからね。
専務を敵に回すと怖いよ。
なんてったって、あの二人は高校時代からラブラブで有名だったらしいからね。」

あー、そういうことか。
今日の飲み会は課長から何も知らない新人の僕への優しい慰め会だったのかもしれない。

「さっ、今日はとことん飲むぞ香田くんっ!」

「はいっ、課長。」

不埒な彼氏
Fin

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