道明寺HDの入社試験はさすが世界に通用する大企業だけあって、他のどの会社よりも厳しいものだった。
面接のグループディスカッションでは、専門的用語が飛び交って付いていくのにやっとだったけれど、でも今あたしが持っている出来る限りの力を出し切った感は充分にある。
あとは運。
特別な才能もコネもないあたしには、それが一番重要だったりもする。
することは全部やった。
あとは結果を待つだけ。
予定していた就職活動は全部終わり、今のところ大手企業が一社と先輩の紹介で法律事務所からも声がかかっている。
もし、道明寺HDがダメなら、そのどちらかに決めるしかないけれど、どちらにしても就職浪人からは免れてほっとした。
「なぁ、………おまえ何か欲しいものあるか?」
「なによ、突然。」
「何でもいいから言ってみろ。」
闇雲にそう言われても欲しいものなんて
…………ある。
「欲しいものっていうか、必要なものはどっさりあるよ。」
「例えば?」
「例えばー、仕事に必要なリクルートスーツでしょ、それに歩きやすいパンプス、あとは、仕事の書類が入るようなガッチリした鞄。」
「とことん色気のねえ女。」
「っ!あんたが言ってみろって言ったから話したんでしょ。欲しいものと色気になんの関係があるのよっ。」
そう言って拗ねたあたしをクスッと笑いながら見つめて
「おまえもうすぐ誕生日だろ。
その前にはクリスマスもあるしよ。」
と、頭を撫でてくる道明寺。
そんな道明寺に、あたしは
「あー、すっかり忘れてた。
でも、今年はプレゼントくれるんだ?」
と、ニヤリとしながら聞いてみる。
「……まぁな、」
「直接くれるの?
それとも、いつも通りお姉さんから貰えるの?」
そう聞くと、あたしを驚いた顔で見る。
「なんで、おまえそれ…………」
「お姉さんから聞いた。
…………分かり辛い男。」
そう言って睨んでやると、あたしのことを後ろから抱きしめながら、道明寺が耳元で甘く囁いた。
「今年はどっちも一緒に過ごそうぜ。
おまえの欲しいものは全部俺がプレゼントしてやる。」
「はぁ?さっきのは適当に言っただけだし、あんたにおねだりするつもりなんてないし、」
まだまだ言いたいことはあるのに、
あたしの言葉を遮るようにして今度は道明寺がニヤリと笑いながらあたしに言ってくる。
「その代わり、俺にもプレゼントを寄越せ。」
「寄越せって、高いものじゃないでしょうね?
あたし最近バイト減らしてるから、そんな高いもの言われても困るからね。」
「バカ女。
俺がそんなことおまえに要求するかよっ。」
「じゃあ、……なに?」
この男に限ってはどんな難題を言ってくるのか分かったもんじゃない。
警戒しながら恐る恐る、背中にピタリと張り付く道明寺に聞くと、
「24日、空けとけ。」
と、ポツリと呟いた。
「え?」
「だから、……24日のクリスマスに、邸でパーティーがある。
今年は……おまえを連れて行きてぇーんだよ。
嫌か?」
「…………。」
黙るあたしに、何も言わずまた頭を撫でてくれる道明寺。
毎年恒例のクリスマスパーティー。
道明寺邸で盛大に開かれるそれに、一度も顔を出したことがないあたし。
道明寺の彼女として自信がなかったし、道明寺のお母さんに歓迎されるはずがなかったから。
でも、今年は道明寺のことを信じているし、お母さんとも先日直接対決したばかり。
だから…………、
「道明寺…………、
あたし、ドレス持ってないよ。」
「っ!」
「どうせなら、今年のクリスマスプレゼントはパーティーに着ていくドレスにしてよ。」
こんなに道明寺が嬉しそうな顔をするなら、窮屈なパーティーも悪くないなと思う。
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