イツモトナリデ 19

イツモトナリデ

滋の勘の鋭さには敵わねぇ。
結局、俺が牧野の部屋にいることはあっという間にバレて、
「どういう事か説明してもらうわよ。」
と、ニヤニヤ顔のこいつにリビングに座らせられた。

この部屋で俺たち3人が揃うのは初めてだ。
牧野が熱いお茶を淹れてリビングに戻ってくると、早速滋の爆弾が落とされた。

「つくしのブラウスのボタン外して、自分のネクタイまで緩めて、まさか襲おうとしてた訳じゃないわよね?」

その言葉に牧野が慌てて、「ちがっ、そーじゃなくて」と否定しようとするが、俺は被せて言ってやる。

「分かってんなら、そのまま見逃せよ。」
あの場で滋が来なければ、確実に俺は牧野をベッドに押し倒していた。

「道明寺っ!」

「見逃そうかなぁーなんてちょっとは思ったんだけど、やっぱり尋問した方が面白そうだと思って。
それにしても、いつの間にあんた達そういう事になったのよ。」

「…今日、」

「今日っ?!それなのに、もう襲おうとしてたって訳?」

「おまえ、襲うとかこいつの前でやめろよ。」

好き同士、自然の流れでそういう行為に至ろうとしていたのに、襲うとか人聞き悪い言い方は良くねぇだろ。

「つくし、二階堂先輩とは?」

「ごめん、別れたの。
滋さんにすぐに報告しなくちゃいけないのに、なかなか言い出せなくて。」

「そう、それじゃ、全て解決って事ね。
ほんと、こっちまでヤキモキしたわよ。
このままつくしは先輩とハッピーエンドを迎えて、司は大失恋の沼底に落とされるとばかり思ってたから。
良かったわね、司。長年の片想いが成就して。」

「はぁー、マジで滋、おまえもう喋んな。」

「ぷっ、なんでよ、つくしには言ったの?ずっと好きだったって事。」

「いーから、おまえもう帰れ。」

このままこいつがいると、恥ずかしい過去が全てバラされる予感しかねぇ。

それなのに、滋はめちゃくちゃ楽しそうに牧野の横に移動して、
「司がいつからつくしを好きだったか教えてあげようか?」と言い始めやがる。

「うるせぇ。俺が追々こいつに教えるから心配すんな。」

「なんか、その言い方やらしぃ。」

「あ?」

「俺が少しずつ調教します、みたいな?」

「全然違うだろバカ。」

そんな俺たちの会話を聞いていた牧野が不思議そうな顔で呟いた。

「…片想いって、どういう事?」

「ん?」
「あ?」
俺と滋が同時に聞き返す。

「道明寺が片想いしてたって、…あたしに?
え、いつから?
滋さんは知ってたって事?」

俺の苦労なんて全然気付いていなかった牧野は、ここにきてようやく知ったようだ。
俺が長年好きだったって事を。

「あのねー、あたしが言えることはただ一つ。
あたしたちが就職して3人で集まるようになった時には、すでに司はつくしが好きだった。そうよね?司。」

「自信満々に言うな。好きだなんて一度も言ったことねーだろ。」

「口にはしてないけど、態度を見ればわかるのよ。」

口にはもちろん、態度にも出さないように気をつけていたはずなのに、滋にはバレバレだったって事か。

「でもっ、道明寺はあたしにはそんな態度じゃなかった。
逆に、バカだのアホだの色気がないだの言ってあたしの事散々怒らせてたくせに。」

牧野が拗ねたように俺を睨みながら怒って言ってくる。

「それは…、おまえが他の男にしか興味がねーからだろ。」

「ん?」

「こんなにいい男がすぐ隣にいるのに、何年経っても二階堂の事追いかけてただろ。」

「いい男?どこかしら。」

「滋、うるせぇ。」
牧野の隣に座る滋にめがけてクッションを投げつけてやる。

「牧野、おまえさっき俺に言ったよな?もう友達としては見られないって。
俺はもう何年も前からそう思ってた。その気持が抑えきれなくなってきて、正直限界だった。」

牧野と滋が俺を見つめる。

「俺たち、付き合うって事でいいんだよな?
滋の前ではっきりさせようぜ。」

うるせぇ滋を黙らすには、目の前で交際宣言してやるしかねーだろ。

「牧野、俺はおまえが好きだ。
おまえは?」

滋に投げつけたクッションに顔を埋めて黙るこいつ。
その耳が真っ赤で、隣の滋が肩を揺らして笑ってやがる。

「牧野、返事は?」
もう一度優しく言ってやると、ようやく顔をあげた牧野が、

「あたしも、す…、すー、すーき。」
と、めちゃくちゃしどろもどろで言いやがる。

多分二人きりだったら確実に押し倒してる。
それくらい、こいつの口から聞きたかった言葉だから。

「はぁー、蟹を配達に来てみれば、とんだ惚気の現場に出くわしちゃったわ。
さぁ、邪魔者はさっさと帰るわね。」

滋がそう言って立ち上がる。

「待ってよ、滋さん!せっかく来たんだから、ゆっくりして行ってよ。」

「司の目が早く帰れって言ってる。」

「おう、帰れ帰れ。」

どうせ下に運転手を待たせてあるんだろう。
滋が帰ったら、牧野とさっきの続きを……。

そう一瞬邪な気持ちが浮かんだその時、玄関に向かっていた滋が振り向いて、俺たちを見て言った。

「あー、そういえば、あたしも大事な事言ってなかったんだ。」

軽い口調でそう言った滋に、俺たちも
「ん、なに?」
と、軽く聞き返す。

すると、こいつがにっこり笑いながら言った。

「あたし、彼氏と別れたから。」

「……え?!」
「……あ?」

予想外の言葉に固まる俺と牧野。

「色々あってね、別れる事にしたの。
まぁ、そのうちゆっくり話すわ。」

笑ってそう言いながら手を振る滋。
でも、俺たちには分かる。

こいつが笑ってない事を。

牧野が俺を見る。
俺もそんな牧野にコクコクと頷いた後、
「後で電話する。」と牧野に告げて、
脱いでいたスーツの上着と鞄を手に取り、滋の後を追う。

強がって笑ってるのは見え見えだ。
いつも隣にいるこのアホな親友を、
流石に今は一人にできねーだろ。

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