無事に司法書士の試験に合格しても、あたしにはまだまだやることがある。
それは、就職活動。
周りの学生からはかなり遅れてのスタートになったが、司法書士の試験に合格しなければ受けられる企業も変わってくる。
あたしが希望するのは法務課のある企業。
いくつか事前にリストアップをして説明会にも参加してはいたけれど、どれも大企業で受かる自信なんて全くない。
そうなれば、またもフリーターの可能性。
せっかく、司法書士試験に合格して一息ついたのに、またここから死ぬ気で頑張らなきゃと、鏡の前で自分の頬をパンパンと叩き、朝から気を引きしめた。
そんなあたしの後ろでチャラララーンと呑気に携帯がなる。
「はいっ、もしもし。」
「つくしちゃ~ん。おはよー。椿で~す。」
久しぶりに聞くお姉さんの声。
「つくしちゃん、今日の夜会えないかしら?
これから日本に戻る予定なの。
つくしちゃんの都合がよければご飯でも一緒にどう?」
「はい、もちろん。
実はあたしもお姉さんに会いたかったんです。」
即答するあたしに、
「なになに~?私に何か相談?
もしかして、司が浮気したのかしら?
それなら、ボコボコにしてやらないとダメ……」
「お姉さんっ、違います違いますっ!」
慌ててお姉さんの妄想を遮ったあたしは待ち合わせの時間と場所を決めて電話を切った。
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お姉さんに会うのは久しぶり。
いつも会うときはたくさんのお土産を持ってきてくれる。
「いつもいつもこんなに素敵な物をありがとうございます。」
ヨーロッパのお土産だという皮の手袋を眺めながらそう言うあたしに、
「いいのいいの。つくしちゃんにはお礼をしてもしきれないから。」
と、笑うお姉さん。
「お礼?」
「そうよ。あのバカでどうしようもない弟を愛してくれてるんですもん。」
「っ!あ、あ、愛してる……なんて、」
「え?愛してないのー?」
「いえ、愛して……ますけど……」
慣れない言葉にモゴモゴしてるあたしに、
「相変わらず可愛いわねー。」
と、大きな口を開けながらも綺麗に笑うお姉さん。
「司とうまくやってる?」
「はい。」
「そう、よかった。
やっと、司も本気を出すことにしたようね。
ったく、振り回されるこっちの身にもなってほしわ。」
2度も別れたりくっついたりしてたあたしたち。それに付き合わせたようで申し訳ない。
「振り回してました?」
「ええ、かなりね。
もっと早く素直になればいいのよ。
つくしちゃんを不幸にするかも……なんて臆病なこと言ってたけど、結局自分自身の気持ちに嘘付けなくなったんでしょ、あのバカは。」
「バカって…………」
いつもあたしだって、道明寺のことを『バカ』って呼んだりしてるけど、こうもバカバカ連呼されると…………。
「でもね、つくしちゃん。
司はいつもつくしちゃん一筋だったから、それだけは誤解しないでね。
ボン・キュッ・ボンの女がいいなんて言ってたけど、NYにいるときも女の子と遊びにいくなんて1度もなかったわよ。
それに、つくしちゃんへのプレゼントは毎年心を込めて選んでたわ。」
「え?プレゼント?」
道明寺からは、記憶にあるかぎりプレゼントを貰ったことなんてないはずだけど……。
キョトンとしてるあたしに、
「私からあげてた誕生日プレゼントはね、あれは実は司からなの。
照れ臭いからって、毎年私から渡させてたけど、選んでたのは全部司。
私からなら素直に受けとるだろうって。
でも、今年はもうそんなことしないわよっ!
二人で仲良くやってちょうだい。
あたしはいつまでもお節介なことしてあげないんだからっ。」
道明寺からは溢れるほどの愛情を貰ってる。
でも、それは今に始まったことじゃなくて、
あたしが一人相撲だと勘違いしてたころからずっと、変わらずに。
それを、一緒にいればいるほど感じるあたし。
だから、あたしはお姉さんに相談したかったのだ。
「お姉さん。」
「なに?そろそろ本題かしら?」
勘のいいお姉さんにはお見通しらしい。
「あたし、今、就職活動してるんですけど、
…………道明寺HDを受けようと思ってます。
そのために司法書士の資格も取りました。
あたし、……道明寺と一緒にいればいるほど思うんです。
将来…………、
もっとあいつの近くにいたいって。
でも、こんなあたしじゃ、やっぱり道明寺のお母さんは…………」

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