自分のオフィスに戻りデスクに着いた途端、
机に突っ伏して目を閉じる。
すると、つい数分前の出来事が蘇ってきて、あたしは思いっきり頭を抱えた。
「牧野さん、どうしたの?」
斜め前に座る二つ上の先輩が、挙動不審のあたしに声をかけて来たけれど、
「…う゛ぅーーー。」
と、あたしは項垂れるだけ。
だって、だって、
とんでもない事をしてしまった。
まだ唇に感触が残っている。
道明寺とキスをした。
それも、会社で、
誰かに見られてもおかしくない会議室で、
あんなに身体を密着させて。
思い出して、また悶絶する。
だめだ、あたしもう今日は仕事になんない。
次に道明寺に会ったらどんな顔をすればいいのだろうか。
寝ぼけていないと言った道明寺、それならあのキスはどういう意味でしたのだろう。
確かめたいけれど、確かめるのが怖い。
ぐるぐるとそんな事を考えているうちに、あっという間に終業時間になり、
「今日はもう帰りなさい。」という先輩の痛い視線を背に、あたしはオフィスを出た。
エレベーターに乗り込み1階のエントランスまで下りて、会社を出ようとした所で、
「ちょっと付き合え。」
と、後ろから腕を取られ捕獲された。
見上げると、今1番会うのが気まずい道明寺の姿。
「ど、道明寺っ!」
「なに食う?」
「えっ?」
「まずは腹ごしらえしようぜ。」
そう言って、あたしの返事も聞かずに会社近くのパスタのお店へ連れて行かれた。
店内が混んでいて助かった。
カウンター席に二人で並んで座る。
これが、正面に座るテーブル席だったら、あたしはどんな顔で道明寺を見ればよいかわからない。
二人で黙々とパスタを食べた後、近くの駅から地下鉄に乗り込み帰路に着く。
その間も、道明寺からはなんの話もない。
むしろ、いつもより口数が少なくて、その雰囲気に押し潰されそうになる。
あたしのマンションがある駅に着くと、
「じゃあね。」
そう言って電車から降りようとしたあたしに、
「送っていく。」
と、道明寺も一緒に降りようとする。
「いーよ、大丈夫。まだ時間早いから。」
そう言うと、
「話すことあるだろ俺たち。」
と、道明寺はあたしの腕を取った。
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:
マンションのすぐ目の前にある小さな公園。
昼間は小さな子供とお母さんの姿をよく見かけるけれど、流石に夜7時の公園には人影はない。
ベンチに座ろうかと探してみたけれど、どうやらベンチはないらしい。
諦めて2つ並んだブランコにあたしたちは腰を下ろした。
何年ぶりだろう、ブランコに乗るなんて。
この地面から足が離れる感覚は日常生活では味わえない楽しさだ。
「わぁ、久しぶりにブランコに乗った!
気持ちぃー。」
はしゃぐあたしを道明寺は呆れたように鼻で笑う。
「小学生以来かな。いや、中学生の時も友達と公園で乗ったかも。でもさ、ブランコってやっぱ人気で、特に小学校の校庭にあったブランコは長蛇の列でなかなか乗れないのよね。
待って待ってようやく順番が来たと思ったら、授業が始まるチャイムが鳴るなんて事もあったなぁー。」
懐かしさに顔が綻ぶあたしの横で、道明寺が言う。
「ブランコに乗りたくて並ぶなんて聞いたことねぇ。」
「…はぁ?あんたは並んだ事ないの?」
「ねーよ。だってうちの邸庭にブランコあったしな。」
「……。」
相変わらずこの人とは話が合わない。
ギロっと睨んでやると、道明寺は綺麗にニコッと笑った後、今度は立ち上がりあたしの背後に回った。
そして、ブランコに乗るあたしの背中を押し出した。
「ちょっ!やめてよ。」
「俺がこいでやる。」
「やっ、ばかっ、怖い怖いっ。」
道明寺のバカ力で、あたしの身体は大きな弧を描き出す。
「おろしてよー、道明寺っ。」
「ブランコ、並んでまで乗りたかったんだろ?」
「それは小さい頃だっつーの!」
道明寺とこんな口調でやり合うのは久しぶりだ。
道明寺を意識し出してから、なんとなくあたしたちの距離は遠のいていた。
今までのような気楽な相手としては見られない。
だって、あたしの心臓はこの人といるだけで煩いほどドキドキと鳴るから。
背中を押していた道明寺の手が緩み、大きく弧を描いていたあたしの身体が少しずつ地面に近くなる。
そして、もう少しでブランコが止まる…という所で、道明寺が言った。
「牧野、二階堂が好きか?」
「…え?」
振り向こうとするあたしの背中を道明寺がもう一度優しく押す。
「おまえがあいつを好きなのは知ってる。
けど…、俺はさっきのおまえとのキスを無かったことに出来ねぇ。」
「道明寺、」
「二階堂にはキスの事は言うな。
おまえに付き合ってる相手がいるのに、俺が強引にした事だ。」
その言葉に、あたしは慌てて
「道明寺、あたしっ、二階堂先輩にちゃんと、」
と、言う。
すると、その先を言わせてもらえず、
「卑怯な行動をしてるのはあいつも同じだ。
だから、あいつに後ろめたさを感じる必要はねぇ。」
と、道明寺が怒ったように言った。
「牧野、マジであいつはやめておけ。
おまえが少しでも俺の事男として意識してくれるなら、あいつより絶対におまえのこと幸せにする。
……おまえの悲しむ顔みたくねーんだよ。」
どうしてそんなに悲しそうな声で言うのだろう。
道明寺が今どんな顔をしているのか知りたくて、あたしはブランコからピョンと飛び降りると、道明寺の真正面に立った。
道明寺の顔を見上げる。
月明かりに灯されたその顔は、男として十分に意識しすぎるほど、あたしの心臓が痛い。
「道明寺、あたし二階堂先輩にちゃんと話したの。
もう、付き合えないって。」
さっき言おうとした続きをあたしは口にする。
「あ?マジかよ。」
「うん、もう2週間も前。」
道明寺を好きだと自覚してすぐにあたしは先輩に打ち明けた。
好きな人がいると。
自分の気持ちに今まで気付かずに、先輩に失礼な事をしてしまって申し訳ないと正直に話した。
すると、先輩は言った。
「司くんだろ?」
どうして知っているのかと驚くあたしに、先輩はもう一つ驚く事をした。
あたしに深々と頭を下げて謝ってきたのだ。
理由を聞いてあたしは自分の後ろめたさが幾分か和らいだ。
先輩にも好きな人がいると知った。
いつも隣にいて友達のような存在だった相手が、自分の大切な人だったと今頃になって気付いたそうで、
なんと、それは…男性だったと。
衝撃の展開に驚くと同時に、先輩のその気持ちが痛いほど理解できたのだ。
「イツモトナリデ」過ごしてきた人が、本当は誰よりも大事な人。
「道明寺、」
「ん?」
「あたし、道明寺の事、もう友達としては見られない。」
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お待たせしました。16話で〜す!
コメント
更新ありがとうございます♪
しかも今日2つ目の更新。めっちゃ嬉しいです♡
これからも応援しまくります。
拍手が出来ないのが残念ですが、ひとりで家で更新ある度に拍手してますよ♪♪
更新めっちゃ嬉しいです
ありがとうございます。
相思相愛 これでloveモード一直線ですよね??
期待してます。