道明寺に連れられてタクシーに乗り込むと、いつの間に覚えたのか運転手にあたしのマンションの住所を告げる道明寺。
いつもは地下鉄か道明寺邸の広い車に乗っているせいかタクシーの狭い空間に密着して乗るのは落ち着かない。
「ねぇ、……さっきの人、いいの?」
「あ?別にたいした知り合いでもねーし。」
「でもっ、昨日はどうもって言ってたじゃない。」
あたしがそう言うと、なぜかクスッと笑って、
「おまえが気にするような事じゃねぇ。」
とあたしの頭をクシャっと撫でる。
「さっきの女は○○商事の社長の婚約者。」
「婚約者?」
「そう、社長より18歳年下らしい。」
「18歳っ?」
「ああ。昨日の会食に連れてきてたんだよ。
けど、社長が会食の途中で『テレビにしても、本にしても互いの好みにジェネレーションギャップがありすぎる』っつー会話をし出して、なんとなく二人の雰囲気が微妙になってよ。
俺からしてみれば、ノロケにしか聞こえねぇんだけど、たぶんあのあと喧嘩になっただろうなと思って。」
「へぇー。あー、それで昨日は大丈夫だったかって聞いたの?」
「ああ。……っつーか、そんな気になるか?
もしかして、俺とさっきの女が、」
「うるさい、もうすぐ着くよ。」
道明寺が変な誤解をする前にズバッと遮り、鞄からお金を払うため財布を取り出すあたし。
「俺が払うからいい。」
「なんでよ、あたしの家まで乗ったんだからあたしが払う。
あんたはそのまま道明寺邸まで乗って帰るんでしょ?」
「あ゛?」
いきなり大きな声で聞き返してくる道明寺に、
運転手さんもビクリと肩を揺らしている。
「なっ、なによ。」
「なによじゃねーよ。
俺も降りるに決まってるだろ。」
「はぁ?なんで降りるの?邸の車が迎えに来るの?」
「来るわけねーだろ。」
「…………。」
「あぁー、やべぇ、マジ具合わりぃ。
吐きそうだ。」
「嘘つくなっ。」
「久しぶりに酔ったな。おまえうちで少し休ませろ。」
「ふざけないで、バカっ。」
狭いタクシーの後部座席で言い合うあたしたちに、運転手さんが申し訳なさそうに
「あのぉー、着きましたけど。」
と、声をかける。
「運転手さん、この人このまま乗っていきますから。」
「降りるって言ってるだろ。
このままタクシーの中で吐いてもいいのかよっ。」
「お客さんっ、それは困りますっ!!」
「だろ?」
バカみたいに勝ち誇った顔で、ひとつも具合悪そうになんて見えないこいつは、サッとブラックカードを運転手に手渡して支払いを済ませると、
「降りるぞ。」
と、あたしの手を取った。
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