約束の日曜日。
久しぶりにF4と優紀とあたしで西門さん行き付けのお店に集まっていた。
西門さんに会える日はハイテンションの優紀。
お酒の量もいつもより増えて目が離せない。
だから、このメンバーで飲むときはいつもあたしはほとんど飲まないようにしている。
今日も優紀の目がトロンとして来た頃、なぜか隣に座る道明寺もテーブルに肘をつき、そこに頭を乗せている。
「司、酔ったのかよ。」
「……。」
「珍しいなおまえが。
疲れてるのか?」
「……ここ2、3日、忙しくて寝てねーから。」
いつもあたしの前では何杯飲んでも顔色変えない道明寺が、珍しく酔っている。
そんな道明寺に西門さんがからかうように言う。
「司は心労だろ。」
「あ?」
「牧野に冷たくされて参ってるんだろ?」
「うるせー。」
「牧野、司をとことん苛めてやれ。
冷たく突き放して、もてあそんで捨ててやるんだーっ!」
拳を振りかざしてそう叫ぶ西門さんも相当酔ってるらしい。
そんな西門さんにみんな『バカか』と笑っていると、道明寺だけが笑わずポツリと呟いた。
「冷たく突き放して、もてあそんでもいいから、……捨てるな。」
「…………。」
意外すぎる道明寺の呟きに何も言えないあたし。
そんなあたしたちを見て、美作さんが言う。
「おまえらもう帰れ。」
「……でも、優紀が。」
「優紀ちゃんは俺が送ってくから心配すんな。
牧野、司の話きちんと聞いてやれ。
こいつにはこいつの事情があって、」
「あきらっ、それ以上言うな。
牧野帰るぞ。」
道明寺が立ち上がりあたしの腕を掴む。
花沢類が小さくあたしに頷き、手を振るのが見えた。
道明寺に腕を掴まれたまま店を出ると、半袖のあたしの腕に夜風が冷たくて、思わず縮こまる。
そんなあたしに、道明寺がスーツの上着を脱いで肩からかけてくれた。
「……ありがと。」
小さく呟いて歩き始めると、あたしの耳に、
コツコツコツコツと足音が聞こえ、
「道明寺さんっ。」
と、女の人の声。
振り向くとノースリーブの華やかなワンピースを着たすごく綺麗な女性。
「道明寺さんっ、お店でお見掛けして声をかけようと思ったんですけど、帰られるようなので追い掛けてきました。
あの、昨日はありがとうございました。」
そう言って頭を下げる。
昨日…………、
確かさっき『忙しくて寝てない。』道明寺がそう言っていた。
もしかして、この女性と一緒だったのか。
「いえ。
あのあと大丈夫でしたか?」
「……はい。」
道明寺の問いに照れたようにそう答える女性に、あたしはバカみたいに見とれてる。
綺麗な人……、華奢で手足が長くて、守りたくなるような女性。
そんなことを思っていると、ふと気付く。
彼女のノースリーブから見えるむき出しの肩。
「道明寺っ、」
「あ?」
「これ、彼女にかけてあげて。」
そう言ってあたしの肩にかけてある道明寺のスーツを脱ぎ、道明寺に手渡す。
「あたしはこれで。
じゃあね、道明寺。」
ペコリと頭を下げてダッシュで走るあたし。
やっぱりあたしとあいつは住む世界が違うわ。
あんな綺麗な人あたしは初めて見たけど、道明寺にとっては、『昨日も』『今日も』『明日も』、あんな人たちばっかりなんだろうなぁ。
それだもん、あたしみたいな『ちんちくりん』が珍しく見えるわけだ。
そんな風に納得しながらも、
……やっぱり胸が痛い。
8ヶ月経っても、やっぱり痛いものは痛い。
これって初恋だからなの?
パパがいつか言ってた。
初恋は厄介だって。
一生美化されて記憶に居座り続けるって。
そのあと、ママに怒られてたけどね。
そんなことを思い出しながら、フフ……と小さく笑い歩いていると、
突然、ガシッと腕を掴まれ引き寄せられる。
「バカかおまえはっ。」
抱きしめられたと気付くのと同時に、いつも利きなれたコロンの香りがする。
「道明寺?どうしてっ、」
「どうしてじゃねーよバカ。」
すごい不機嫌そうな声でそう呟いたあと、あたしを解放して正面から見つめる道明寺。
「勝手に行くな。勝手に俺から離れるな。
バカっ、すげー冷てぇ。」
あたしの腕を触りそう言いながら、
さっきと同じようにスーツの上着を肩にかけてくれる。
「これ、さっきの人に貸してあげなかったの?」
「おまえな、……ほんと何も分かってねぇ。」
「……。」
「俺はそんな優しい男じゃねーんだよ。
好きな女以外は凍え死んでもいいと思ってる男だ。
これはおまえにしか貸さねぇ。
俺のものはおまえにしか触らせねぇ。」
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