不埒な彼氏 22

不埒な彼氏

約束の日曜日。
久しぶりにF4と優紀とあたしで西門さん行き付けのお店に集まっていた。

西門さんに会える日はハイテンションの優紀。
お酒の量もいつもより増えて目が離せない。
だから、このメンバーで飲むときはいつもあたしはほとんど飲まないようにしている。

今日も優紀の目がトロンとして来た頃、なぜか隣に座る道明寺もテーブルに肘をつき、そこに頭を乗せている。

「司、酔ったのかよ。」

「……。」

「珍しいなおまえが。
疲れてるのか?」

「……ここ2、3日、忙しくて寝てねーから。」

いつもあたしの前では何杯飲んでも顔色変えない道明寺が、珍しく酔っている。
そんな道明寺に西門さんがからかうように言う。

「司は心労だろ。」

「あ?」

「牧野に冷たくされて参ってるんだろ?」

「うるせー。」

「牧野、司をとことん苛めてやれ。
冷たく突き放して、もてあそんで捨ててやるんだーっ!」

拳を振りかざしてそう叫ぶ西門さんも相当酔ってるらしい。
そんな西門さんにみんな『バカか』と笑っていると、道明寺だけが笑わずポツリと呟いた。

「冷たく突き放して、もてあそんでもいいから、……捨てるな。」

「…………。」

意外すぎる道明寺の呟きに何も言えないあたし。
そんなあたしたちを見て、美作さんが言う。

「おまえらもう帰れ。」

「……でも、優紀が。」

「優紀ちゃんは俺が送ってくから心配すんな。
牧野、司の話きちんと聞いてやれ。
こいつにはこいつの事情があって、」

「あきらっ、それ以上言うな。
牧野帰るぞ。」

道明寺が立ち上がりあたしの腕を掴む。
花沢類が小さくあたしに頷き、手を振るのが見えた。

道明寺に腕を掴まれたまま店を出ると、半袖のあたしの腕に夜風が冷たくて、思わず縮こまる。
そんなあたしに、道明寺がスーツの上着を脱いで肩からかけてくれた。

「……ありがと。」
小さく呟いて歩き始めると、あたしの耳に、
コツコツコツコツと足音が聞こえ、

「道明寺さんっ。」
と、女の人の声。

振り向くとノースリーブの華やかなワンピースを着たすごく綺麗な女性。
「道明寺さんっ、お店でお見掛けして声をかけようと思ったんですけど、帰られるようなので追い掛けてきました。
あの、昨日はありがとうございました。」
そう言って頭を下げる。

昨日…………、
確かさっき『忙しくて寝てない。』道明寺がそう言っていた。
もしかして、この女性と一緒だったのか。

「いえ。
あのあと大丈夫でしたか?」

「……はい。」

道明寺の問いに照れたようにそう答える女性に、あたしはバカみたいに見とれてる。
綺麗な人……、華奢で手足が長くて、守りたくなるような女性。
そんなことを思っていると、ふと気付く。
彼女のノースリーブから見えるむき出しの肩。

「道明寺っ、」

「あ?」

「これ、彼女にかけてあげて。」

そう言ってあたしの肩にかけてある道明寺のスーツを脱ぎ、道明寺に手渡す。

「あたしはこれで。
じゃあね、道明寺。」
ペコリと頭を下げてダッシュで走るあたし。

やっぱりあたしとあいつは住む世界が違うわ。
あんな綺麗な人あたしは初めて見たけど、道明寺にとっては、『昨日も』『今日も』『明日も』、あんな人たちばっかりなんだろうなぁ。

それだもん、あたしみたいな『ちんちくりん』が珍しく見えるわけだ。
そんな風に納得しながらも、
……やっぱり胸が痛い。

8ヶ月経っても、やっぱり痛いものは痛い。
これって初恋だからなの?
パパがいつか言ってた。
初恋は厄介だって。
一生美化されて記憶に居座り続けるって。
そのあと、ママに怒られてたけどね。

そんなことを思い出しながら、フフ……と小さく笑い歩いていると、
突然、ガシッと腕を掴まれ引き寄せられる。

「バカかおまえはっ。」

抱きしめられたと気付くのと同時に、いつも利きなれたコロンの香りがする。

「道明寺?どうしてっ、」

「どうしてじゃねーよバカ。」

すごい不機嫌そうな声でそう呟いたあと、あたしを解放して正面から見つめる道明寺。

「勝手に行くな。勝手に俺から離れるな。
バカっ、すげー冷てぇ。」

あたしの腕を触りそう言いながら、
さっきと同じようにスーツの上着を肩にかけてくれる。

「これ、さっきの人に貸してあげなかったの?」

「おまえな、……ほんと何も分かってねぇ。」

「……。」

「俺はそんな優しい男じゃねーんだよ。
好きな女以外は凍え死んでもいいと思ってる男だ。
これはおまえにしか貸さねぇ。
俺のものはおまえにしか触らせねぇ。」

にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村

ランキングに参加しています。応援お願いしまーす⭐︎

コメント

タイトルとURLをコピーしました