「司とより戻したの?」
「バカなこと言わないでよっ。」
「そーなんだ。俺はてっきりまた付き合い出したのかと思ってたけど。」
「花沢類、あたしはそこまでバカじゃないの。
2度も騙されたんだから3度目は引っ掛からないよ。」
ついこの間、道明寺がはじめてあたしに、
『好きだ。』と言った。
あんなに聞きたかったその言葉なのに、
めちゃくちゃ腹が立つ。
今さら…………。
3ヶ月前、道明寺に別れを告げてからあたしの気持ちはかなり整理がついた。
辛かった片想いからようやく抜け出して、前を向いて歩き出したと言うのに……。
それに、ほんの少しだけど気になる人もいる。
同じ学部の同級生で歳は2つ上。
尊敬できて、信頼できて、穏やかな人。
「告白してきた男には返事したの?」
「花沢類っ、あのさっ、あたしのプライベートに首を突っ込みすぎなんですけどっ。」
「だって、気になるんだもん。
面白いし。」
「面白がるなっ。」
花沢類は相変わらず、あたしのバイトが終わる頃フラリとやって来て、気付けばバイト先のカフェで紅茶を飲んでいる。
バイトが終わったあたしも隣に座り、一杯付き合って他愛ない話をしていくのが常。
「あたし、恋愛には向かないみたい。」
「ん?」
「道明寺ともうまく行かなかったし、佐々木さんとも友達の方が楽なの。
恋愛してる場合じゃないっ、勉強とバイトしろって脳に教え込まれて生きてきたから、あたしの体が拒否しちゃってるのかな~~。」
花沢類にも笑ってほしくて、おちゃらけて言ったあたしの言葉は、少しだけ不機嫌な声で欠き消された。
「そんなことない。」
「……え?」
「今までうまく行かなかったのは牧野のせいじゃないよ。
だから、…………臆病になるな。」
花沢類はいつもそう。
言葉数が多い訳じゃないのに、
いつもあたしのほしい言葉をくれるこの人。
「うん、ありがと花沢類。」
「俺、そろそろ行くわ。」
「そう?」
まだ5分ほどしか話していないのに、立ち上がる花沢類にそう声をかけると、 カフェの入り口をチラリと見て、
「うるさい男が来たからね。」
と笑う。
カフェの入り口には今入ってきたばかりの道明寺の姿。
店内に1歩入ったとたん、周りの空気が一変して、女性客が色めき出す。
「はぁーーーー。
どうしてあいつは花沢類みたく目立たないように入ってこようと思わないのかな。」
「プッ……、まぁ、司なりの牽制だろ。」
「はぁ?」
「とことんやることに決めたらしいな司。
牧野、頑張れよ、」
あたしの肩を叩き帰っていく花沢類と少し言葉を交わしたあと、すれ違うように道明寺があたしの前に立つ。
「バイト終わったんだろ?帰ろーぜ。」
:
:
おとなしくカフェを出て数メートル歩くと、
「ちょっと!毎回毎回、迎えに来ないでよっ!」
と、怒鳴るこいつ。
「ほんと、店にいるときはおとなしいくせに、1歩外に出たらギャーギャー騒ぐのは変わらねぇな。」
「当たり前でしょっ、自分のバイト先でもめるわけにいかないでしょ。」
「いい加減諦めろ。俺はこれからも出来るだけおまえの事は迎えにいく。
そして、おまえがどんだけギャーギャー騒いでも家まで送る。」
「勝手に決めるなっ。」
「うるせー、行くぞ。」
牧野をもう手離さないと決めてから、俺は今までしたかったことをとことんやることにした。
昼間は会えない分、こいつのバイトが終わる時間に会いに来る。
声が聞きたいときは迷わず電話する。
そして、何より変わったのは、牧野を考えないようにすることをやめた。
そのおかげで、俺の頭の中はこいつで溢れてる。
それなのに、相変わらずこいつはこの態度。
今までの俺のしたことを考えればしょーがねぇのは分かっているけど、想像以上になびかねぇ。
『好きだ。』『付き合おう。』
何度繰り返しても、
『あんたの言うことは信じない。』
と、全く取り合わないこいつ。
おかげで俺たちの話はいつも平行線。
「今度の日曜、暇か?」
「忙しい。」
「少しは考えてから返事しろよ。
総二郎が久しぶりに集まろうってさ。
おまえのダチにも声かけてるらしいぞ。」
「優紀も?」
「ああ。」
「オッケー、バイトも休みだし行けると思う。」
相変わらず可愛くねぇこいつ。
「俺の誘いは断るくせに、他の奴がいるならいいのかよ。」
そんな会話をしながら地下鉄に揺られ、あっという間にマンションの側まで来た俺たち。
マンションの下で、
「じゃあ。」
と俺に軽く手を上げ、階段を上がろうとするこいつに、
「牧野っ。」
と、声をかける。
「ん?」
振り向いた牧野に、
「喉乾いた。部屋でお茶でも飲ませろ。」
そう言うと、
「……はぁ?」
と、ものすげぇ色気のない返事。
「送ったお礼に部屋にあげろ。
まだ15分しか一緒にいねーだろ俺たち。
もう少し……おまえと、」
「道明寺。」
「あ?」
「一人の時に男を部屋に入れるな。
これ、あんたがあたしに口を酸っぱくしていってた言葉。忘れたの?」
「……いや、そーじゃねーけど、」
「覚えてるならおとなしく帰るっ!」
こんなとき、以前の自分の言動が首を絞める。
自分の気持ちを抑えてたあの頃は、牧野を部屋まで送っても決して部屋の中までは入らないように決めていた。
入れば男としての欲求が沸き起こる。
一度触れたら止まらなくなるのは目に見えていた。
だから、『寄ってく?』と誘われてもクールに断っていたのに、それが今は完全に仇となる。
「日曜っ、忘れんなよ!」
「ん、わかった。」
部屋に消える牧野を今日もマンションの下から見つめる俺。

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コメント
不埒だわ~。部屋に上げろとか