大学の卒業式。
その夜、行き付けの店でF4揃ってまったりと時間を過ごしていた。
「俺らの青春も終わったな。」
「なんだそれ。」
「だってよ、ここからはひたすら40年働かなきゃなんねーんだぞ?」
「総二郎の口からそんな真面目な話が出るとは思わなかったな。」
総二郎の愚痴に付き合うあきら。
その時、隣の類から携帯の着信音がした。
電話を耳に当て、なにやら話したあと、
「俺、約束があるから先行くわ。」
と、立ち上がる。
「おいおいおいおい、なんだよ約束って。
俺らよりも大事な奴か?」
「うん、そう。」
「類、学生最後の日に他のやつを優先させるってどーいうことだっ。」
いい加減酔いが回ってきてるあきらと総二郎に文句を言われながらも、
「なら、ここに呼んでもいい?」
と、相変わらず呑気に言いやがる。
「あ?俺らも知ってる奴か?」
「うん、牧野だよ。」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
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それから15分後、店の入り口に1か月ぶりに見る牧野の姿。
キョロキョロと店内を見回し、俺らに気付くと、一瞬固まったあと、スタスタと歩いて近付いてきた。
「みんなもいたんだ。」
「よっ、牧野元気だったか?」
「うん、美作さんも元気だった?
あっ、みなさん卒業おめでとうございます。」
思い出したかのようにそう言ってペコリと頭を下げ類のとなりに座る牧野は、
「西門さんも道明寺も元気だった?」
と、やっと俺の方を見る。
目があったぐらいでドキドキして、バカかと自分に苦笑するが、こいつにしか反応しない俺のレーダーは8ヶ月たった今も健在らしい。
「あっ、これ卒業のお祝いにと思って持ってきたんだけど、まさかみんなもいるとは思わなかったから花沢類のしかなくて……。」
そう言って紙袋の中から取り出したのは、類が好きな白をメインにした花束。
「何がいいか迷ったけど分からなくて、花なら後に残らないし、迷惑にならないかなと思って。」
「サンキュ、牧野。
部屋に飾るよ。」
「うん。」
相変わらず、類が『彼氏候補』と豪語するだけあって、牧野と類の関係は妬けるものがある。
頬を少しだけ赤く染める牧野に、
「俺の分はねーのかよ。」
と、思わず愚痴る。
「……だから、みんなもいるとは思わなかったから用意してないの。」
「でも卒業することは知ってただろ?
なら、祝いの電話ぐらいかけてきてもいいんじゃねーの?」
「……ん、そだね、ごめん。」
口を尖らせながらも素直に謝るこいつに
「俺は青好きだ。
だから、青い花で作った花束でいいぞ。」
と、言ってやる。
「はぁぁ?何言ってんのあんた。」
「だからっ、お祝いの花束は後日受け取ってやるって言ってんだよ。」
「あげるなんて一言も言ってないしっ!」
「それがお世話になった先輩に言う言葉かよっ。」
「誰がお世話になった先輩よっ!」
「おまえが言ったんだろ?俺のお陰で英徳が好きになったって。」
「…………。」
売り言葉に買い言葉。
いつもの俺たちの言い合いに、他の三人は呆れながら酒を飲み始めてる。
「そんなに欲しいなら今すぐあげるわよ。」
「あ?」
「花沢類っ、さっきの花束貸してっ!」
牧野の声に「はいはい。」と、呆れ声で花束を牧野に向ける類。
その花束からほんの少しだけ混じっている淡いブルーの花を強引に引き抜くと、ボキボキと茎を手で折りながら小さくまとめ、
「はいっ、これで満足?」
と、俺に差し出す牧野。
差し出されたのは、五センチほどに縮小された頼りない花たち。
あきらなんて、それを見て吹き出してやがる。
「お祝いの言葉も言ったし、お祝いの花束もあげたからねっ!
これで文句ないでしょ!」
そう言って俺を睨むこいつは、たぶん俺が反撃してくると思ってたらしい。
でも、手のひらにおさまるほどの小さな花束を、大事そうに見つめながら素直に「サンキュ」と呟く俺に、なぜか居心地悪そうに水をかぶ飲みした。

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