あの日から牧野は完全に俺と距離を取った。
電話も出ねぇ。
バイトもかなり減らして勉強に時間を費やしてるらしい。
そして、引越ししないはずだったマンションも引越していた。
どれもこれも類からの情報で、そのことにも腹が立つ。
「なんでおまえはそんなに牧野と連絡とってんだよっ。」
完全な八つ当たりだと分かっていてもおさまらない。
「次期、彼氏候補だからかなぁー。」
「あっ?ふざけんなっ!」
「司はさ、元カレなんだからもう論外。
『友達』に戻りましょって言われたんでしょ牧野に。」
カフェで別れを告げられたあの日。
あれから1ヶ月たった今でも、あの日のあいつが言った一字一句を鮮明に覚えてる。
なんどもリピートして自分自身に投げかけてきた。
「司、そろそろ牧野のことは忘れろっ。
久しぶりに俺らと飲みにいこうぜっ。
今日は女三人連れで来るらしいから男の人数が一人足りねぇんだよ。」
父親の仕事の手伝いしながらも、相変わらず遊び歩いてるお祭りコンビ。
「うるせーっ!おまえらの合コンに二度と付き合うかっ。
おまえに借りを返すために一度だけ付き合ってやっただけだろっ。」
あきらの実家に久しぶりに行った際、珍しいものを見た。
2本の日本刀。
あきらの親父がどこかの骨董人から仕入れたものらしく、かなり価値のあるレアなもの。
それに興味をそそられた俺は、少しだけ……と触らせてもらい、ふざける総二郎とやめればいいのに殺陣の真似事をした。
すると、迂闊にも俺ら二人の刀が当たってしまい俺が握っていた方の刃先がほんの少し欠けてしまったのだ。
あきらの親父に詫びを入れて弁償するしかねぇと思ったが、あきらに言わせると、収集することに夢中なだけで、その価値には興味がないコレクターだから、この2本の刀も倉庫に入れられるだけ、だから心配するなと。
その代わり…………、
一度だけでいい、明日の合コンに付き合え。
確か、合コンに行ったあの日も牧野と映画の約束をしていた。
あいつが珍しく見たいと言った映画。
はぁーーーーーー。
ため息を付きながらテーブルに肘を乗せ、両手で顔をおおう。
「おいおい、またため息かよ司。」
「…………うるせー。」
反撃の言葉も頼りない。
何かを考えると、それがどうしても牧野へと繋がってしまう。
あいつと交わした言葉も、
あいつと歩いた道も、
あいつのことを目で追ってた日々も。
「類、あいつは元気なのか?」
自分で確かめることさえ出来ないほど、今の俺は牧野から遠い。
「ん、元気だよ。
彼氏出来たみたい。」
「あっ?!
おまえが次期、彼氏候補じゃねーのかよっ!」
思わずそう叫ぶ俺に、
「そうだよ、今の彼氏と別れたら……の話。」
と、淡々と答える類。
「……どんなやつだ?彼氏って。」
「ほんとに聞きたいの?」
「…………いや。」
そうでしょ、と言いながら笑う類。
相手のことを考えると眠れなかったり…………、
それが本当の「好き」。
あの日、牧野が言ったこの言葉。
今の俺がまさにそれだ。
毎日目を閉じる度におまえが瞼に浮かぶ。
でもよ、おまえは知らねぇかもしれねーけど、
今までだって何度も、そう言う夜を俺は過ごしてきたんだぜ。
「司、そんなに怖い?」
「あ?」
「牧野にほんとの気持ちをぶつけるのが。」
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