「こんな無駄なこと、終わりにしよう。」
そう、こんなあたしたちの関係は『無駄なこと』以外なにものでもない。
あまりにも一方的すぎるこの恋は、まだ片想いの方がましなのではないかとさえ思う。
目の中に溜まった涙が、ベッドから立ち上がった際にポタリと床に落ちた。
くるりと体を反転させ、部屋の出口へと向かおうとするあたしの腕を、ベッドの上に座る道明寺が掴む。
「牧野っ。」
「離して。」
「待てって。」
答えの代わりにあたしは道明寺の手を振りほどくと逃げるように部屋から飛び出した。
今は何も話したくない。
こんな顔を見られたくない。
泣いてるなんて……知られたくない。
東の角部屋から走りだし、1階のエントランスへ続く階段を半分ほど下りたとき、後ろから強い力で道明寺に捕まった。
「牧野っ、俺が悪かった!
帰るなって、すぐ用意する。」
「離してっ、あんたとはもう金輪際、約束なんて絶対しないっ!」
「いいから、待てって!
マジで悪かった。……泣くな、」
「泣いてないしっ、悲しくなんてないしっ、
こんなの慣れっこだしっ!」
自分でもバカみたく悪態をついてるのは自覚してる。
でも、一度爆発した気持ちはもう抑える事ができないほど膨らんでたことに今更気付く。
「とにかく、用意するから待ってろ。
おまえの行きてぇとこあったんだよな?
すぐ着替えて、連れていってやる。」
「いい。もう行かない。
それに、あんたそんなにお酒臭くて運転できると思ってるの?
時計台の前で10時に、自分が運転して迎えに行くって言ったのはどこのどいつよっ!」
あたしの言葉が効いたのか、クルクルの頭をグシャグシャとかき混ぜてため息をつき、もう一度小さく言った。
「マジで……悪かった。」
頭を垂れて本気で反省しているように見える道明寺。
でも、これで許せばまた同じことの繰り返しだということは痛いほど分かっている。
だから、
「とにかく、そんなお酒臭い人と話したくないの。
あたしも折角バイトを休んで一日フリーなんだし、こんなことで時間を無駄にしたくない。
あんたは寝るっ!
あたしは他の人を誘って休みを有効に使うっ!
ね?だから、離してってー!」
「うるせーっ、帰るなーっ。」
階段の途中で押し問答を続けるあたしたちは、まさかそんなバカな言い合いを見られているなんて全く気付いてなかった。
「何事です?
日曜の午前中に、人の家で騒いでるのはどなたかと思えば、やはりあなただったのですね、牧野さん。」
その声は…………、
振り向かなくても分かる。
「司、みっともない格好で部屋から出てくるのはいかがなものかしら。」
その声の主である道明寺のお母さん、道明寺楓さん、通称『魔女』が指摘するように、今の道明寺の格好はいかにも高級そうなシルクっぽい素材のパジャマのズボンに、上は……裸。
「相変わらず、この家に出入りしてるようね牧野さん。
でも、司の邪魔をされては困るわ。
昨夜も遅くまで仕事のパーティーがあって疲れてるはずなの。あなたと出掛けるような時間は今の司にはないはずよ。
だから、お帰りいただけるかしら。」
「黙れ、クソババァっ!
俺と牧野のことに口を挟むなっ、牧野行くぞ。」
魔女に怒鳴った道明寺は、あたしの腕を強く掴み、今来た階段を上にあがっていく。
あたしも連れられるがまま4、5段のぼったあと、ピタリと足が止まった。
「牧野?」
動かなくなったあたしを見つめる道明寺。
「道明寺、」
「どうした?」
「道明寺、あたし……もう行くね。」
帰るね……そう言わなかったのは、
もうこの邸に来ることはないと一瞬にして覚悟したから。
「牧野っ」
「…………お邪魔しました。
そして、お騒がせしました。
もう、道明寺の貴重な時間を無駄にさせることはしませんから安心してください。」
階段下の魔女にあたしはそう告げると、
パタパタと階段を駆け下りて、まっすぐに玄関へと飛び出した。
デートには快適な春の日差しが、今のあたしには目に眩しすぎる。
そっと目を閉じると、
ずっとそこで待っていてくれたのか、
「つくし…。」
と、柱の陰からタマさんが悲しそうな目であたしを見つめていた。
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コメント
こんにちは
毎回、楽しみに拝読してます!
司とつくし、どうなるんでしょうか?
なんか、切ないですね〜
ハッピーエンドが待ち遠しいです