図書館から借りていた本を返し忘れていたあたしは、久しぶりに英徳に来ていた。
1ヶ月近く来ていないだけなのに、もう知らない世界のようなキャンパス。
いつも座ってた図書館の椅子をそっと触り、
「お世話になりました。」
と、呟き何気なく外を見ると、いつもの中庭のベンチに道明寺と西門さんの姿。
図書館をでて彼らの方に向かうと、向こうも気付いたらしく道明寺があたしに向かって歩いてくる。
珍しい。
何か話でもあるのかな。
そう思っていると、突然何も言わず物凄い力で道明寺に捕獲された。
死ぬぅ…………。
辛うじて『離せ……バカっ』と呟き、唯一自由な足で道明寺の膝を蹴ってやると、
「痛ってぇーーっ。」
と、離れていく猛獣。
「あ、あ、あんたっ、あたしを殺す気っ?
ほんと、苦しいっ。
なにっ?なんの仕返し?
あたしあんたになんかした?」
ぜぇーぜぇー言いながら、再び襲われたら堪ったもんじゃないと、道明寺と適度な距離を保ち叫ぶあたしに、
「おまえも俺と同じ気持ちだったのかと思ったらすげー嬉しくなってよっ。」
と、嬉しそうに言うバカ男。
「……はぁ?言ってる意味が分かんないんですけど。」
「おまえも、俺に会いに来たんだろ?」
「……いや、違うし。
図書館に本返しに来ただけだけど?」
「照れるな。」
「なんで本返すだけで照れるのよ。」
「だからっ、素直になれっつーの。」
このままバカと話してるとバカがうつる。
「西門さん、この人どうしちゃったの?
しばらく会わないうちに、会話も通じない男になってるんだけど。」
隣であたしと道明寺の会話をニヤニヤ顔で見つめてる西門さんに助けを求めると、
「気付いちゃったんだよねー司くんはっ。」
と、こちらも会話が通じない。
「とにかく、あたし忙しいからまたねっ。」
二人にそう言って足早に帰ろうとするあたしを、
「待てよっ。」
と言って捕まえる道明寺。
「おまえに、話したいことがある。
夜、会えるか?」
急に真面目になる道明寺の視線が怖くて、咄嗟にバイトを理由に断ろうかと思った瞬間、
「バイトが終わるまでいつものカフェで待ってる。」
と、先回りされ、断るタイミングを逃した。
なんだろう、話って…………。
:
:
牧野のバイト先からすぐにあるカフェ。
11時までのバイトを待ってコーヒーを飲んでいると、通りの向こうから小走りに近付いてくる牧野の姿。
「お待たせっ。」
「おう。」
「話ってなに?」
席に座るか座らないかでそう聞くこいつは、ムードっつーもんがこれっぽっちもねえ。
「とりあえず、何飲む?」
俺がそう聞いてやると、
「コーヒー1つお願いします。」
と、店員に声をかけるこいつ。
そして、そのまま
「ちょっと、メールだけしてもいい?
明日のバイト、急に休む子が出ちゃって。
優紀と会う約束してたのに行けそうにないな。」
携帯を操作しながら口を尖らせる牧野に、
「いつもおまえが代わりに出ることねーだろ。」
と、文句を言ってやると、
「あんたには分かんないだろうけど、こういうときはお互い様なの。
助けてあげれば、いつか助けてほしいときに助けてもらえる。
分かる?」
そう言って、俺に説教しやがる。
こんな話がしたくてこんな時間まで待ってた訳じゃねぇ。
「おまえさ、バイトバイトで、俺との時間はいつ作るつもりなんだよ。」
「……いつって、用事があればいつでも聞くけど?」
「用事がなきゃ、会えねぇのか?」
「…………道明寺、あんた昼間からなんか変じゃない?
俺に会いたくなったから来たんだろ?とか、
用事がなきゃ、会えねぇのか?とか、
どうしたの?何かあたしに相談でもあんの?」
マジで心配そうに俺を見つめてくるこいつに、ここ最近のモヤモヤを一気にぶつける。
「なんか、おまえがいねぇと、つまんねーっつーか、もの足りねぇっつーか、胸の奥がザワザワすんだよ。」
「……道明寺?」
「それが、なんでなのか俺なりに考えたら、答えは一つしかねえ。
俺はおまえが……、」
その先を言おうとしたとき、店員が牧野が注文したコーヒーを持ってきた。
すげー気間づいタイミングに、俺も牧野も笑うしかねぇ。
「はは……なんか、話の途中でごめんね。」
「いや、まぁ、だからあれだ、俺が言いてぇのは、とにかく…………、
きちんと付き合おうぜ俺たち。」
なんとか、仕切り直してそう切り出すと、
いつもは素直じゃねぇこいつが、
はじめて見せるような嬉しそうな顔で、一言
「どしたの、急に。」
と、言って笑った。
こいつと出会って3年。
周りからは『彼氏』『彼女』と呼ばれていたのは知っていたが、改めて気持ちをぶつけたのははじめてだ。
「好きだって言ってんだろ。」
「ぷっ…。好きって言った?」
「…はぁー。
好きだ、俺と付き合ってくれ。」
「…ん。」
照れたように笑う牧野。
牧野がこんな風に嬉しそうに頷くなら、もっと早く言ってやれば良かったと今更ながら思う。
でも、俺は予想していなかった。
この半年後、俺はこいつからこっぴどく振られるなんて。
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