いつものようにカフェテリアに向かおうと校内を歩いていると、図書館から出てきた奴らがヒソヒソと話している。
「あれは絶対、喧嘩してたよね。
道明寺さん、なんかすごい怒ってたけど……
編入がどうだの言ってたけど、なんかあったのかな……」
その言葉を聞いて、隣の総二郎に目配せすると、
「やべぇかもな。
あきら、とにかく様子見に行くぞ。」
そう言って図書館へと走り出した。
図書館に来てみれば案の定、牧野に食って掛かる司の姿。
当の牧野も逆ギレ状態で話になんねぇ。
とにかく、司を押さえ付けて暴れるのだけは避けたい。
ったく、牧野のことになると熱くなるんだよ、このバカはっ。
なんとか、押さえ付けて図書館から連れ出したのはいいが、司と牧野の二人だけで話し合いをさせるのは危険だろ。
先に飛び出した牧野の携帯に電話を掛けて
『とにかく、今日の夜集まろうぜ。』
そう言うと、
『……うん、わかった。』
と、渋々承諾した牧野。
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今日もバイトの牧野に合わせて、集合場所はバイト近くのレストラン。
俺らが先に着いて待っていると、遅れて小走りに牧野が店に入ってきた。
いつもなら、司の隣に当たり前のように座り、俺らもそれが普通だと思ってたのに、今日は一瞬考えたあと、司から一番遠い席に座りやがる牧野。
これ以上、険悪にすんなっと心の中で叫んだが、とにかく気を取り直して食うものを注文する。
「司、そんな恐ぇー顔すんな。
牧野がビビるだろ~。」
総二郎がなんとか場の雰囲気を変えようと言ってみるも、
「ビビってなんてないしっ。」
と、今度は牧野が言いやがる。
いい加減にしろおまえら。
「牧野、司が怒るのも分かるだろ?
自分だけ知らされてなくてイジケてるんだよ、こいつ。」
そう言って、今度は俺が仲裁に入ってやるが、
「イジケてなんてねーよっ。」
と、キレる司。
もう、おまえらお手上げだ、勝手にしてくれ。
結局、当事者の二人がこんな状態では話し合いになんてなんねぇ。
運ばれてきた料理を食いながら、仕方なく司が聞きたいだろう事柄を俺が聞いてやる。
「マンションは引っ越すのか?」
「はじめはそうしようと思ってたんだけど、そこまでお金が回らなくて。
でも、今みたいに大学までさすがに歩いて通える距離ではないけど、電車でそう遠くもないから、今のところは引っ越しはしない予定。」
「英徳の法学部じゃだめなのかよ。」
「ダメじゃないけど……、就職しなくても何も困らないお坊っちゃん、お嬢様とあたしは違うし。
あたしの場合、最短で就職しなきゃ行けない貧乏学生だから、出来るだけハイレベルの所で勉強して、目指すは司法試験現役合格かな?」
そう言ってピザを食いながら笑う牧野をじっと見つめる司。
モリモリ食って、総二郎に
「色気がねぇ。」
と、からかわれながらも、楽しそうに笑う牧野は、出会った頃からいつも一生懸命で、
俺たちの周りにはいない女だった。
司が唯一、大事にしてきた女。
司の『彼女』になりたい女は数えきれないほどいるが、司が『彼女』と呼ばせてる女は牧野しかいない。
でも、俺から見れば二人の関係は付き合っているとは言いがたいもの。
現に、恋人らしい雰囲気はこれっぽっちもない。
だからといって、他の女に興味があるかと言えば、これも全くねぇ。
俺に借りのあった司を強引に合コンに連れ出してやったが、昔のように女相手に怒鳴ったりはしねぇけど、常に不機嫌。
愛想笑いさえしねぇ司を見ると、やっぱ牧野が一番なんだと改めて思う。
司、おまえにはいい機会かもしれないな。
牧野が大事なら、まずはおまえがその事に気づかねぇとな。
テーブルの料理を旨そうに食ったあと、ジュースをゴクゴク飲んで、
『ふぅーー、お腹いっぱい。』
と、牧野がそう呟いたのを待ってたかのように、
司がガタンと席をたち、牧野の側まで歩いていく。
やっと動き出すのか?司。
「行くぞ。」
キョトンとしている牧野の腕を引き、強引に連れ去る司に、
「コートぐらい着させてやれ。」
そう言って、俺は牧野のコートを投げてやる。
ほんと手のかかる二人だよおまえは…………。
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ウクライナ情勢が心配ですね。同じ時代を生きているのに、今まさに、爆弾に怯えて逃げている人がいると思うと胸が苦しいです。ウクライナ国民に神のご加護を……。
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