イツモトナリデ 14

イツモトナリデ

二階堂を殴った俺の拳がジンジンと熱い。
その証拠に、二階堂の唇の端が赤く血で染まった。
相手の男が心配して二階堂に駆け寄り、切れた唇に触れる。

それを見て、俺はまた怒りが込み上げて来た。
もう一度、二階堂の首元を掴むと、激しく壁に押し付けてやる。

そして、もう一発顔面目掛けて拳を振ろうとした時、相手の男が部屋の扉を開けて、
「誰かっ!いませんかっ?」
と、廊下に向けて叫んだ。

その声を聞きつけて、廊下から足音が近付いてくるのが聞こえた。
そして、人影が現れたと思った瞬間、
「司さんっ!」
と、名前を呼ばれ、ふり上げていた拳を掴まれた。

西田だ。
明日のスケジュールの確認のために、後で部屋に来る事になっていた西田がちょうど廊下にいたのだろう。
俺を見るなり慌てた様子で止めに入る。

「西田っ、離せっ!」

「ダメですっ。」

「うるせぇっ、これはプライベートな事だ。
おまえには関係ねぇ!
もう一発こいつを殴らせろっ。」

壁に押し付けた二階堂を睨みながら言ってやると、
西田が静かに言った。

「いいえ。いかなる状況下でも司さんを守るよう社長から言われています。
私は二階堂さんを庇っているのではありません。
司さんの拳がこれ以上赤く痛むのを止めているだけです。」

冷静沈着な西田の声が胸に響き、自分の拳に視線を移すと、二階堂の切れた唇から出た血がうっすらと俺の手を汚している。

自分の手を、汚い男の血なんかで汚してたまるか。
俺はそう思い、振りかざしていた拳を二階堂の顔面スレスレの壁に思いっきり打ち付けた。

その衝撃に、壁が鈍い音を立てて凹む。
驚いて目を閉じていた二階堂の耳元で
俺は言ってやった。

「2度と牧野に近づくな。
もし約束を破ったら、今度はおまえの仕事場で大暴れしてやるからな、覚えておけよ。」

……………………

西田に引きずられるようにホテルの部屋に戻った俺は、部屋に備えられているワインやウイスキーを取り出して片っ端から呑み始めた。

「何があったんですか?」
そう聞く西田に、

「俺でさえ整理が出来てねーんだから、おまえに話せる段階じゃねぇ。」
と、突き放しワインを一気に口に入れる。

「酔って、また襲撃しに行くのはやめて下さいよ。」

「分かってる。分かってるから、西田、おまえはもう帰れ。」

「心配だから、私もここで…」

「ふざけんなっ、男2人でホテルの部屋に居るとかありえねぇだろ。」

二階堂と相手の男のキスが頭をよぎり、悪寒までしてくる。
それでも、まだ心配してあーだこーだと言ってくる西田に、
「そんなに心配なら、俺が部屋から出ないように廊下で見張ってろ。」
と、言って強引に部屋から追い出してやった。

久々に、こんなに呑んだ。
ワインを一本とウイスキーを3杯。
さすがにシャワーに入る元気は無くて、そのままベッドにゴロンと横になった。

目を閉じると、酔いが深くなる。
まるでベッドに吸い込まれそうな気分になり、慌ててゴロンと体勢を変えてうつ伏せになった。

すると、ズボンのポケットに入っている携帯が足に当たり邪魔だ。
ポケットから取り出し、ベッドの上にポンっと投げ捨てまた目を閉じる。

そのまま身動きせず1分ほど目を閉じていた後、今度は腕だけを伸ばしさっき投げた携帯を探す。
何度かベッドの上で手を往復させているうちに、手に携帯が当たり、それを引き寄せると、
俺は慣れた手つきでボタンを押した。

4コール目で、
「もしもし?」
と、眠たそうな声が向こうから聞こえた。

「ま…きの…。」

「道明寺?どしたの、こんな時間に。」

「何時だ、今。」

「0時を過ぎた所。
っていうか、酔ってるの?道明寺。」

「ふぅーー。」

酔っていないと嘘を付くには限界があるほど酔っている。

「牧野、気持ちわりぃ。」

「はぁ?ちょっと、どこでそんなに呑んだのよ。
大丈夫?帰れそう?」

「…来いよ。ここに…来てくれ。」

何年も友達関係を続けてきた俺たちだけど、こんな恥ずい電話をしたのは初めてだ。

「来いってあんたこんな時間に。
…でも、あたしもおんなじ事であんたを呼び出した事あるし、その時の借りがあると言えばあるし、」

ぶつぶつと独り言のようにそう言った牧野は、
「分かったわよ、今から行ってあげる。
どこにいるの?」
と、聞いてきた。

「…ホテル。」

「えっ、ホテル?!どこのホテル?」

「大阪。出張で大阪に来てる。」

その俺の言葉に、はぁーーーーと盛大にため息をついた後、
「悪質なイタズラ電話かっ。」
と、笑い出す牧野。

そして、
「道明寺、早く寝な。
明日、酔いが覚めたらもう一回電話して。
大説教食らわしてやるから。」
と、いつものノリで牧野がかえしてくる。

そんな会話が今日は心地よいと言うよりも、ドキドキと胸が激しく鳴る。

今までだって、何度もこうして電話越しで牧野と話してきた。それなのに、今日のこの電話は特別だ。

なぜなら、、こいつを好きだという事をもう隠さないでいこうと決めたから、

牧野の声一つにいちいちドキドキして、
自分の発する言葉一つにいちいち意味を持たせたいなんて思う。

「まき…の。」

「ん?」

「二階堂は……やめておけ。」

そう言って勢いよくベッドの上に起き上がると、頭に激痛が走り、

「いてぇーー。」
と、またベッドにゴロンと横たわる。

「なによ、どしたの?」

「呑みすぎて頭かち割れそう。」

「馬鹿。酔っ払いは早く寝なさい。
じゃあね、またね、」

「バカっ!切るなって。
話終わってねぇ。」

「酔ってない時に聞いてあげる。」

その牧野の言葉を聞いて、俺はもう一度ゆっくり起き上がった。
そして、
「酔ってねーと言えねぇ。」
と、軽く痛む頭をわしゃわしゃとかき混ぜながら呟く。

「何よそれ。」

ふふふ…と笑う牧野に、俺はマジで言った。

「俺じゃダメかよ。」

「…ん?」

「二階堂じゃなくて、俺じゃダメか?」

何年も言えなかった言葉は、だらしねぇけど、酒の勢いを借りて口にする。

「道明寺?それって、…どう言う意味?」

笑い飛ばさずに、聞き返してくれる牧野にホッとして、俺はその先を言った。

「おまえが好きだ。
男として、俺を見て欲しい。」

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コメント

  1. クラゲ より:

    最後のセリフ、司らしくてカッコいいですっ❣️❣️その後の展開が気になりますね。

  2. 匿名 より:

    最高です!いつも楽しみにさせていただいてます^^ありがとうございます!

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