牧野を諦め切れないなら、正面からぶつかって行く。
そう決めた俺は、次の日から早速行動に出る事にした。
牧野の通勤時間に合わせて出勤し、まずはエレベーターに一緒に乗り込む。
仕事中も出来るだけ牧野と遭遇するルートを通る。
欲しくもないコーヒーを買いに、わざわざあいつのいる経理課の階に行く。
そんな事を1週間続けているうちに、秘書の西田が一言俺に言った。
「司さん。
正攻法で行くのが1番です。」
「あ?」
西田が言う意味が理解できない俺は、西田に怪訝な顔を向けると、西田は書類を束ねる手を止めて、俺の前に立った。
そして、いつもの真顔で俺に言った。
「食事に誘ってはどうでしょうか?
2人きりで夜景を見ながら食事をし、そのあと自宅に送り届ける車中で告白する。
そんなオーソドックスなやり方が1番効き目があるように思います。」
真面目な顔で突然何を言い出すのやら。
「西田、おまえ何言ってんだ?
頭、おかしくなったか?」
「いえ、私は至って正常です。
恋愛に不慣れな司さんにアドバイスを…と思いまして。」
不慣れ…とか、おまえに言われたくねぇ。
そう思い、即座に反論しようとする俺に、
西田は手帳に視線を移しながら少し照れ臭そうに言った。
「司さんの長所は、その真っ直ぐな感情表現だと思います。それを思う存分発揮すれば、相手にきっと届くはずです。」
……………
その一時間後、
俺は経理課にいた。
牧野のデスクがある場所へ行き、背後から耳元へ
「よぉ。」
と、声をかけると、牧野とその周囲の奴らまで驚いた顔で俺をみる。
「どっ、道明寺っ。」
「昼飯いこーぜ。」
「えっ?」
「休憩時間だろ?」
もうすぐ12時を示す自分の腕時計を見ながらそう言うと、
「あたし…、あー、今日は、課のみんなとランチに行く約束してて…、ね?」
と、しどろもどろに隣の席の後輩に同意を求める牧野。
そんなこいつの腕を取り、立ち上がらせると、
「わりぃ、こいつ今日は借りるわ。」
と、後輩に声をかけ牧野を連れ出した。
社食へ行くエレベーターの中。
「何食う?」
と、俺が聞くと、
視線も合わせず
「カツ丼。」
と答えるこいつ。
「昼間っから色気のねぇ奴だな。」
「カツ丼屋に行く予定だったんだからしょーがないでしょ。」
「分かった分かった。奢ってやるから怒るな。」
そう言って、こいつの頭を撫でてやる。
すると、俺を見上げて睨んでくる牧野の顔がなぜかいつもより赤い。
「おまえ、顔赤いぞ。
熱あるんじゃねぇ?」
「違っ、」
「おでこ借せって、」
「やーめてっ、」
「いーから、こっち向けって。」
エレベーター内の隅に牧野を追い詰め、俺の方を向かせおでこに手を当てる。
熱はない。
けど、この体勢に俺の身体に熱が籠る。
「牧野、」
そう呼びかけた時、
エレベーターが軽く揺れ、扉が開きはじめた。
慌てて身体を離す俺たち。
開いた先には誰も居なくて助かった。
今、俺の顔は牧野以上に火照っている筈だ。
…………………
それから1週間たったある日、
久しぶりに大阪に出張に来ていた。
大阪に来る時はいつも泊まるホテルがある。
外資系のホテルだが、コンシェルジュの対応や部屋の内装、朝食のラインナップも極上で愛用しているホテル。
仕事が終わり、ホテルの12階の予約した部屋に向かい、カードキーを扉にかざした時、
少し離れた部屋の扉から男が1人出てくるのが見えた。
細身の黒いパンツとクリーム色のセーターを着たその男は、部屋を出ようとした所で、中から腕が伸びてきてまた部屋へ引き戻される。
きっと、恋人に引き止められたか何かだろう。
仕事で来てる俺とは大違いだな…そんな風に思いながら、自室に入ろうとした時、
なぜだか聞き覚えのある声がしたような気がして立ち止まった。
そして、声のした方を振り向くと、さっき男が出てきた部屋の扉が半分ほど開いているのが見える。
そこにはさっきいたあの男と、その横に見覚えのある男が立っていた。
そして、俺は見てしまった。
半分ほど開いた扉の側で、
2人が軽くキスをする所を。
その横顔と声で見間違えるはずはない。
そこにいたのは、二階堂だった。
俺は一瞬にして頭に血が上った。
奴らの部屋の前まで大股で歩いていくと、そのまま扉を開き、部屋の中へ押し入った。
乱入して来た俺に驚く2人。
そして、俺の顔を見た二階堂が
「つ…かさ?」
と、呟くのが聞こえた…ような気がした。
俺は二階堂の言葉がいい終わる前に、
無言でこいつの頬を思いっきり一発殴っていた。

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コメント
司君、どんどん行っちゃって!!つくしちゃんをきちんとゲットしてね♥
二階堂さんは、所謂LGBTってことなんですよね。
つくしちゃんは、それを隠す隠れ蓑に利用されたと思ったから司君が殴った
ということですよね。
悪い男は、成敗しましょ。笑。
更新有難うございます。
え〜!
二階堂先輩、ゲイだったの!