年末年始は毎年のようにNYで過ごし、
ババァに連れ回されて、この時期だけは大人しく挨拶回りに明け暮れる。
そうすることで、後からの嫌味が格段に減るから、ひたすら我慢することにしている。
今日でNYに来て2週間。
いつものように、日本時間の夜に合わせてあいつに電話するが、これもいつものように、一回では繋がらない。
たぶん、また遅くまでバイトしてやがるんだろう。
こっちに来てからまともに電話に出たためしがない牧野。
ここのところ、ゆっくりと話せていない。
ふと、あの夜のことを思いだし、ふぅーと、デスクに深く頭を付く。
何度思い出しても、胸の奥がギュッと苦しくなる。
ったく、いつもいつも俺の予期しないことをやってくれる女だけど、今回ばかりは愚痴りたくもなる。
あそこで俺がマジになったらあいつはどうするつもりだったんだよ。
あんなに瞼を震わせて、俺が近付けば近付くほど体をガチガチにしやがって。
覚悟もねぇくせに、度胸だけは人一倍。
まぁ、明後日には日本に戻る。
だから、あいつにもう一度、酒は飲むなと言っておかねーとな。
そう思ってたはずなのに…………、
久しぶりにキャンパスに足を運ぶが、いつもいるはずの場所に牧野を見かけない。
勤勉女は滅多なことでは講義をサボらねぇのに。
「あいつ、最近来てねぇのか?」
類にそう聞くと、
「そうだねー、来てはいるけどなんかいつも忙しそうにしてるよ。
貧乏暇なし~って笑ってた。」
と、なんのプラスにもなんねぇ情報。
電話をしても相変わらず留守電。
たまに繋がると、
「道明寺?どうしたの?またNY?」
と、とんちんかんなことを言うこいつ。
「ちげーよ。日本にいる。」
俺がそう答えると、
「えっ!なんかあったの?」
と、マジで驚いてやがる。
ここまで驚かれると、そんなに俺はNYにいるとき以外、おまえに電話しちゃいけねぇのかよっ、と言いたくもなる。
「おまえさ、最近大学に顔だしてねーだろ。」
「え?毎日行ってるけど?」
「嘘付くなっ。」
「はぁ?」
「カフェテリアでも図書館でも見かけねーぞ。」
俺がそう言うと、あぁーー、なんて言いながら
「ちょっと忙しくて教室以外は行ってなかったから。……何か用だった?」
と、聞いてくるこいつ。
改めて『何か用か』と聞かれれば、言葉につまる。
「……いや、別に……」
と、その時電話の向こうで、
「牧野さん。」
と男の声がした。
「おまえ、今どこにいる?」
俺のその質問に、
「ごめんっ、今忙しいからあとでかけ直すっ」
そう言って勝手にプツリと切れる電話。
俺はチッと舌打ちをしながら、用を足さなくなった携帯を乱暴にポケットにしまった。
それから、1週間。
いつものカフェテリアに顔を出すと、類が足を組ながら本を読んでいる。
俺が隣に座ると、しばらくして本から顔をあげた類が聞いてきた。
「牧野、マンションは決まったの?」
類が何を言ってるのか分からない俺は、
「あ?何の話だよ。」
と、聞き返すと、
怪訝そうに俺をじっと見つめたあと、
「引っ越すんだよね?」
と、更に訳の分からないことを言う。
「…………。」
「……もしかして司、聞いてない?」
俺を同情するような口調で聞き返す類。
「……なんだよ、何も聞いてねーぞ。」
「あらら……。」
そう言いながらも半分顔が笑ってやがる。
「うるせーっ、早く話せっ。」
そこで俺は類からとんでもないことを聞く。
「牧野さぁ、3年生の4月から○○大に編入するんだよ。
ずっと前から考えてたみたいだけど、学部の教授の推薦もあって、うまくいったみたいだね。
……司、ほんとに聞いてないの?
困ったふたりだね…………。」
そう言って笑いながら本に視線を戻す類は、完全に面白がってやがる。
俺はそんなこいつを無視して、すぐさま携帯で牧野を呼び出した。

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コメント
本当にどの作品も最高です\(//∇//)\