イツモトナリデ 12

イツモトナリデ

帰宅して、リビングのソファに腰を下ろしたあたしは、ゆっくりと自分の髪から白いハンカチを抜き取る。
そして、それをしばらく見つめた後、頭を抱えて
「あ゛ーーーー。」
と、1人叫んでいた。

久々に道明寺に会った。
今まで何年もずっと側にいたのに、こんな風に意識してまともに目を合わせられなかったのは初めてだ。

それだけじゃない。
髪に触れられて、至近距離で見つめられただけで、ドキドキと胸が痛い。
滋さんの看病に行ったはずなのに、あたしまで熱を出して帰ってきたかのように頬が熱い。

どうしちゃったのあたし。
最近のあたしは変だ。
会社で道明寺を見かけるたびに、目で追ってしまうし、
二階堂先輩と一緒にいても、道明寺と比べてしまう。

最初は、避けられているから気になっているだけ…と思っていたけれど、その内、道明寺が側にいなくて寂しいと思っている自分に気付いた。

道明寺の冷たくあたしを揶揄う態度や、乱暴な口調、わかりづらい優しさ、そして時折見せる綺麗な笑い顔。
そのどれもがあたしにとって心地よくて、特別な物。

そこまでは自己分析出来ていたけれど、どうやらあたしの分析は甘かったようだ。

今日道明寺と過ごしてみて分かった。
あたしは道明寺を完全に男性として意識している。
いや、意識というよりも、好きなのかもしれない。

今までずっと、自分は二階堂先輩が好きだと思っていた。
優しくてカッコよくて紳士的な先輩。そんな先輩はいつも輝いていて、あたしの憧れだった。

けれど、付き合ってみて気付く。
あたしのその感情は好きではなく、尊敬というものだったのかもしれない。
憧れの存在で少しでも近づきたかったけれど、
異性として近くなりたかった訳じゃなかったのだ。

だから、付き合いはじめて手を繋いだり、軽くキスをしたり、帰り際ハグをされたり、そんなことの一つ一つに違和感を感じ、そんな時決まって道明寺が頭をよぎる。

道明寺も誰かとこんな風に手を繋いだりしてるの?
道明寺はいつ、誰と、どんなキスをしてるの?

馬鹿げてると滋さんに笑われるだろう。
でも、追い払いたくても、あたしの頭の中は道明寺でいっぱいになってしまう。

そして今日。
滋さんの部屋のキッチンで、道明寺にハンカチで髪を縛ってもらい、ありがとうと言いながら道明寺を見上げた時、
あたしの道明寺に対する好きという気持ちが

規定事実だという事を悟った。

道明寺が好きだなんて、口に出したら大変だ。
あたしたちの長年の友情は壊れるだろうし、道明寺からも更に避けられるに違いない。
それに、自分の気持ちがはっきりした以上、先輩にもきちんと伝えなければ。

あたしはもう一度、道明寺の白いハンカチを見つめ、
「あ゛ーー!」
と、大声で叫んだ。

………………………

寝室のベッドに横たわり、天井を見ながら俺は考えていた。

このまま、牧野への想いを封印出来るか?

答えはもう分かっている。

一度は牧野の事を諦めようとしたけれど、今日一日でその決意は脆くも崩れ落ちた。
こんなにあいつに惚れてるなら、とことんぶつかってみるしかない。

どう攻めるか?
それを考えると、今日のあの時のことを思い出し心臓がうるさく鳴る。

牧野の髪をハンカチで縛ってやり、振り向いたあいつの頬に思わず手が伸びそうになった。

油断するとヤバい。
でも、あいつには二階堂という彼氏がいる。
俺が先走り、あいつを窮地に追い込む事だけは避けたい。

とにかく、避ける事はもう辞めだ。
これからは、とことん牧野に攻め入ってやる。

13話につづく⭐︎

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