イツモトナリデ 10

イツモトナリデ
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『負けるってわかってる戦に挑もうとしてる俺はバカだよな。
でも、あいつが幸せなら、俺は戦を諦めようと思ってる大バカだ。』

俺が滋に言った言葉。
どうやら、俺は大バカになる事に決めたらしい。

牧野が二階堂と付き合うようになった。
一度は、「あいつから奪ってやる」なんて事も考えたけど、いざ牧野が幸せそうな顔をしているのを見ると、俺の出る幕じゃねぇと諦めがつく。

唯一救いなのは、牧野に俺の気持ちを知られていない事。
もし知られていれば、今までの友達関係さえ維持できなくなる。

所詮、牧野と出会った時からずっと、あいつは二階堂のことしか見ていなかったんだから、何も変わらない。
今まで通り過ごすだけだ…。

そう思っているのに、
どうしてもうまく
立ち回れない。

牧野が二階堂と付き合うようになって1ヶ月。
俺は牧野と会うのを極力避けて過ごしている。

なぜこうなった?
自分に自答してみて、ようやく気付く。
『牧野への気持ちが大きくなりすぎた。』

長年の片想いには慣れていたつもりなのに、ここ最近、牧野への想いが溢れ出しそうになる瞬間が何度もあった。
それだけじゃない、あいつに触れたい…そう思う事まであって、重症化しつつあった俺の心。

そこまで膨らんだ俺の気持ちにストップをかけるかのように、牧野と二階堂が付き合い始めた。
牧野からの「付き合う事になった。」という報告メールには、結局返信すらしていない。

そして、幸せそうな牧野の顔を見るのが辛い俺は、月に何度も集まっていた滋の部屋にも、仕事が忙しいという理由を付けてほとんど行かなくなった。

昨日も滋から
「つくしと部屋にいるけど、仕事が終わったら来る?」
と、メールが来た。

その頃にはもう帰宅途中の車の中。それなのに、
信号待ちで「徹夜で仕事予定。」それだけ返信してマンションへと帰った。

そんな俺に、今日朝一で混み合うエレベーター内で会った滋が、
「ずいぶん熱心に働いてるみたいね。」
と、睨みながら小声で言ってくる。

「…ああ。」
それだけ答えた俺に、
滋はエレベーターを降り際、

「いい加減に拗ねてないで元気出しなさいよ。」
と、苦笑いをしながら俺の背中を軽く叩いた。

……………………

最近、滋さんの部屋で集まることが減った。
金曜の夜は決まって3人で集まっていたのに、最近は道明寺抜きで2人で…という事が多くなった。

「道明寺、今日も残業?」
そう聞くあたしに、

「拗ねてるだけだから放っておけばいいのよ。」
と、小さく笑う滋さん。

「拗ねてる?道明寺と喧嘩でもしたの?」

「違う違う。」

「じゃあ、何?会社で会ってもほとんど喋らないし。」

「まぁ、今、司の中で色々と整理中なのよ。」

意味深にそう言う滋さんには分かっているのだろうか。
道明寺に何があったのか。

いつもそばにいて当たり前だった道明寺が、最近は遠い。
その代わり、あたしの横には二階堂先輩がいる事が多くなった。

付き合って1ヶ月。
頻繁に会って、会話をして、並んで歩くようになると、
二階堂先輩の大きな手や、笑った時に出来るえくぼ、甘い香りの香水があたしの日常になった。

けれど、何故だかおかしな感情に襲われる時もある。
二階堂先輩を男性として意識すればするほど、なぜか道明寺が頭の中に浮かぶ。

長年あたしの1番近くにいる男性といえば道明寺。
だから、先輩の一つ一つを道明寺と比べてしまう。
そしてそんな時決まって、
「バカか、おまえは。」
と、道明寺があたしをからかう時の口癖が聞こえてくるから可笑しい。

こんな気持ちになる事を絶対口には出来ないけれど、
自分の心の中だけではそっと呟く。
道明寺が…恋しい。

そんな日々を過ごしていたある日、
会社のエレベーターで道明寺と2人きりになった。
まともに話すのは2ヶ月ぶりくらいだろうか。

「お疲れ。」

「おう。」

「今日も残業?」

「…ああ。」

仕事で忙しいと言うのは本当だろう。
けれど気になっている事もある。
それは、道明寺が滋さんの部屋に来なくなったのは、あたしを避けているからではないだろうか。

その証拠に、三日前、お昼に社食のランチスペースに行った時に道明寺を見つけて隣に座ったあたし。
いつもなら何気ない会話をして、休憩時間ギリギリまで過ごすのに、
その日はあたしの顔を見るなり気まずい顔をして、急ぎの仕事があると言って立ち上がった道明寺。

薄々気付いていたけれど、その時に確信した。
道明寺はあたしを避けている。

長く一緒に過ごしているけれど、こんな事は初めてだ。
そして、原因も分からない。
だから、あたしは思い切ってエレベーター内の道明寺に言った。

「道明寺、もしかしてあたしの事避けてる?」

「……何だよそれ。」

「滋さんの部屋にも来なくなったし、会社で会っても知らんぷりだし。」

「気のせいだろ。」

素っ気なく答える道明寺に、あたしはなぜだか胸がぎゅっと苦しくなる。

「あたしが何かしたなら謝るから、ちゃんと言ってよ。」

「ちげーよ。おまえの考えすぎだ。」

「道明寺っ、」

それでも食らいつこうとするあたしを置いて、道明寺はエレベーターから下りて行った。
1人取り残されたあたしは、ふぅーと息をついて、エレベーターのボタンを見つめる。

そして呟いた。
「やっぱりあたしの事、避けてんじゃない。」

道明寺が下りた階は8階。
彼の行こうとしていた営業課とは程遠い階だったから。

11話につづく。

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