お姉さんと別れて、バイト先まで10分の距離を道明寺と並んで歩く。
今までも何度もこうして並んで歩いたけれど、
今日がたぶん一番嬉しくて、
そして、一番切ないかもしれない。
「おまえさ、最近バイトの量増やしてねぇ?」
「え?……そうかな……?」
「そうかな?じゃねーよ。
ここ最近、ずっと閉店までいるだろ。」
「……うん。」
「また誰か辞めたのかよ。」
「いや、そうじゃないけど。」
あたしがバイトしてるのはカフェも併設されたベーカリーショップ。
朝8時から夜11時まで開いているお店は結構人気のお店でいつも混んでいる。
その店の厨房でパンの仕込みをするのがあたしの仕事。
たいてい閉店の11時までいて、次の日の朝の仕込みをしてから帰るのが常。
でも、最近は夜だけじゃなく、朝もバイトに出てから大学へと通うことが多くなった。
「親父さん、仕事続いてないのか?」
「パパ?
ううん、なんとか働いてるよ。
今の会社は性に合ってるみたいで、もう転職の心配もなさそう。」
そう言って笑うあたしに、
「なら、無理すんな。」
と、少し怒った口調で言う道明寺。
「……うん。」
素直にそう答えてみたけれど、あたしにはお金を貯めてしたいことがある。
パパやママに迷惑をかけたくないし、自分の夢を実現するために躊躇もしていられない。
それに、…………
道明寺とこうして肩を並べて歩けることは嬉しいけれど、そろそろはっきりさせなくちゃ。
いつまでも『彼女』という立場に甘えることは道明寺にもあたし自身にも良くない。
そう思うと、もしかしたら二人で歩くことも今日が最後かもしれない…………なんて、切ない気持ちになる。
横断歩道の向こう側には、あたしのバイト先のベーカリーが見えてきた。
その時、道明寺の携帯がなる。
「総二郎、どうした?」
電話の相手は西門さんらしい。
「……今からか?……おう、分かった。
この間の店だろ?近くにいるから、すぐ行く。」
また合コンかな?
もうすぐハタチのあたしとは違って、道明寺たちはもう成人してるから、夜な夜な飲みに出歩いて楽しく過ごしているらしい。
「道明寺、あたしはここで大丈夫だから。
送ってくれてありがと。」
電話を切った道明寺にそう言って横断歩道の前にたつ。
赤信号が青へと変わる。
あたしは振り返らずに歩き始めた。
「牧野っ、」
「……ん?」
呼び止められて振り向くと、あたしと道明寺の距離は3メートル。
「誕生日プレゼント、何が欲しいか考えとけよ。」
「……ん、分かった。」
欲しいものはもう決めている。
今年はあんたの本当の気持ちが知りたい。

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