不埒な彼氏 5

不埒な彼氏

お姉さんと別れて、バイト先まで10分の距離を道明寺と並んで歩く。

今までも何度もこうして並んで歩いたけれど、
今日がたぶん一番嬉しくて、
そして、一番切ないかもしれない。

「おまえさ、最近バイトの量増やしてねぇ?」

「え?……そうかな……?」

「そうかな?じゃねーよ。
ここ最近、ずっと閉店までいるだろ。」

「……うん。」

「また誰か辞めたのかよ。」

「いや、そうじゃないけど。」

あたしがバイトしてるのはカフェも併設されたベーカリーショップ。
朝8時から夜11時まで開いているお店は結構人気のお店でいつも混んでいる。

その店の厨房でパンの仕込みをするのがあたしの仕事。
たいてい閉店の11時までいて、次の日の朝の仕込みをしてから帰るのが常。
でも、最近は夜だけじゃなく、朝もバイトに出てから大学へと通うことが多くなった。

「親父さん、仕事続いてないのか?」

「パパ?
ううん、なんとか働いてるよ。
今の会社は性に合ってるみたいで、もう転職の心配もなさそう。」
そう言って笑うあたしに、

「なら、無理すんな。」
と、少し怒った口調で言う道明寺。

「……うん。」

素直にそう答えてみたけれど、あたしにはお金を貯めてしたいことがある。
パパやママに迷惑をかけたくないし、自分の夢を実現するために躊躇もしていられない。

それに、…………
道明寺とこうして肩を並べて歩けることは嬉しいけれど、そろそろはっきりさせなくちゃ。
いつまでも『彼女』という立場に甘えることは道明寺にもあたし自身にも良くない。

そう思うと、もしかしたら二人で歩くことも今日が最後かもしれない…………なんて、切ない気持ちになる。

横断歩道の向こう側には、あたしのバイト先のベーカリーが見えてきた。

その時、道明寺の携帯がなる。

「総二郎、どうした?」

電話の相手は西門さんらしい。

「……今からか?……おう、分かった。
この間の店だろ?近くにいるから、すぐ行く。」

また合コンかな?
もうすぐハタチのあたしとは違って、道明寺たちはもう成人してるから、夜な夜な飲みに出歩いて楽しく過ごしているらしい。

「道明寺、あたしはここで大丈夫だから。
送ってくれてありがと。」
電話を切った道明寺にそう言って横断歩道の前にたつ。

赤信号が青へと変わる。
あたしは振り返らずに歩き始めた。

「牧野っ、」

「……ん?」

呼び止められて振り向くと、あたしと道明寺の距離は3メートル。

「誕生日プレゼント、何が欲しいか考えとけよ。」

「……ん、分かった。」

欲しいものはもう決めている。
今年はあんたの本当の気持ちが知りたい。

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