不埒な彼氏 4

不埒な彼氏

「つくしちゃ~ん。」

「お姉さんっ。」

電話の向こうの声はいつものようにハイテンションな道明寺のお姉さん。

「明日、時間あるかしら?」

「あたし、夜はバイトなんですけど、その前なら。」

「じゃあ、夕方待ち合わせましょ。」
そう言ってあっという間に決まった約束。

約束の時間にカフェに入ると、そこだけがくっきりと別世界かのように輝いているお姉さん。

「お姉さん。」

「つくしちゃーん。会いたかったわ~。
半年ぶりよねっ、ますます可愛くなっちゃってー。」
なんて、言いながら半端ない力で抱きしめてくるのもいつも通り。

道明寺のお姉さんである椿さん。
この人は、3年前の初対面の時からあたしのことを可愛がってくれて、日本に帰ってくるときは必ず連絡をしてこうして会う仲。

周囲を釘付けにするその美貌も、細かいところまで行き届く気配りも、全部あたしのあこがれ。
見ているだけで癒されて、幸せにしてくれるお姉さん。

「司は?」

「へ?……知りませんけど。」

「もうっ、あのバカ。
つくしちゃんとここで待ち合わせたから一緒に来なさいって電話で言っておいたのに聞いてない?」

「ええ。全く。
大学で顔は見ましたけど、ここ最近話してませんから。」

そんなあたしの言葉に、目を丸くして驚いたあと、はぁーーー、なんてため息をつくお姉さん。
そんな姿もステキだなぁなんて見入っていると、

「腹減ったな。」
と、後ろから聞き覚えのある声。

「道明寺っ。」
そこには、お姉さん同様、周囲の視線を集める道明寺の姿。

「よぉ。」

こうして間近で話すのは二週間ぶりか。
その間、NYにいる道明寺とは、電話で何度か話していたけれど、
あの映画ドタキャン事件の翌日に、図書館で気持ちのこもっていない謝罪を受けてから、会ってまともに話すのは久しぶり。

あたしの隣にドカッと座り、
「腹減った」と言いながらテーブルにあるサンドイッチに手を伸ばす道明寺は、少しだけいつもより髪が伸びていて、大人っぽく見える。

サンドイッチを口に入れながら隣のあたしをじっと見つめて一言。
「おまえ、痩せた?」

「はぁ?」

「なんか、ガリガリの小鹿みたいじゃねぇ?」

そう言ってあたしのほっぺを引っ張るこいつ。

「べ、べ、別に、体重変わってないけど……。」
じっと見つめてくる目に、照れ臭くなってどもるあたしに、こいつはいつも通りの憎たらしいことを言う。

「あ、分かった。
おまえが痩せたんじゃなくて、俺の目が向こうの女に慣れたからか。」

「……は?」

「一週間NYにいると、おまえとは正反対の体型の女たちに目が慣れて、おまえが益々ちんちくりんに見える。」

「ちょっ!司っ、やめなさい!」

お姉さんが慌てて止めるけど、言われたあたしの方が止められない。

「悪かったわね、ちんちくりんで。
どうせ、ボン、キュ、ボンの女の人たちと夜な夜な遊んでたんでしょ!
そんなふしだらな目であたしを見るなっ。」

そう言ってあたしの頬をつねっている道明寺の手を振り払うと、
「よしよし、餌をやる。」
なんて呟きながらあたしの口にサンドイッチを近付けてくる道明寺。

「おまえも少しは栄養あるもの食べて、そのボン、キュ、ボンに近付くよう頑張れ。」

あたしだって分かってる。
あんたの言う通り凹凸のないちんちくりんだってことは。
言い返せないことがもっと悔しいあたしは、無言でサンドイッチを頬張る。

「つくしちゃん、このバカの言うことはまともに聞いちゃダメよ。
どうせ、照れ隠しなんだから。
それよりっ、今年のクリスマスはどうしてるの?
よかったら、邸でのクリスマスパーティーに来ない?」

もうすぐクリスマス。
毎年この時期はバイトの稼ぎ時。
いつもこの時期になると邸でのクリスマスパーティーに誘ってくれるお姉さんには悪いと思いながらも断り続けているあたし。

でも、断る理由はバイトだけではない。
あたしのことをよく思っていない道明寺のお母さんもクリスマスにはNYから戻ってきている。

「すみません。今年もバイトが入ってるので。」

いつものように、断るあたしに

「そうなの……仕方ないわね。
でも、つくしちゃんの誕生日にはプレゼントだけでも送らせてね。」
と、優しく言ってくれるお姉さん。

クリスマスの数日あとにやって来るあたしの誕生日。
その日を毎年豪勢なプレゼントで祝ってくれるのはお姉さんだけ。

「ありがとうございます。
…………あたしそろそろ行かなくちゃ。
お姉さんはいつまでこっちに?」

「クリスマスパーティーが終わったらNYに戻るわ。
年末年始はいつものように向こうで。
また連絡するわね、つくしちゃん。」

「はい。」

お姉さんに小さく頭を下げて立ち上がったあたしに、今まで黙っていた道明寺が
「送ってやる、小鹿。」
と、笑いながら立ち上がる。

「いらんっ。」

「遠慮すんな、小鹿。」

「小鹿って呼ぶなっ。」

「おーそうか。ちんちくりん。」

あたしよりも頭1つ分大きな道明寺が、あたしの首に腕を回して、グイグイと強引に連れ出す。
そんなあたしたちを見て、凄く嬉しそうに、

「バイト、遅れるんじゃないわよ~~。」
と、手を振るお姉さん。

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