同じキャンパスで過ごしていれば、特別な約束なんてしなくても会おうと思えば会える。
実際、あたしと道明寺もほぼ毎日、顔だけは合わせている。
けど、それは『合わせている』というだけで、
『会っている』わけではない。
学年も違う、学部も違うあたしとあいつ。
そんな二人は約束でもしない限り、すれ違いだらけ。
あいつがいつもいるカフェテリアは、高校の時同様階段を上がったその先にある2階のF4専用ラウンジ。
『おまえも来い』なんて言われるけど、他の学生の視線を釘付けにしてまでそんな場所に行く気なんてないあたしは、いつも一般学生が利用するカフェテリアに行く。
そこの窓側にある一角。
そこが、あたしの特等席。
そこからなら、2階のF4専用ラウンジのいつも道明寺が座る席が見える。
そんな小さなことでも、あたしにとっては大事なこと。
そういう『道明寺を見れる』スポットは他にもいくつかあって、
いつもあいつが座ってる中庭のベンチは、あたしが講義の合間に通ってる図書館の窓からよく見える場所だったり、
水曜日は講義の教室が隣同士になるから、なるべく早めに行ってあいつの姿を探したり。
言葉や態度で素直に可愛く出来ない厄介な性格は自分でも自覚してるだけに、自分の心の中だけは素直でいたい。
……あたしは、道明寺が好き。
でも、いつも空回りで一方的。
約束なんて簡単にすっぽかされるし、悪びれもなく合コンに行くとか……信じらんないっ。
確かに、好きだの付き合おうだの言われたわけではないけれど、周りがあたしのことを『彼女』だと呼んでいても否定しないあいつ。
最初はあたしも苛めや嫌がらせから逃れるために、その『彼女』というポジションを利用した。
けど、あれから3年。
道明寺のバカでまっすぐで……優しいところに、
どうしようもなく惹かれてるあたし。
今更、好きだの言うつもりもないけど、自分の想いが大きくなればなるほど、知りたくなる。
あいつにとってあたしって…………。
二日前からキャンパスで道明寺の姿を見かけていない。
遅くまでのバイトが終わり携帯を見ると、道明寺から2回着信がある。
やっぱり…………。
そう心で呟きながら、着信履歴のあいつの番号をコールする。
「もしもし?」
「おう。バイト終わったのか?」
「うん。そっちはNY?」
「ああ。」
やっぱり。
この人は、いつもはあたしに無関心なくせに、NYに行ってるときだけはこうして頻繁に電話をかけてくる。
「いつまで?」
「来週の頭には戻る。」
「そうなんだぁ。」
別に用事があってかけてきた訳じゃないのはいつものこと。
それがかえって嬉しく思うなんてバカなあたし。
「そういや、姉貴も来週俺と一緒に日本に行くから、おまえと会いたいらしい。」
「えっ、お姉さん帰ってくるの?」
「ああ、一週間ほど滞在するから、おまえの都合のいいときに連絡くれって言ってたぞ。」
「ん。わかった。」
「……また電話する。」
こういう甘い声を聞くと、なんとなく勘違いしそうになる。

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