朝からぶっ通しで3講義受けたあと、来週のテストに向けて大学の図書館で勉強中のあたしの耳に、聞き慣れた女子たちの歓喜の声が聞こえてきた。
顔を上げなくても分かる。
その歓喜の声が誰に向けて発せられてるかなんて。
案の定、数分もしないうちにあたしの目の前の椅子をガタンとずらして、ドカッと座る男。
「よぉ。」
「…………。」
「悪かったって。」
完全無視のあたしに、全然悪びれた様子もなく謝るこいつ。
悪かったなんて、たぶんこれっぽっちも思ってないはず。
実際、3回連続なのだから。
こんな形だけのやりとりは。
「なぁ、おまえの見たい映画だけどよ、今日行こーぜ。」
「…………。」
「なぁ、牧野っ。」
バカバカバカっ。
この男は何にも分かってない。
昨日は一ヶ月も前からバイトのシフトを変えてもらって、映画のために休みを取ってた。
あんたの都合に合わせて取った休みは、ギリギリ映画の最終日。
どうしても見たい映画だったから、すごく楽しみにしてたのに。
「まだ怒ってんのかよ。」
「怒ってない。」
「今日、連れてってやるから機嫌直せ。」
「バイト。」
色々説明するのも面倒くさくなって、その一言で片付けるあたし。
「何時までだ?」
「誰かさんのおかげで昨日は休みを取ったから、今日は11時までぶっ通し。」
「…………。」
さすがにばつが悪いのか黙るこいつ。
再び教科書に視線を落としたあたしの頭を、慣れた手付きでグシャグシャとかき混ぜて、
「悪かったって。
次はちゃんと連れてってやる。」
と、いつもあたしが負けちゃう甘い声で言うからズルい。
「もう、分かったから。
あんたこれから会社に行くんでしょ?
また西田さん待たせてるんじゃないの?
早く行きなよ。」
「おう。」
そう言って立ち上がり、
「バイト終わったらまっすぐ帰れよ。
遅い時間にフラフラすんじゃねーよ。」
そんな言葉を言い残して、図書館を出ていくあいつ。
そんなあたしたちを周りの学生が好奇心いっぱいの目で見ている。
『やっぱり付き合ってるんだ。』
なんて、言葉が聞こえてくるけど、
その言葉をそのままあたしもあいつに問いたい。
あんたは、あたしのことどう思ってるの?

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