10日後。
ババァに連れられて、関連会社が集まるパーティーに出席していた。
会場に入って1時間ほどで俺の手元には交換した大量の名刺が積み上がっている。
それを西田に渡しながら、
「少し休憩してくる。」
と言って会場を出ようとした俺の視線の先に、
他の客と談笑している奴の姿があった。
二階堂倫也
昔はよく邸で一緒に遊んで、「ともくん」なんて呼んでいた時代もあったけれど、
いつからか、優等生の倫也と、不良の俺というイメージで見られるようになり、疎遠になってしまった。
大人になってからは、パーティーなどで顔を合わせれば挨拶くらいはするし、避けたりすることもない。
ただ、今日の俺は違う。
奴が目に入った瞬間、身体をくるりと反転させ、明らかに避けちまった。
これじゃ、犯人は俺だと自白しているようなものだ。
案の定、いつもは話しかけてきたりしない奴が、俺の側まで来て言った。
「司、久しぶり。」
「どうも、…倫也さん。」
名前で呼ぶのは何年振りだろうか。
「元気だったか?」
「まぁ、それなりに。」
妙な雰囲気を醸し出している俺を見て、少し離れた場所にいた西田が音も立てずに俺の近くまで移動してくる。
そんな西田に片手を少しだけ上げて、「大丈夫だ。」と目で合図すると、小さく頷いてまた俺から離れて行く。
「クスっ…相変わらず出来る秘書だね彼は。」
西田の後ろ姿を見ながらそう言った奴は、俺にカクテルのグラスを手渡しながら、突如本題に入った。
「つくしちゃんは元気?」
「…牧野ですか?さぁ、しばらく会ってないので。」
牧野とは2週間ほど会っていない。
しばらく…という表現が合っているかはわからないが、俺たちにしては珍しい。
「僕もしばらく会えてないんだ。」
「そうですか。」
「泊まりで旅行に誘ったんだけど、なんだか会社で珍事件が起こったようでドタキャンされちゃってね。
あまりにタイミングが良すぎるから、誰かがわざとに仕掛けたんじゃないかなーなんて。」
疑うような目で俺を見る奴の表情は、笑っているのか怒っているのか分からない。
こいつのそういう所が俺は1番嫌いだ。
丸かバツかいつもはっきりさせたい俺には到底理解できない。
その1番の例が牧野で、あいつに対しても、もう何年も答えを出さずに曖昧な関係を続けている。
2人がどうなろうと俺の知った事じゃない、と見て見ぬふりをしてきたけれど、年々俺のイライラは増え、
時折り、俺に対して丸かバツなのか牧野に問いただしたくなる感情が襲ってくる。
だから、そうなる前に牧野に言った。
「好きだと言って、今までの関係から脱却してこい。」
言ったはいいけど、いざあいつが大阪に行くとなると、馬鹿みたいに嫉妬で苛立ち、子供じみた発想と莫大な経費をかけて阻止してやった。
結局は牧野は大阪には行かなかった。
だからって、俺と牧野の関係は何も変わらないのは分かってる。
あいつが好きなのは、俺の目の前にいるこいつだから。
「つくしちゃんに会ったら言っておいて。
今度は海の見える所に行こうって。」
「なんで俺が?自分で言ったらどうですか?」
「ふふっ、そうだね。
でも、次はもう邪魔されたくないから、司にも言っておくよ。」
きちんと犯人が俺だと確信していて、宣戦布告と言うわけか。
だったら、俺も言いたい事を言わせてもらう。
「あいつを誘うなら、ちゃんとした関係になってからにしてください。」
「ちゃんとした関係?」
「ああ。
…あいつの気持ちを知ってるなら、あいつに言わすような事すんなよな。
男なら、旅行に誘う前に、好きだって言ってやれよ。」
俺なら絶対にそうする…と心の中で付け足した俺に、
「つくしちゃんの事になると機嫌が悪くなるのは相変わらずだね。」
と、おかしそうに笑う奴。
すると、俺たちの後ろから、懐かしい声がした。
「あら、2人が揃っているのを見るのは何年振りかしら。」
振り向くと、ババァと奴の母親が嬉しそうに俺らを見ている。
「倫也さん、お元気?
なんだかお父様に似てきて、ハンサムになったわね。」
「おばさま、お久しぶりです。」
ババァも嬉しそうに奴に話しかける。
昔はよく家族同士の交流があったけれど、今はこうして話すのも久しぶりだ。
「もう、10年もうちに来てないわよね?司と一つ違いだから、28歳かしら、そろそろ結婚は?」
いつも聞かれる結婚話。
いい加減うんざりする会話を、ババァが奴にした。
すると、俺の方をチラッと見て笑った後、奴が言った。
「意中の女性がいるので、これから猛アタックしようかと。司くんにもアドバイスを貰ったのでね。」
「司に?
アドバイスなんてできないでしょこの子は。
相手すらいないんだから。」
「そうですか?
司くんもきっと、心に秘めた相手がいると思いますよ。」
完全にこいつは俺の気持ちを知っててやっているのだ。
そして、この余裕の笑みは、
牧野を簡単に手に入れられると思っているからだろうか。
自分で煽っておきながら、無性に腹が立ってきた。
丸かバツか…、
俺はおまえと違って、白黒付けたい性格だ。
戦わずに終えるのは、俺らしくねぇ、そうだろ?
8話へ続く。

にほんブログ村
ランキングに参加しています。応援お願いしまーす⭐︎
コメント