イツモトナリデ 4

イツモトナリデ
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二階堂先輩と食事をした翌日、昼休憩の時にあたしのデスクに滋さんがやってきた。

「つくし、お疲れ〜。」

「あれ、滋さん。お昼は?」

「急いで食べて来たわ。」
そう言ってあたしの隣に立つと、

「昨日はどうだった?」
と、声を潜めて聞いてくる。

「昨日?…あー、道明寺から聞いたの?」

「そう。先輩と会ってたんでしょ?
楽しかった?」

あたしの長年の片想いを知っている滋さんが、ニコッと笑いながら聞いてくれる。
いつもは、楽しかったよ。と笑顔で返せるこの質問も、
今日は一瞬、昨夜のキスが頭をよぎり、
「ん、うんっ!すっごく楽しかったよ。」
と、過剰に反応してしまうあたし。

そんなミスを見逃すはずはない滋さんは、
「ん?なに〜?
今なんか思い出してたでしょ。」
と、あたしの頭の中を見透かしてくる。

「別に、何もないからっ。」

「あ、そのムキになるところが更に怪しぃー。
なにした?まさか酔った勢いで押し倒せっていうあたしのアドバイスを実行したとか?」

お昼休憩で周りに人がいなくて助かった。

「そんな訳ないでしょー。
あたしが酔う前に二階堂先輩の方が酔ってて……。」

キスされた、とはいくら人が居ないからって職場で話すことではない。
そんなあたしの気持ちを見抜いたのか、滋さんがあたしの肩に手を置いて、

「明日は残業なしよ。うちに集合ね。」
と、ウィンクしながらそう言ってオフィスを出て行った。

…………………

あたしが滋さんのマンションに行くと、まだそこに道明寺の姿はなかった。

「道明寺は?」

「あと1時間はかかるってメールきたわ。」

最近の道明寺は忙しそう。
所属している部署は表向きは営業課だけど、実際は楓社長の右腕として動いていて、西田さんという秘書まで付いている。

人脈作りという名のパーティーや海外出張も増えてきた。
こうして滋さんの部屋で集まる回数も減っていて、あたしとしてはかなり寂しい。

「これ、買ってきた。」
帰りにデパ地下でいくつか買ってきたお惣菜を滋さんに渡すと、

「なによー、食べるものならあったのに。」
と、すでにお皿に盛り付けてくれている。

「いつもご馳走になって悪いもん。」

「いーの、いーの。
うちのばあやはこれが生き甲斐なんだから。」

そう言って冷蔵庫に並ぶ色とりどりのおかずを見る滋さん。
大河原家の一人娘が心配で、滋さんのお婆様はいつもこうしておかずを作って持たせてくれている。

どれも美味しくて、滋さんの部屋に来る楽しみのひとつになっている。
そんなおかずを手に持って、
「司はいつ来るか分からないから、先に始めてよう。」
と、あたしたちはリビングに移動した。

会話が進むと、議題はもちろん先輩との事。
「二階堂先輩が酔うなんて珍しいじゃない?」

「うん、いつもは酔うまで呑まないのに、一昨日は食事の後バーにも行ったの。」

「へぇー、いよいよ進展しそうな予感ね。
で?好きとか言われちゃった?」

「はぁ?まさか……。」

「じゃあ、何?つくしが思い出して顔を赤くしたのは。」

滋さんには、二階堂先輩との事は今まで包み隠さず全部話してきた。
だから、相談も兼ねて今回も言った。

「…キスっぽいのを、されたの。」

すると、ソファに座っていた滋さんは、膝を抱えるように座り直し、
「っ!キスっ!?」
と大きな声で言う。

と、その時、
部屋にピンポーンと来客を知らせる音が鳴った。

「タイミング悪っ!いや、タイミング良すぎねあいつは。」
そう言いながら滋さんがインターホンに向かって、

「鍵開けたから、急いで部屋に来なさいよ。」
と、告げる。
どうやら、道明寺が到着したようだ。

「滋さんっ、道明寺にはこの事言わないでねっ。」

「なんで?」

「だって、先輩の話になると機嫌悪いでしょあの人。」

そうこう言っているうちに玄関の扉が開き、道明寺が入ってきた。
お疲れ様…、とあたしが言う前に、滋さんの声が響く。

「司、つくしが二階堂先輩とキスしたらしいわよ!」

滋さんのその言葉に、一瞬その場で立ち止まる道明寺と、ソファの上で膝を抱えて項垂れるあたし。

「…キス?…くだらねーな。」
道明寺がポツリと一言。

それに、
「…くだらなくないもん。」
と、ポツリと反撃するあたし。

「キスぐらいで浮かれてんじゃねーよ。」
あたしの正面のソファにドカリと座り、更に道明寺が言うと、

「浮かれてなんかないし。」
と、あたしも睨みながら返す。

そんなあたしたちに、
「2人とも喧嘩しないっ。」
と、なぜかニヤニヤ顔で滋さんが言う。

道明寺はスーツの上着を脱ぐと、テーブルの上のビールの缶を開け一気に半分ほど飲んだ。
そして、あたしに言った。

「好きだって言われたのか?」

「…ううん。」

「じゃあ、好きだって言ったのかよ。」

「言ってない。」

そう答えると、残りのビールを飲み干して、テーブルの上に缶をガシャンと音を立てて置く。

それを見て、あたしも今夜は呑みたくなった。
呑んで、このモヤモヤした気持ちをぶちまけたくなったのだ。

テーブルに置かれたビール缶を開けると、道明寺と同じようにゴクゴクと一気に喉に流し込む。
そんなあたしを見て、
「バカっ!」
「つくしっ!」
と、2人が慌ててあたしの手から缶を奪おうとするけれど、あたしはそれを阻止して再び口にビールを流し込む。

そして、2人に言った。
「ノーカウントなの。」

あたしの言葉に、
「ん?」
と、滋さんが聞き返す。

「先輩とのキスはノーカウント!
酔った先輩があたしをからかって口にチュッってしたの。
だから、あれはキスじゃない。」
そう言って、あたしは今度は滋さんが呑んでいた梅酒のグラスに手を伸ばし、ゴクリと一口呑んだ。
アルコール度数の高い梅酒が一気に流れ喉が熱い。

「バカっ、呑むなって。」
道明寺があたしの手からグラスを取り上げた。

先輩と食事をしたあの日からずっと考えている。
あのキスの意味は……、
酔った勢いで深い意味は無いと分かっている。

けど、その後の言葉があたしを惑わす。
期待してもいいのかと。

ビールと梅酒が程よく混ざり、いい感じに頭がクラクラとしてきたあたしは、滋さんと道明寺の顔をじっと見つめながら言った。

「金曜の夜、先輩に大阪に来ないかって言われたの。」

「…大阪?」

「うん。出張終わりに大阪で待ち合わせして…一泊しようって。」

5話につづく。

⭐︎エピローグ⭐︎

つくしは、司には言うなって言ったけど、
あたしは司がどんな反応をするか知りたかったから、

「二階堂先輩とキスしたんだって。」
って言っちゃった。

司、あたしは本当に分からないの。
あんたがどう思ってるのか。

司が二階堂先輩の話になると不機嫌になる理由は、
彼が嫌いだから?

それとも、

彼女が好きだから?

end

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