今日は、1ヶ月ぶりに二階堂先輩と食事の約束をしている。
朝からソワソワと落ち着かない。
普段はしないアイライナーも薄く入れて、透明のマニキュアも塗った。
少しの変化でも見逃さない同じ課の紗英さんが、今日は日帰りの出張で助かった。
彼女がいたら、今日はどうしたの?デート?と詮索されていたに違いないから。
二階堂先輩とは7時にお店で待ち合わせをしている。
2人でよく行くイタリアンのお店だ。
6時を少し回ったところで帰り支度をして会社のエレベーターに乗り込んだ。
12階のオフィスから1階のエントランスまで下りる途中、8階でエレベーターが止まった。
そして、扉が開くと、目の前に道明寺が立っていた。
チラッとあたしを見た後、無言でエレベーターに乗り込んできた。
そして、2階のボタンを押しエレベーターが動き出すと、
「帰るのか?」
と、聞いてくる。
「うん。」
「早ぇーじゃん。」
「二階堂先輩と会う約束してるから。」
そう答えると、
「……ふぅーん。」
と、ポケットに手を入れてあたしを睨む。
この人はどんだけ二階堂先輩にコンプレックスがあるのだろうか。
自分と比較されて嫌な思いをしてきたからか、先輩の名前を出すと露骨に嫌がる。
睨んでくる道明寺を、
「何よっ。」
と、見上げると、
真上からあたしの顔をじっと見た後、
無言で視線を逸らす。
そして、エレベーターが2階に着いた。
扉が開き道明寺が降りていく間際、この人は捨て台詞を言い放つ。
「化粧、濃すぎだぞ。」
「っ!酷っ!
ねぇー、ほんと?変?」
いつも一緒にいる道明寺がそう言うんだから、今日のメイクはやりすぎだろうか?
急に不安になって道明寺の後ろ姿にそう聞き返しても、無情にエレベーターの扉は音を立てて閉じる。
1人残されたあたしは、
「ほんと、ムカつく。」
と、せっかくのデート前なのに悪態をつく羽目になった。
………
二階堂先輩とのこういう関係はもう3年ほど続いている。
先輩が司法試験に合格してから、職場も近いこともあり、仕事帰りに2人で食事に行くことが多くなった。
先輩と過ごす時間はあたしにとって有意義でご褒美のような時間。
ポジティブで勉強熱心な先輩の姿にはいつも尊敬させられる。
いつものように食事をして、近況を話し合い、2人で過ごす時間はあっという間に過ぎてしまった。
いつもならここでタクシーに乗り帰路に着くのだが、今日は先輩があたしに言った。
「いいお店、見つけたんだ。もう一杯飲みに行こうか。」
先輩と食事をするようになってから、こういうのは初めてだ。
「…はい。」
いつもと違う雰囲気に戸惑いながらも、もう少し先輩と一緒にいられる…そう思いながらあたしは返事をした。
カウンターのみの小さなバーに移動したあたしたち。
今日の先輩はいつもとなんだか違う。
どんな風に?そう聞かれるとうまく答えられないけれど、なんとなく……距離が近いような気がする。
「酔ってます?」
そう聞くあたしに、
「つくしちゃんももっと呑んでよ。」
と、答えにならない返事をして、あたしの肩に手を回す先輩。
自分のお酒の許容範囲は自覚している。
いつも滋さんの部屋で飲む時以外は、2杯以上は呑まないと決めている。
一度、ある年の忘年会で酔い潰れて、たまたま近くで呑んでいた道明寺に部屋までタクシーで送って貰ったという失態をやらかした事がある。
タクシーの中で眠ってしまったあたしを、道明寺が部屋までおんぶで連れて行ってくれたらしく、今でも事あるごとに愚痴られる。
まさか、そんな姿を二階堂先輩には見せられない。
だから今日も大人しくお酒は2杯までを守ったあたしは、少し足取りが重い先輩の腰に手を回し、タクシーがつかまる表通りまでゆっくりと歩いていた。
すると、先輩が
「つくしちゃん、今週末なにか予定ある?」
と、突然聞いてきた。
「週末ですか?」
「うん。金曜から土曜にかけて。」
金曜は定時まで仕事だが、そのあとは特に予定もないし、土曜は仕事も休みだ。
「別に…ありませんけど?」
そう答えたあたしに、
先輩は思いがけない事を言った。
「水曜から大阪に出張なんだ。仕事は金曜の昼で終わり。
金曜の夜から暇だから、大阪に来ない?」
「…え?」
言われている意味がいまいち分からないあたしは、首を傾けながら先輩を見上げる。
すると、突然、
あたしの唇にチュっと音を立てて何かが触れた。
キ、キスっ!
「せっ、先輩っ!」
あまりに驚いて大きな声を出すあたしに、先輩はクスクス笑いながら、
「相変わらず、反応が可愛いねつくしちゃんは。」
と、あたしの頭を撫でる。
「先輩っ、酷い、からかわないでくださいっ。
もうっ、酔ってます?」
「全然、酔ってないよ。」
「いや、完全に酔ってますっ!
さぁっ、帰りましょう。」
楽しそうに笑っている先輩を引きずるようにして表通りまで急ごうとするあたし。
そんなあたしの手をグッと先輩が掴んだ。
その手の強さに、驚いて先輩の顔を見上げると、
今度は真面目な顔であたしに言った。
「金曜の夜、大阪で合流しよう。
一泊して、土曜日はゆっくりしてこよう。」
⭐︎4話につづく⭐︎
………
エピローグ
月曜から残業だわ。
そう心の中で愚痴をこぼしながら2階にあるカフェテリアに行くと、カウンターでコーヒー待ちの司が立っていた。
相変わらず、無駄にかっこいいわねあいつは。
周囲の女性社員も、チラチラと司を盗み見ているのが分かる。
当の本人はそんな事も気にしない様子で、なぜか不機嫌そうだ。
声をかけたらとばっちりを喰らうかもしれないが、司をからかう事が生き甲斐のあたしは黙っていられない。
「司、お疲れ。」
「おう。」
「なに?ご機嫌斜めなの?」
「あ゛?」
どうやら、かなり機嫌は悪いらしい。
司のコーヒーが運ばれてきて一口飲んだあと、
「残業か?」
と、あたしに聞く。
「うん、少しね。」
そう答えながら、残っている仕事の内容を計算して、
「仕事終わったらうちに集まる?」
と、言ってみる。
すると、
「…あいつ、帰ったぞ。」
と、ぶっきらぼうに言う司。
「ん?つくし帰ったの?」
「ああ。さっきエレベーターで会った。」
「へぇー、早いわね。」
まだ、7時にもなっていないのに。
腕時計を見ながらそう思ったあたしに、司はコーヒーを片手に
「二階堂と会うらしい。」
と一言言ってカフェテリアを出て行く。
ははーん、そう言う事ね。
司が不機嫌な原因は、二階堂先輩って訳ね。
彼が絡むと機嫌が悪いのよね司は。
その理由はどうしてか…って事までは、面倒くさいから詮索しないでいてあ.げ.る。
end
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今回のお話は、いつも最後に滋ちゃんのエピローグ付きです。どうぞお楽しみください
コメント
初めまして。明けましておめでとうございます
司一筋さんが書く司が大好きです。
My teacherは先生という設定が斬新で面白かったけど今回の作品も、お馴染みの3人が同僚という設定にワクワクしてます。
司とつくしの展開が楽しみです‼️