イツモトナリデ 1

イツモトナリデ

パソコンと睨めっこをしながら残業2時間。
カチカチに凝った肩と背中。それをほぐすように両手を上げて伸びをしていると、デスクの上の携帯が赤く点灯した。

画面を開くと、
「まだ仕事中?先にお酒呑んでるわよ。」
と、親友からのメール。

「約束なんてしてた?」
クスッと笑いながらそう呟いたあたしは、

「お腹すいた。なんか食べるものある?
買って行こうか?」
と返信。

すると、数秒後に
「司が持ってきてくれてるから手ぶらで来て。」
と返事が返ってきて、あたしは鞄とコートを手にしてオフィスを足早に出た。

オフィスから徒歩で10分ほどの高層マンション。
ここに、あたしは仕事帰りに月に5.6回は通い詰めている。

部屋の前でチャイムを鳴らすと、
「はいはーい。」
と出てきたのは、お気に入りのルームウェアに身を包んだ滋さん。

あたしを見るなり、
「遅かったわね。」
と、言う。

「滋さんが早いのよっ。残業しなかったの?」

「しないしないっ。
週末の金曜に残業なんてしてらんないわよ。」

同じ会社に勤めているのに、この違いはなんなんだ…。
そう思いながらリビングへ行くと、もう一人残業なしで寛いでいる人がいる。

「おせぇ。」

「しょうがないでしょ。それに、今日集まってるなんて聞いてないし。」

「週末にチンタラ仕事してんじゃねーよ。」

「あのねー、あたしはあんたの為に働いてるって言っても過言じゃないのよっ。
道明寺HDの社員は結局は道明寺家のしもべって事でしょ。
あたしが残業して働いてるのをご苦労様って褒めるのが礼儀ってもんよ。」

あたしはリビングのフカフカの絨毯の上に腰を下ろしながら道明寺にそう愚痴る。

あたしたち3人は、部署は違うが3人とも道明寺HDの社員なのだ。
あたしは経理課、滋さんは総務二課、道明寺は営業課。
縁あって英徳大で知り合ったあたしたちは、揃いも揃って道明寺HDに就職した。

道明寺は自分の家だからもちろん当たり前なのだが、滋さんは大河原家の1人娘、親の会社に就職するものとばかり思っていた周囲の予想に反して、
「社会経験を積んで来い。」
父親のその一声で就職活動をする羽目になり、見事道明寺HDで働く事が決まった。

そして、彼らとは一歳下のあたしは就職難の中、第一志望と第二志望の会社には呆気なく不採用となり途方に暮れていた2月の終わり、なんの気無しに受けていた道明寺HDから採用通知が届き、大喜びで就職浪人を免れたのだ。

社会人になって5年目。
職場も同じあたしたちは、こうしてよく3人で集まって時間を過ごす事が多い。
学生時代には考えられない事だ。

誰もが認める財力と容姿で道明寺は英徳では超有名人だった。
女子生徒にはキャーキャーもてはやされていたけれど、口を開けば横暴だし、態度も横柄だし、出来れば関わりたくない存在ナンバーワンだった。

そんな道明寺にも唯一頭が上がらない人がいて、
その人こそがあたしの憧れの先輩、
二階堂 倫也さん。

有名な二階堂法律事務所の一人息子で、道明寺とも小さな頃から親交があり、家族ぐるみで仲がいい。
反抗期真っ只中だった道明寺が父親に勘当されそうになったのを、温厚で面倒見のいい二階堂先輩が救ったと言うのは有名な話しらしい。

あたしが高校1年生の時に二階堂先輩は3年生で、クラスの子から悪質ないじめを受けていたあたしを守ってくれて、それがきっかけでよく話すようになった。

優しくてカッコいい先輩。
好きにならない方がどうかしている。

知り合った高校一年生の時からずっと、
あたしは二階堂先輩に片想い中。

3年前に司法試験に合格した先輩とは、月に1回、いや最近は頻繁に連絡を取り会っている。
あたしの好意はもうバレているだろうから、それでもこうして連絡をくれるということは、もしかしたら脈ありなのか?なんて少しだけ期待したりなんかして。

そんなあたしを滋さんはいつもからかう。
「食事した時に、少し多めにお酒でも呑んで、酔ったフリして押し倒しちゃいなさいよ。」

「そんな事、出来るわけないでしょっ。」

「なんでー?性格は合ってる2人なんだから、あとは身体の相性だけでしょ?」

2人だけの時ならまだしも、道明寺がいるのにこういう事を平気で言う滋さん。

今日も1時間ほど他愛のない会話をしてお酒を呑んでいたあたしに、滋さんが一冊の雑誌を渡してきて言った。

「特集記事につくしの彼氏が載ってるわよ。」

「は?彼氏?」

「二階堂さん。」

「彼氏じゃないからっ!」

慌ててそう否定しながらも、あたしの手は雑誌のページを素早くめくる。
すると、注目の若手弁護士という特集欄で二階堂先輩がお父様と一緒に写真付きで載っていた。

スーツ姿でカメラに微笑んでいる写真は、相変わらずカッコいい。
見ているだけで顔が緩んで頬が赤くなるのは、お酒のせいじゃないだろう。

火照ってくる自分の頬をパタパタとあおぐ仕草をしたその時、テーブルに置いてあったグラスに手が当たってしまい、グラスが倒れて中のお酒があたしの足に豪快に溢れてきた。

「あっ!やっちゃった!」

「もぉー、つくしー、大丈夫?
怪我してない?今タオル持ってくるからっ。」

急いでキッチンへ行く滋さんに、
「ほんと、ごめーん。」
と、大声で声をかける。

そんなあたしに、ソファにふんぞり返りながら
「バカか、おまえは。」
と、可愛くない事を言った後、

道明寺は、あたしの手から二階堂先輩が載っている雑誌を奪った。

2話へつづく

⭐︎エピローグ⭐︎

残業で遅くなっているつくしを待っている間、司が持ってきてくれたチーズとクラッカーをお皿に並べていると、リビングのソファに座っていた司が何やら手に持ち出した。

それは、昨日たまたま本屋で見つけた雑誌。
つくしに見せてあげようと思って買ったのだ。

中には特集記事で二階堂さんが載っている。
つくしの長年の想い人。

その雑誌を真面目な顔でじっくり読んでいる司を見ながらあたしは思う。

色んな意味で優秀な「兄」を持つと大変ねあんたも。

end

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コメント

  1. はな より:

    新作!新作!!嬉しいです!!

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