半年後。
俺は日本に戻って来ていた。
義兄にNY支社を任せる事にして、最近の俺はババァの下で事務仕事や書類作成をして働いている。
「一つ聞いてもらいたいことがある。」
半年前にババァにそう言った俺。
その内容にババァは俯いてしばらく考えた後、
「しょうがないわね、全く。」
と、ソファに背中をドンと預けて天を仰いだ。
どこまで行っても親不孝でわがままな息子だということは自覚している。
だから、今回ばかりは
「ありがとうございます。」
と、心から頭を下げた。
牧野にはいつ言おうか。
きちんと、準備が整ってから言いたい。
そうしているうちに半年が過ぎてしまい、
ようやく、待ちに待った書類が手元に届いた。
すぐにでもそれを牧野に見せたいと思っていたけれど、今日はそれ以上に大事な用事がある。
俺の手には結婚式の招待状。
差出人は、
河野良幸と北川さなえ。
これが届いた日、驚きと共に、「マジかよ…」と笑わずにはいられなかった。
この2人は、忘れもしない、あのラブホテル未遂事件のあいつらだ。
まさか、あれから6年後に2人が結婚するとは誰が予想していただろうか。
白百合学園の超お嬢様だった北川と、星稜高校のスポーツバカな河野。
ホテル未遂事件の後も、きちんと愛を育んでいたようだ。
結婚式の招待状をもう一度眺めながら、
「俺より先を超しやがって。」
と、呟いて俺は車に乗り込んだ。
……………
式場は都内のホテル。
親族や会社の同僚、友人など200名くらいが集まる立派な式。
俺と牧野も、お互い白百合学園と星稜高校の関係者の席に招待されている。
式が始まると、懐かしい顔ぶれが勢揃いだ。
俺が担任を持っていた頃の白百合学園の卒業生たち、一緒にボランティア部で活動したメンバー、星稜高校のバレー部員の大男たち。
奴らの顔を見ていると、あの頃の思い出が一気に蘇る。
半年前の俺だったら、きっと、懐かしさと羨ましさを感じていただろう。
式が終わり、二次会のパーティーへと人が流れていく。
ここから先は若い奴らだけで充分だ。
牧野に「帰るぞ。」と、目で合図を送り式場を出ようとしたその時、
「道明寺先生ーーー!」
と、黄色い声が響いた。
振り向くと、白百合学園の卒業生たち。
「お久しぶりです!お元気でしたか?」
「海外にいるって聞いてましたけど?」
「道明寺先生が道明寺HDの御曹司だったなんてっ!」
あっという間に10人ほどに囲まれた俺。
そこに星稜高校のバレー部員たちも合流して、
「道明寺先生だぁーーー!」
「お久しぶりっす!」
「相変わらず、イケメンですねっ。」
と、大騒ぎ。
「おまえらっ、うるせーぞ。
二次会に行くんだろ?さっさと移動しろ。」
「道明寺先生は行かないんですか?」
「俺はいい。
若い奴らで楽しんで来い。」
「えええーーー!
行きましょーよ。せっかく久しぶりに会えたのにぃー。」
奴らに絡まれている俺を横目に、牧野はさっさと会場から出ようとしている。
ちょうどいい。
奴らに教えてやるか。
「牧野っ!」
俺は式場から出ようとしている牧野を呼んだ。
振り向いて固まる牧野に、
「おぉー、つくしちゃん。
今日は一段と女らしいじゃん。」
と、バレー部員たちがからかいながら、こっちに連れてくる。
今日の牧野はノースリーブのワンピース。
肩にショールをかけているとは言え、露出された肌に奴らが触れるのはムカつく。
あっという間に生徒たちに囲まれた牧野を、俺は自分の方へ引き寄せる。
「先生たちも二次会行きましょうよ。」
「俺らはこれから別の用事があるから行かねーよ。」
そう言いながら牧野に目配せすると、
「なんでですかー。
もしかして2人でどこかに消えるとか?」
なんて、ひやかす生徒たち。
冗談で言ってんだろうけど、本当のことを教えてやったらどんな顔をするだろうか。
牧野には怒られるかもしれねーけど、こいつらの驚く反応も見てみたい。
「ここから先は2人で過ごすから邪魔するな。」
「…えっ?」
俺の言葉に固まる生徒たちと、何を言い出すのかと驚いて俺を見る牧野。
そんなこいつらに爆弾投下。
「半年後、またこのメンバーで会えるから心配すんな。」
「…半年後…ですか?」
「ああ。
半年後の俺らの結婚式におまえらも招待してやる。」
「……ええええぇーーーー!!」
そんな、生徒たちの悲鳴とも言える大声に、式場にいた招待客が一斉に俺らをみた。
……………
結婚式の帰りの車中。
さっきから牧野が俺を睨みながら怒っている。
「付き合ってる事も内緒なのに…。」
「どうせ、半年後には道明寺の姓を名乗るんだからバレるだろ。」
「そーだけど。
同僚の先生たちにも知られちゃったから、明日から質問攻めに合うだろうなー。」
牧野との結婚の準備は着々と進んでいる。
半年後、メープルのチャペルで式を挙げた後、ようやく俺たちは夫婦となる。
「今日の結婚式、あいつららしくて良かったな。」
「ほんと、そうだね。
フフフ……」
「なんだよ、何がおかしい?」
突然、思い出したかのように笑う牧野。
「だって、未だにあの子達、道明寺先生って呼んでるんだもん。」
「おまえだって、時々そう呼ぶじゃん。」
「うん。なんか、クセになっちゃって。
そろそろ、辞めないとね。」
最近、ようやく名前で呼んでくれるようになったけど、
時々、不意打ちで牧野が「道明寺先生」と呼ぶ心地良さは堪らない。
そして、これからはそれを思う存分味わえると思うと、マンションまで待ちきれずに俺は路肩に車を止めた。
「どしたの?」
急に車を止めた俺を不思議そうに見つめる牧野。
そんなこいつに、俺は後部座席に置いてあった大きめの封筒を手渡した。
「ん?なに?」
「開けてみろ。」
俺がそう言うと、封筒の中を覗いた後、中に入っている書類を見る牧野。
そして、たっぷり1分ほどその書類に目を通した後、俺を見て言った。
「これって…、戻ってくるって事?」
「ああ。」
「いつから?」
「4月から。」
その答えに、じわっと涙を浮かべる牧野。
「なんだよ、その涙は。
嬉しいのか?悲しいのか?」
「嬉しいに決まってるでしょ!」
そう言って、牧野が俺に抱きついてくる。
そんな想像以上の反応がめちゃくちゃ可愛い。
「クスっ…。
これからは、思いっきり道明寺先生って呼んでいーぞ。」
牧野の手の中にある書類。
それは、白百合学園でまた教師として働く事が正式に認められた通知書。
義兄に言ったあの言葉、
「1番好きな仕事は何か。判断基準はただそれだけ。」
それをそっくり自分に問いてみたら、答えは簡単だった。
俺の天職はやっぱり「教師」だ。
そこが間違いなく、俺が1番輝ける場所。
「牧野。」
「ん?」
「また、教師に戻る事にした。
給料は今の三分の一になるけど、結婚してくれるよな?」
「プッ……、当たり前でしょ、道明寺先生。」
FIN
お付き合いありがとうございました!

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コメント
電子書籍で花男一気買いしてから熱が冷めずついに二次創作を検索するに至ったのですが、どれもこれも素敵な作品で一気読みしてしまいました!これからも更新を楽しみにしております。
ありがとうございます!
頑張って更新していきたいと思います。