牧野の両親をロビーまで送ったあと、ババァのオフィスに戻ると、牧野とババァと長塚氏がさっきまでの場所に座っている。
が、牧野の様子がおかしい。
「牧野になにしたんだよっ。」
明らかに涙目になってる牧野を見て、俺は頭に血がのぼる。
「道明寺っ!」
牧野が止めるのも聞かず、俺はババァに怒鳴った。
「なにしたっ!答えろっ。」
すると、それを見ていた長塚氏が、プッ……と吹き出し、
「うわさ通りですね。
牧野さんのことになると、回りが見えなくなる。」
「あ?」
長塚氏にまで睨みをきかせた俺に、ババァが
「いいかげんにしなさいっ!
私は牧野さんに、これを渡していただけです。」
そう言って、小さな箱を指差した。
それは、俺たちが結婚したときにババァが牧野に渡した、道明寺家代々受け継がれている指環だった。
「道明寺、いいからここに座って。」
牧野が俺の腕をとって隣に座らせる。
「離婚した時に私からお母様にこれをお返ししたの。それを、もう一度受け取ってほしいって言って下さって……。」
そういうことかよ。
事情を把握した俺が急に黙り混むと、
牧野が、
「あのー、ひとつ聞いてもいいですか?
もしも、もしも道明寺が誰か他の人と結婚したいって言ってきたらどうするつもりだったんですか?
その時は、私達を離婚させるつもりだったんですか?」
「そんな話し有り得ねぇよ。」
「いいから道明寺は黙ってて!」
「フフ……、牧野さん、司の言うとおり、それは有り得ない話だと私は思ってました。
司はあなたのことを心から愛してた。
そう、体に刻まれた証拠があるそうですからね。」
「あ?…………総二郎のやろうっ!」
俺のタトゥーをババァにばらしたか、あいつは。
「何のことです?西門さんは関係ありませんよ。」
「じゃあ、なんで知ってんだよっ。」
俺の問いにチラッと視線を長塚氏に移したババァ。
その時、ふと今まで引っ掛かってた疑問がスルスルと、絡まったヒモがほどけていくように解けていく。
「…………もしかして、NYの店で?」
長塚氏にだけわかる問い。
「お久しぶりです。
あの時は、こんな風にご縁があるとは思っていませんでした。
あなたにそこまで想われている女性はどんな方なのかと思っていましたが、想像以上の方でしたよ。
お似合いのお二人です。どうぞ、お幸せに。」
そう言って俺らを見つめて長塚氏が笑った。
俺のオフィスに戻った俺らは、深々とソファに体を沈みこませた。
「なんか、色んなことがありすぎて、すごく疲れちゃった。」
「……だな。」
「早く家に帰って、ゆっくりしたい。」
牧野のその言葉に俺はガバッと跳ね起きる。
「おいっ!そうだよ、俺たち夫婦なんだよなっ。
一緒に暮らすんだよな?
どうする?新しくマンション借りるか?
それとも、思いきって家でも建てるか?」
顔がにやけるのを抑えらんねぇ。
それなのに、
「いや、このままでいいんじゃない?
どうせ、隣のマンションなんだし。
ちょっと厚い壁があると思えば、一緒に暮らしてるようなもんじゃない。」
「ふざけんなっ!どこがあれで一緒に暮らしてるって言えるんだよっ。
俺は認めねぇ!一緒に住むぞ。」
「だから、そんなに急じゃなくてもいいでしょ。仕事だって忙しいんだから、お互い時間のあるときにゆっくり物件探しでもしよう、ね?」
「おまえは、そうやって独身気分をまだ味わいてーのかよ。
キョトキョトしやがって。
忘れるなよ。俺らは夫婦なんだからなっ、夫婦!
他の男と出掛けるだけでも、浮気だからな。」
「よく言うよっ!あんたにだけは浮気とかっていってほしくないから。バカ道明寺っ。」
自分で墓穴を掘って、更に牧野も怒らせるという大失態。
それでも、
「おまえも、浮気してんだからな。
キス!他のやつとキスしたんだろ?
誰だよ。言えっ。
そのキスだって夫婦期間中のだから、れっきとした浮気だ。」
「アホらしいっ。あたしはあんたと離婚したと思ってたから自由に行動してただけ。
文句言われる筋合いないし。文句ならお母様に言って。」
「……とにかく、一緒に暮らすぞ。
それは譲れねぇ。」
「自分勝手っ。横暴っ。わがままっ。」
隣に座る俺を上目使いで睨み付けるこいつ。
「……おまえはそれでいいのかよ。」
「なにが?」
「……おまえは、平気か?
俺と一緒にいなくても…………。
ここ数日、おまえとメープルに泊まってずっと一緒にいて、……俺はもうおまえと離れるのは無理だ。
おまえと一緒にいてぇ。」
男がこんなこと言うのは情けねぇってわかってる。
けど、おまえと一緒にいれるなら、いくらでも情けねぇ男になってやる。
「おとなしく俺のそばにいろよ。」
牧野の頬に手を添えて、愛しい女に囁くと、
「しょうがないから、…………いてあげる。」
はにかんで、それでもまっすぐ俺を見つめて言ってくる牧野に、
俺は、今も昔も変わらず、
「おまえだけを愛してる。」
そう、永遠の愛を誓う。
Fin
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最終話までお付き合いありがとうございました。
コメント
私はこのお話が大好きです。
司の浮気って珍しいし、その後の展開も好きなんです。最後の落ちもきれいですよね!
また忘れた頃にもう一度読ませて頂きます!
ですので消さないで下さいね~!
よろしくお願い致します。