とにかく頭を整理させたい。
そう思った俺は、
「少し考えさせてくれ。」
そう言い残し、ババァのオフィスを出た。
廊下を歩いていると、牧野も後ろからちょこちょこと付いてくる。
そして、自分のオフィスに入ると、俺はソファに深く体を預けて、目を閉じた。
俺と牧野は離婚していなかった。
騙されたとはいえ、俺は牧野と離婚したくなかったんだから、良かったんじゃねーのか。
それに、お互いの親も認めてる。
けど、だけどよ…………。
俺が黙って目をつぶったまま動こうとしねーからか、牧野が
「道明寺」と俺の腕をつついてくる。
それでも、無視していると、
「道明寺、怒ってるの?」
そう言って俺の手のひらをこちょこちょとくすぐるこいつ。
「ねー、道明寺?道明寺さーん。」
「…………。」
「黙ってないでなんか言ってよー道明寺。
司さーん、司くーん、こらっ司!」
気配でわかる。
俺の顔の前に至近距離で近付いてきてる牧野。
「もうっ、目開けてよ。開けてくれないと、帰っちゃうよっ。」
そう言って俺から離れようとする牧野を俺は捕まえて
「バカ女、逃がさねぇ。」腕の中にとじこめた。
いつになくおとなしく俺に抱かれたままの牧野。
「なぁ、…………おまえはいいのかよ。
俺と別れたかったんだろ?
こんな風に騙されてたってわかって、怒ってねぇのかよ。
…………なんでおまえはヘラヘラしてんだよ、バカ女。」
唯一、離婚したかったのはおまえのはずだ。
だから、この結末はおまえが望んだものとは違ったはずだ。
それなのに…………。
「だって、…………しょうがないじゃない。」
小さく呟く牧野の声。
しょうがない。
確かに、そうかもしれねえ。
おまえにとって、俺らが結婚してたってことは、
しょうがない事実。
すると、
「嬉しいんだもん。」
そう言って、牧野がクスクス笑いだした。
「あ?」
不機嫌な声で聞く俺に、
「あたし、今、すっごく嬉しいの。
だって、あたしたち離婚してなかったんだよ?
ほんと、すごいっ、お母様。」
そう言ってまたクスクス笑ってやがる。
俺はゆっくりと抱きしめてた牧野の体を離し、正面から向き直った。
「ってことは、おまえはババァを許すってことか?」
「うん。」コクンと頷く。
「訴えることもしない?」
「うん。」コクン。
「俺らは夫婦ってことでいいんだな?」
コクン。
はぁーーーー。俺は全身から力が抜けて、長く深い息を吐く。
それを勘違いした牧野が、
「なによっー、嫌ならいいっ!
今からでも籍抜く?」
相変わらずかわいくねぇ。
「アホかっ。ふざけんな。
すげー、安心したんだよ。おまえがババァを許すって言ってくれて。
俺がおまえと夫婦だったって聞いて、嬉しくないわけねーじゃん。」
俺がそう言うと、珍しく牧野から俺に抱きついてきて胸に顔を埋めてくる。
そして、くぐもった声で
「道明寺、好き。大好き。」
そう聞こえた。
こいつからのこんな台詞は超レアだ。
「離れろよ。」
「やだっ。」
「いいから、離れろ。」
「やだって。」
「おまえわざとだろっ。キスできねーから離れろって。」
「だから、ダメだって!」
夜まで待つって言ったばかりなのに、一度味わっちまうと離れらんねぇ。
夫婦なんだから、いいだろ?

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コメント
夫婦なんだからいいだろ?
このセリフ良いですね!!見事にハマります!!