「道明寺をもう一度下さいって言いに行く。」
そこらの男よりも男前の俺の彼女。
今、道明寺HD日本支社のエレベーターに乗り、俺と一緒にババァのオフィスに向かおうとしている。
朝、ベッドの上でババァに会いに行くと決めてすぐ、俺は西田に連絡を取った。
そして、いつでも構わねぇから今日中にババァに時間を取ってもらえるよう頼むと、すぐに返事が来た。
『午前中ならいつでも』と。
それを聞いて、俺は牧野と一緒に出社することにした。
マスコミがホテルの外にも、会社の前にも張り込んでいたが、こういう事態を想定してどちらにも関係者以外知られていない出入口がある。
そこを利用するのははじめてだったが、こんなときでも牧野は、
「芸能人とかってこういう出入口使ってんのよねー。」って呑気なことを言ってやがる。
でも、さすがにエレベーターに乗り込んでからは、緊張してんのか無口になり下を向いたままのこいつに、俺はそっと手を握った。
「大丈夫だ。」俺がそう呟くと、
「うん。……お母様に会うの6年ぶりだから」
小さく答えた。
ババァのオフィスをノックすると、中から
「お入りなさい。」と声がする。
俺が先に部屋に入り、あとに牧野が続くと、
デスクからババァが立ち上がり、応接セットのソファに手を向け、「そちらに」と言った。
言われるがまま俺はソファに座ったが、牧野はその横で立ったまま動かねぇ。
「牧野?」
そう俺が声をかけると、
こいつはまっすぐにババァを見て、
「ご無沙汰しておりました。」
そう言って深く頭を下げた。
「牧野、いいから座れ。」
俺が牧野の腕をつかみ座らせようとしたとき、
テーブルを挟んで向こう側に立っていたババァが、ゆっくりと俺らの方に近付いてきて、牧野の側に立ったかと思ったら、次の瞬間、
ババァが牧野のことを抱き寄せた。
「元気そうでなによりです。」
「…………はい。」
戸惑いながらも牧野が答える。
「6年ぶりですね。」
「……はい、本当にご無沙汰してしまって。」
「無理もないです。甲斐性のない息子のせいで……」
「おいっ!いかげに離れろっ、ババァ!」
ちけーんだよっ!
女だろうと牧野に触るやつは許せねぇ。
俺でさえ、昨日やっと腕の中に閉じ込めたっつーのに、6年ぶりのババァが気安く触るなっ。
「ちょっと!道明寺っ。」
強引にババァから引き離した牧野を、俺のすぐ隣に座らせると、牧野は抗議の声をあげるがかまっちゃいねえ。
「感動の再会は終わりだ。
ババァ、いや、社長に話があります。」
ようやく正面のソファに腰をおろしたババァに俺は切り出した。
「牧野とも相談したけど、マスコミにきちんと交際を認める文書を出そうと思ってる。
早ければ今日中に。
どちらにしても騒ぎが長引くなら、堂々と交際を認めて付き合っていきたい。」
「牧野さんはそれで了承を?」
「はい。わたしも同意見です。」
「わかりました。
…………ただ、条件があります。
文書ではなく会見を開きます。わたくしが。」
「あ?どういうことだよ」
文書を出すことでも、会社にとってどんな影響があるかわかんねぇのに、会見を開く?しかもババァが。
「このままでは、騒ぎが落ち着きそうにありませんし、私が直接お話しすることで、自分の娘との縁談を目論んでいる方たちへの牽制にもなります。
母親自ら会見を開くんですから、牧野さんのことを道明寺家が認めていると示すことが出来るんじゃないかしら。
それとも、あなたたち二人はそこまでの想いはないとか?」
からかうように俺らを見てくるババァ。
あるに決まってんだろっ。
今すぐにでも結婚してぇと思ってる。
俺がそう言おうとした時、
「いえ、覚悟は出来ていますっ。
もう一度、あたしたちにチャンスを頂けますか。道明寺をあたしに下さい。
結婚させて下さい。」
牧野がでけー声でそう言った。
それを聞いてババァが綺麗に笑う。
「あなたのそういうところ、変わらないわね。
バカな息子ですけど、やっぱり牧野さんじゃないとダメみたい。
こちらこそ、もう一度このバカ息子にチャンスを与えてくれて感謝してます。」
俺をのけ者にして二人の会話が続いていく。
バカバカ言われて腹が立つけど、心地いい。
「午後からメープルで会見を開きます。
牧野さん、悪いけどこのオフィスで会見をご覧になって下さるかしら。
長塚先生にも同席してもらいます。」
「えっ?長塚先生って……」
「そう、牧野さんのところの長塚弁護士です。
会見の内容上、色々問題があるかもしれませんので、長塚先生にお任せしてますので。」
「…………はぁ。」
ババァの何か含みのある言い方が少し気になったが、
「では、会見の用意があるので、いいかしら?」
と、話を畳まれて俺らは部屋を出た。
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