My teacher 30

My teacher

「少し考えさせてくれ。」
道明寺先生はそう言ってあたしのマンションをあとにした。

3週間後にはNYに帰る。
それまでに、あたしはどれだけ彼に好きだと伝えられるだろうか。
そして、彼がどんな答えを出すのか……。

考えるだけでソワソワと落ち着かず、もう1時間近くベッドの上で座り込むあたし。
そんなあたしの携帯が短く鳴った。

今時珍しくショートメールだ。
開けてみると、
「着信18件には驚いた。携帯繋がらなくて悪かったな。」
と、道明寺先生から。

あたしは、今日1日で道明寺先生に18回も電話していたのだ。
自分の必死さに笑えると同時に、褒めてあげたくもなる。
こんなに恋愛に対して積極的になれる自分がいたなんて…。

もう一度、道明寺先生からのショートメールを見つめた後、
あたしは思い切って文字を打つ。

「次、いつ会えますか?」

送信してから、布団に潜って膝を抱える。
考えさせてくれって言われたのに、迷惑かな?
付き合ってもいないのに、強引?

送らなければよかったと、すぐに後悔して布団の中でバタバタと暴れていると、また携帯が短く鳴った。
急いで開くと、

「ミュージカルのチケットを貰ったから、明後日行くか?」
と。

予想もしなかった道明寺先生からの返事に、
「えっ、えっ、明後日会えるの?
行くっ!行きますっ!」
と、1人大きな声で叫んでいた。

………

2日後。
仕事を終えて急いでシャワーを浴びた後、約束の劇場へとタクシーに乗った。

いつもなら電車か車で行くけれど、今日は違う。
なぜなら、あたしの今日の服装は膝丈のワンピースと慣れないヒール靴。

少しでも可愛く、少しでも女らしく見えるように、
昨日、優紀に付き合って貰ってデパートで買ったのだ。

タクシーを降りて劇場の中に入ると、公演30分前で徐々に混み合ってきていた。
道明寺先生の姿はない。
エントランスホールの隅にある壁に寄りかかり人の流れを見ていると、しばらくして長身の道明寺先生がロビーに入ってくるのが見えた。

グレーのジャケットに黒のパンツ。
そのかっこ良さに周囲が振り返るほどだ。

キョロキョロとあたりを見回した後、あたしに気付いて近づいてくる。
そして、あと10メートル…というところまで来て、道明寺先生はあたしから完全に視線を逸らして、こめかみをグリグリと押さえる仕草をした。

あ……、やっぱりあたし、
こんな格好して、似合ってないんだ。

そう分かると、急に恥ずかしさが込み上げてくる。

「遅くなってわりぃ。」

「うん。」

お互いまともに目を合わさないまま、そう会話をしたあたしたちの頭上で、
「お待たせいたしました。開演10分前です。」
と、アナウンスが流れた。

………………

道明寺先生に促されるまま座った座席は、一般の客席とは階が違い、多分VIPしか入れない場所。
周りにいる人たちも見るからに品が良く、場違いなのはあたしだけじゃないかと緊張してくる。

それに追い討ちをかけるように、周囲の女性たちの美しさが目に入る。
すらりとした手足を惜しげもなく見せた服装に、ツヤツヤの髪、指先まで整えられたネイル。

それに比べて、あたしは相変わらずショートカットだし、職業柄ネイルなんて何年もしていない。

咄嗟に後悔しながら俯く。
もう少し濃いめのリップでも付けて来れば良かった。
ヒールをあと2センチ高くして、ロングスカートにすれば少しはスタイル良く見えたかもしれない。

道明寺先生がロビーであたしを見た時、視線を逸らした理由がなんとなく分かったような気がして、
あたしは開演間近の暗闇の中、着ていたジャケットを脱ぎ、自分の脚を隠すように膝に掛けた。

すると、
ミュージカルのパンフレットに目を通していた道明寺先生が、あたしを見て言った。

「寒いか?」

「ううん、大丈夫。」

その返事と共に、開演のブザーがなった。
幕が開く。
ドキドキしながら舞台を見つめるあたし。

その時、道明寺先生が急にあたしの膝からジャケットを取り、
「肩が冷えるから掛けてろ。」
そう言って、脱いだばかりのジャケットをもう一度あたしの肩に掛けた。

そして、今度は自分のジャケットを素早く脱ぐと、
「俺のを使え。」
と言ってあたしの膝にかける。

驚いて道明寺先生を見つめるあたしに、
小さく彼が言った。

「目のやり場に困る、バカ。」

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コメント

  1. はな より:

    最後の司君の言葉に、ホッ

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